マザーボード
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マザーボード(Mother Board、メインボード、Main Board)とは、電子装置を構成するための主要な電子回路基板。より小型のプリント板ユニットを子基板として搭載できるソケットなどを持つことからマザーの名がある。
MBまたはM/B、マザボなどと略され、大手メーカーのサービス関係では、プレナーボードやシステムボードと呼ばれることがある。Macintoshではロジックボードと称される。現在では、「マザーボード」というとPC/AT互換機用のものを指すことが多いため、以下の節ではPC用を解説する。
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[編集] 主なマザーボードの規格(フォームファクタ)
- AT(Advanced Technology):1981年、『IBM PC』が発売され、当初からオープンアーキテクチャとしてその互換機が一気に普及した。そして現在に至る大半のマザーボードの根幹は、IBMが1984年にPC/ATを発表しており、それをベースに設計されている。1990年代中盤までのマザーボードは、このATあるいはその小型版のBabyATが主流であった。当初はキーボード端子以外の殆どのI/Oポートは、RS-232Cなどの単体の機能を持つカードを拡張スロットに挿す事により使用していたが、チップセットの高集積化が進み、これらの機能がチップセットに内蔵されるようになると、マザーボードのコネクタから各種ケーブルを繋ぎ、ケースやスロット上に直接外部端子を取り付けなければならず、ケーブルがケース内で方々に錯綜するという煩雑さが目立つ様になる。
- ATX(Advanced Technology eXtended):現在の主流。1995年にインテルが提唱する。キーボードやマウス、RS-232Cやパラレルポート、USBといった、良く使う各種I/Oポートをマザーボード上に実装し、従来のATよりも扱いやすくしたもの。これら端子の位置はメーカーによって若干異なる事があるため、自作用など特定の製品には、独自のバックパネルが付属していることもある。また、MicroATXというATXからスロットを2~3本減らし小型化したものもある。MicroATXは小型のケースに収めやすいことから、メーカー製のPCで数多く採用された。これらは瞬く間に普及し現在までに至った。MicroATXを更に小型化したFlexATXもある。この規格と同時にATX電源の仕様も新たに策定された。ちなみにATX仕様のケースは、ATのマザーボードとは下位互換性を持たせてあり、バックパネルの交換により容易に流用出来る様になっている。
- BTX(Balanced Technology eXtended):2003年にCPUやビデオカードの熱問題を解消するため、PCケース内部の気流を考慮した設計として提唱されたが、CPUの熱問題がある程度まで解決されると余り普及せずに終わり、2007年には製造も中止される。MicroBTX、PicoBTXという小型版もある。
- DTX:2007年1月にAMDが策定を発表した規格。ATXに後方互換性を持ち、ATX用の本体ケースで用いることが出来る。小型版のMini-DTXもある。
- LPX(Low Profile eXtension):1990年代前半にウエスタン・デジタル社が提唱した、後のATXの原型ともいえる規格。各種I/Oポートを基板上に実装し、拡張スロットはライザーカードと呼ばれる、縦向きに拡張スロットを使用するための基板(中には寝かせて装着するものもあった)を、このマザーボード独自のスロットに挿す事により、横向きに3枚程度の拡張カードを装着出来る。そのためケースを比較的コンパクトに設計出来た。これらのマザーボードは低価格のPCに数多く採用された。
- Mini-ITX:2001年にVIAが提唱した、FlexATXに似た規格。しかし殆どにおいてはVIAのみで使われている規格である。自社のCPU『VIA C3』やグラフィックチップなどをオンボードで搭載し、静音PCや組み込み向けなどで使用される。更に小型化されたNano-ITXという規格もある。
- NLX(New Low Profile eXtended):LPXに似た規格だが、ネジ穴やI/Oの位置などの互換性は無い。インテル、IBM、DEC(現ヒューレット・パッカード)により策定されたが、極少数のメーカー製PCに搭載されただけで、それほど普及せずに消えてしまった。LPXと同じく、PCIなどの拡張スロットをライザーカードで使用する。
- WTX(Workstation Technology eXtended): 1998年にワークステーション向けとしてインテルが提唱。ATXの約2倍位のサイズで、主にサーバなどで普及している。これは複数個のCPUを搭載したり、数多くのメモリスロットやI/Oポートなどを備える必要があるためである。またサーバは高度なグラフィックス機能も不要なので、古い世代のビデオチップがボードに搭載されているケースも目立つ。
[編集] マザーボードの規格別サイズ一覧
[編集] マザーボードに搭載される主要コンポーネント
[編集] レガシーデバイス
[編集] ファームウェア
[編集] 主要メーカー
[編集] マザーボードの不具合問題
1990年代後半~2000年代前半までの非インテルチップセット(VIA、SiS、ALiなど)搭載のマザーボードは、不具合を抱える製品が少なくなかった。主にAGPビデオカードに相性問題が出ることが多い。これはAGPを提唱したインテルがPCIの様に公的な規格にしなかったことと、AGP初期~全盛期は動作が不安定とされていたWindows9xシリーズが主流OSであったことも一因であると思われる。また、サウスブリッジのIDEコントローラに不具合が出た製品もあった。今後、この時期の古いマザーボードを使う機会は減ってゆくと思われるが、ある程度はBIOSやデバイスドライバレベルで不具合を吸収しているとはいえ、万一この時期のチップセットを搭載した古いマザーボードを使用せざるを得ない場合は注意が必要である。
[編集] 不良コンデンサ問題
近年、マザーボードに使用されている電解コンデンサの品質にこだわる自作パソコンユーザーが増えている。これは台湾、中国製の電解コンデンサに粗悪な製品が多く、数ヶ月~2年前後で容量抜けや液漏れ、膨張や破裂を起こす製品が多いためである。これらの故障したコンデンサを放置したまま稼動させると、頻繁にリセットがかかるなど、PCの動作が極めて不安定になる。 CPUやグラフィックチップの高性能・高発熱化が進んだ今日、電解コンデンサはその大電流と高発熱、高周波のON/OFFによる電圧の変動(リプル)といった環境で酷使され、寿命が短くなる傾向にあるのも原因である。 この問題が噴出し始めたのは2001年頃で、台湾の電解液製造メーカーが不良電解液をコンデンサメーカーに供給し、そのコンデンサを搭載したマザーボードが不具合を起こす事が増えたためといわれている。その際、大手のメーカーはこれらの製品の回収・修理といった処置をしたが、知名度の低いメーカーはうやむやにしてしまった節がある。価格競争が激化し、やむを得ずコストダウンのために質の良くない廉価な部品を採用するといった背景も原因のひとつと考えられる。
日本メーカーによるコンデンサは概ね品質が良く寿命も長いため、ようやく大手、中堅のマザーボードメーカーも積極的に日本製・日本メーカー生産によるコンデンサを採用するケースが増えている。中でも日本ケミコン、ニチコン、ルビコン、三洋電機、松下電器産業といった、代表的な日本メーカーの電解コンデンサがマザーボードの重要な部分に使われる事が多い。しかし未だ台湾・中国製のコンデンサを採用するメーカーは後を絶たない(廉価を売りにしているメーカーに多い)。以前より品質はましになって来ているものの、相変わらず不具合を起こす事が多い様である。 もし、マザーボードの保証期間内にコンデンサの故障が見られた場合、無償で修理・交換に応じてくれるので利用すべきである。保証が切れても有償(3~5千円前後)で修理に応じてくれるメーカーや代理店もあるが、代替品が無い場合は台湾や中国の工場での修理となることがあり、修理完了まで非常に時間がかかる上、修理代で同等品が手に入る事もあるので注意が必要である。
また、故障したマザーボードのコンデンサを自ら交換するヘビーユーザーも存在する。素人による交換はジャンク品や中古品の再生、買い換える予算が無い、あるいは愛着があるなどの理由で行われる事が多い。故障したマザーボードのコンデンサ交換は基本的にはんだ付けで行うため簡単とはいい難く、最悪基板のパターン断線やスルーホールの破損、あるいはショートさせてしまう事もあるためそれなりの技術を要する。そこで店側がマザーボードのコンデンサを、あらかじめ高性能なタイプに交換し販売している事がある。 これらに使用される電解コンデンサの多くは低ESR品(低インピーダンス品とも)と呼ばれるやや特殊なものである。自前で交換する際、注意することはオリジナルのコンデンサとの耐圧、静電容量、サイズ、製品グレードなどをメーカーサイトで確認し、なるべく一致させる事である。最近では、秋葉原などの電子パーツ店の店頭や通販など「PC用コンデンサ」などとコーナーを設けて1個数十円~200円程度で売られているが、製品の性質上気軽に買えるものではない。なお、標準品はマザーボードの電流に耐え切れず、短期間で不具合や故障を起こすことがあるので絶対に使用してはならない。
マザーボードを含むPCパーツは製品サイクルが非常に早く、2~3年で全く違う仕様になっている事が多い。その間にもPCの性能は日進月歩で上がり続けているので、長期間の稼動で保証も切れ、コンデンサが故障した場合、買い替えに躊躇が無い場合は、良質のコンデンサを搭載した新しいものに交換するというのが賢明であるといえよう。