ZIP (記憶媒体)
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Zip(ジップ)は1994年後半にアメリカのアイオメガによって開発されたリムーバブル磁気ディスクメディア。容量は最初は100MBのもののみであったが、後に250MB、750MBの製品が登場した。主にパソコンで使用される。大容量フロッピーの一種として知られているが、サイズは3.7インチで、互換性もまったくない。 MOとは比較にならないほど高速なアクセスが可能である。 技術としてはATOMMを採用している。発売当時、同社のBernoulliディスクと同様にディスクを湾曲させヘッドとの距離を保っているとメディア等で誤解されたが、同社はそのBernoulliディスクの機構は使っていないと公表している(Bernoulliディスクはディスク側を湾曲させてヘッドとの距離を一定にしているのに対し、Zipはハードディスクと同じくヘッドを浮上させてディスクとの距離を一定にしている)。ただ、一般的にはその発展系といわれている。(下記デザイン参照)
日本国内においては富士フイルムがメディアを生産している。また、セイコーエプソンなどがライセンスを持っている。
米国においては、他の大容量メディアと比較するとメディア、ドライブ共に安価であったため、発売前から話題を呼んだ。拡張カードがなくてもパラレルポートに接続できる(SCSI接続も可能)利便性の高さもあって、登場から暫くは主要なメディアの一派を形成した。一時はポストフロッピー(フロッピーの代替)メディアの最有力候補といわれ、フロッピーはそのうちZipドライブに置き換わるとまで言われていた。海外のパソコンメーカー製品でZipドライブ搭載機種が一時期多く見られたのもその為である。 一方で日本ではすでにMOが普及していたためあまり浸透しなかった。 MOと比べるとドライブは安価だが(最近はMOもZipに近い価格のものが出回ってきている)、メディアの値段が高く、ある程度普及が進んでも単価はあまり下がらず(メディア売り上げで利益を確保する開発元の狙いがあったと言われる)、相対的に見ると割高になってしまった。その後、より大容量で低価格の書換型CD/DVD媒体の普及もあって市場は縮小を続けている。
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[編集] デザイン
Zipシステムは大ざっぱに言えば、アイオメガのより以前のベルヌーイボックスシステムに基づいている。Zipのシステムでは、リニアアクチュエータに固定された読み書きヘッドのセットが頑丈なカートリッジの中で急速にくるくる回るフロッピーディスクの上に浮かんでいる。Zipディスクは、コンパクトディスクサイズのベルヌーイメディアより小さいメディア(3.5インチ(9センチ)フロッピーほどの大きさ))とその全体的なコストを減らした単純化されたドライブデザインを使用する。
Zipは、ドライブ自体にフロッピーディスクドライブとの上位互換性を確保していないものの、標準的なフロッピードライブやその上位互換ドライブ(スーパーディスク等)よりデータ転送速度が高速なのが特徴である。オリジナルのZipドライブのデータ転送レートはおよそ1MBpsで、平均シーク時間が28ミリ秒であるのに対し、標準的な1.44MBのフロッピーの転送レートは500Kbps(62.5KBps)で、平均シーク時間は数百ミリ秒である。(なお、今日の平均的な7200rpmのデスクトップハードドライブの平均シーク時間は約8.5-9ミリ秒である)
[編集] インターフェイス
Zipドライブはコンピュータとの多様なインターフェイスで製造されてきた。内蔵用ドライブはIDEインターフェイスとSCSIインターフェイスの双方が、外部接続用ドライブはパラレルインターフェイス、SCSIインターフェイスと(数年後に)USBインターフェイスなどがある。USB接続のものには、後にバスパワー動作の製品も登場している。一時期、パラレルインターフェイスとSCSIインターフェイスとを自動検出するというZip Plusと呼ばれるドライブがあったが、多くの互換性の問題が報告され、後に消えた。
[編集] 容量
当初、Zipは100MBの容量が採用された。ディスクの価格を通常のフロッピーディスクの価格に近づけることを考え、100MBドライブに挿入できるより低コストな25MBのバージョンが計画されたものの、このサイズのディスクは発表されていないようである。
安価な値段の割にそこそこの容量を確保した100MBという容量は、当時では個人データを収納するのに十分で、競合する同サイズのメディアより早くリリースされたこともあって、ZipはMOが一般的でなかったアメリカでは大いに普及し、日本でもまずまずの普及を見せた。
のちに、データ転送レートとシーク時間を改善しつつ、容量をまず250MBにしたが、日本ではあまり普及しなかった。後に750MBに増やしたが、こちらも日本ではほとんど普及していない。
[編集] メディア
Zipのディスクは3.5インチフロッピーディスクと比較してより厚いが、それ以外は3.5インチフロッピーディスクとほぼ同じ大きさである。ドライブとディスクへの損傷を防ぐため、100MBZipディスクのジャケット部分裏側の角(裏面の写真左上)に再帰反射スポットがあり、このディスクの再帰反射スポットを検出しないとドライブが動作しないようになっている。250MBZipディスクでは黄色いシールがはられており、区別が可能である。
[編集] 互換性
上述の通り、Zipには3種類の容量のメディアがあるが、ドライブは基本的に上位互換となっている。
ただし制限があり、250MBドライブは、100MBディスクへの書き込み速度が遅い。また、750MBドライブは最も安価で最も普及している100MBディスクに書き込めない(読み出しは可能)。この仕様は、もっとも普及している100MBドライブのユーザーとのデータ交換に支障を来すこととなり、尽きかけていたZipの命運に(こと日本では)とどめを刺すこととなった。
非対応のディスクをドライブに挿入(100MBドライブへ250MBディスクを入れるなど)された際に、そのディスクにアクセスされる試みがなされることなく、直ちにディスクが排出されるよう、再帰反射スポットの位置が3つのメディア容量で異なる。
[編集] 特徴とインプリメンテーション
他のディスクフォーマットと違い、Zipのライトプロテクトは、ディスクコントローラそれ自身で実現されている代わりに、ソフトウェアとハードウェアの双方で実現されている。ディスク上のメタデータは、ドライブがホストコンピュータに従わせるライトプロテクトの状態を示す。プロテクトの設定を変えるために、コンピュータはZipディスク上のメタデータを変更するようZipドライブにコマンドを発行する。これはディスクがドライブにロードされ、ライトプロテクトをオン/オフするための適切なソフトウェアのあるコンピュータからアクセスされなければならないことを意味する。また理論的には、ライトプロテクトフラグを無視する野良ドライバや改良型Zipドライブが作成される可能性がある。
Zipシステムはパスワードを介したメディアアクセス保護も導入している。ライトプロテクトのように、これはソフトウェアレベルで実装されている。ディスクが挿入された際に、Zipドライブはメタデータを読み出す。そのデータがディスクに読み出しロックが掛かっていることを示していれば、ドライブはコンピュータからパスワードを待つ。パスワードを受け取るまで、ドライブは(基本のディスクI/Oコマンドに対し)空である振りをする。パスワードを受け取り検証すれば、ドライブはドライブ内のディスクを「活性化」させアクセスを許可する。あるドライブモデルにおいて、ソフトウェアを騙してドライブの中にあることを信じ込ませたのとは違うディスクにアクセスできるようにすることを可能にすることがこの実装の1つの副作用である。プロテクトはどのような暗号化も使用していない。プロテクトはただディスク上のメタデータとZipドライブのファームウェアからの協同の結合物である。
[編集] 販売、問題とライセンシー
最初、Zipドライブは(その当時において)安い標準小売価格と大容量のために、1994年の販売開始後はよく売れた。アメリカでは当初、ドライブはカートリッジ1個付きで199(アメリカ)ドルで、追加の100MBのカートリッジが20ドルで販売されていた。より多くの会社がカートリッジを供給するにつれて、追加カートリッジの価格はすぐに次の数年間で下落した。結局、富士フイルム、バーベイタム、マクセルがサプライヤーとなる。エプソンもライセンスされた100MBドライブモデルを自社ブランドで製造していた。
日本でも、ドライブが25,000円前後、メディアが2,000円前後と、当時日本で普及していたMO(230MB)と比較すると、メディアこそ容量当たり単価で高かったものの、50,000円弱したMOと比べればドライブは破格に安く、「保存するデータがディスク数枚程度」というエントリーユーザーに大きく訴求した。しかし、MOと違ってZipはドライブ・メディアとも値段が下がらず、ユーザーはやがてMOやCD-Rへ移っていった。
ZipドライブとZipディスクの売り上げは1999年から2003年まで徐々に下降している。1998年9月、死のクリックと呼ばれるZipディスクの不具合に関する集団訴訟が起こされた。この訴訟はアイオメガの敗訴に終わっただけでなく、Zipへの信頼性を低下させるものであり、売上低下に拍車をかけた。
現在、コンピュータ向けの安価な記録可能なCD・DVDドライブや手軽なUSBメモリの出現で、Zipドライブはもはや一般的ではない。カートリッジに入った可搬性の高いディスクメディアという視点で見ても、海外ではともかく、MOというメディアの信頼性が高い規格が一定範囲で普及している日本では、Zipの生き残る余地はほとんどない。
現状、日本国内でZipのメディアはほとんど流通していない。富士フイルムは2005年9月をもって製造を中止しており、店頭在庫を探すかアイオメガのオンラインショップを利用するしかない。
[編集] ZipCD ドライブ
アイオメガは1990年代後半にZipブランドの下でZipCD 650と呼ばれる内蔵および外付けのCD-RWドライブを発売した。しかし、これは普通のCD-RWドライブであって、磁気Zipドライブとのフォーマットの関連性はない。同じZipCD名義のCD-RメディアとCD-RWメディアもリリースしたが、これも一般的なCD-R・CD-RWメディアである。