アイリーン・ウォーノス
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アイリーン・ウォーノス(Aileen Wuornos,1956年2月29日 - 2002年10月9日)はアメリカ合衆国ミシガン州ロチェスター生まれの連続殺人者。6件の死刑判決を受けた。彼女は7人の男性を殺害、そのすべてについて、娼婦として働いていた時にレイプされた、またはされそうになったためと主張した。
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[編集] 生涯
ミシガン州に生まれたアイリーンは、不幸な子供時代を送ったといえる。父親に会ったことはないが、彼女の父親レオ・デイル・ピットマンは精神病を患い、児童を虐待した事もあったためカンサス州やミシガン州の精神病院に入院、1969年に服役中に自殺した。アイリーンの母親ダイアン・ウォーノスは15歳のときにレオと結婚、キースとアイリーンの二人の子供をもうけるが、アイリーンが生まれる前に離婚。アイリーンが4歳のときに母親ダイアンは子供を捨てて出て行ってしまったため、二人は祖父母に育てられる。
アイリーンによると、祖父は彼女を肉体的にも性的にも虐待したという。また祖母はアルコール依存症であった。彼女はかなり若い頃から複数の異性と性的な関係を持ったと語っている。相手には兄のキースも含まれていたという。14歳で妊娠した彼女は家族から縁を切られ、1971年にデトロイトの病院で子供を出産。その子はすぐに養子に出された。アイリーンは森の中の廃車の中で暮らすことを余儀なくされるが、後に未婚の母親たちのための施設に送られる。
1971年に祖母が亡くなった後、学校を辞め、娼婦として生計を立てるようになる。1974年、飲酒運転中に車から銃を発射し、コロラドで逮捕される。
その後ミシガンに戻り、1976年にはバーでの暴行行為で再び逮捕される。アイリーンは罰金をキース(喉頭がんで21歳で死去)の生命保険で払い、残りの金を浪費した。
同年、ヒッチハイク中にフロリダで69歳の裕福な男性ルイス・フェルに出会う。二人はすぐに結婚する。この結婚は彼女の人生を変えるチャンスであったが、アイリーンはフェルに辛く当たり、バーで暴行事件に巻き込まれるなどしたため、1ヶ月後にフェルにより結婚無効を申し立てられてしまう。
1981年、フロリダのエッジウォーターで、コンビニエンスストアで強盗を働いた容疑で逮捕。翌年刑務所に送られたが13ヵ月後に釈放。1984年にはキー・ウエストの銀行で偽造小切手を使用しようとした容疑で逮捕。1985年12月には銃と弾薬を盗んだ疑いがかけられ、11日後に無効な運転免許で運転していたために拘束された。
1986年1月、重窃盗罪で逮捕。マイアミ警察は彼女が運転していた盗難車からリボルバー銃と弾薬を発見。
同年、デイトナのゲイ・バーでティリア・ムーアという24歳の女性と出会う。すぐに恋人同士になり、一緒に暮らすようになる。ティリアはホテルのメイドの職を辞め、アイリーンが売春で稼ぐのを助けるようになる。二人の恋愛感情は1年ほどで覚めていったが、しかし信頼しあえる友人として一緒に行動し、安ホテルだけでなく古い納屋や森の中で夜を過ごすこともあったという。1987年、デイトナ・ビーチ警察は男性に対する暴行容疑でアイリーンとティリアを拘留。同年、アイリーンは無効な運転免許の保持、州間高速道路を歩行したことで召喚状を受ける。
1988年3月、デイトナ・ビーチでバスの運転手に暴行を働いたと訴えられる。アイリーンは運転手が口論の末に彼女をバスから押し出したと主張。7月にはアパートでの破壊行為(無許可でカーペットを剥がし、壁を塗り替えた)により大家から訴えられる。
1989年頃には、彼女の振る舞いは明らかに常軌を逸したものとなっていく。好戦的になり、出かけるたびに誰かと口論を引き起こし、装填された銃を携帯するようになる。売春と盗みで生計を立てていたが、なかなか客がつかなかったために必要最低限のものを買うのにも事欠くようになる。
[編集] 殺人
1989年、アイリーンを車に乗せたリチャード・マロリー(Richard Mallory)というTV修理業を営む男性が最初の犠牲者となった。後に次々と5人の男性の遺体が見つかる。マロリーを除いた被害者は下記の通り。
- デイヴィッド・スピアーズ(David Spears 重機オペレーター)
- チャールズ・キャルズカドゥーン(Charles Carskaddon ロデオライダー)
- ピーター・シームズ(Peter Siems キリスト教系新興宗教団体の伝道師、車は発見されたが遺体は見つからなかった)
- トロイ・バーレス(Troy Burress トラック運転手)
- ディック・ハンフリーズ(Dick Humphreys 元警察署長、ソーシャルワーカー)
- ウォルター・ジーノ・アントニー(Walter Jeno (Gino) Antoni トラック運転手)
アイリーンとティリアは、犠牲者の一人ピーター・シームズの車を運転中に事故を起こし、数ヶ月後に逮捕される。アイリーンはマロリーの件に対して、彼が彼女をレイプしようとしたためと正当防衛を主張したが、1992年に有罪判決を受ける。ティリアは警察に協力するようになっていた。同年11月にマロリーが別の州において暴力的なレイプ行為のために10年服役したことが明らかになったが、彼女に再審の機会は与えられなかった。
1992年3月、アイリーンはディック・ハンフリーズ、トロイ・バーレス、デイヴィッド・スピアーズを殺害した容疑を認めた。6月にチャールズ・キャルズカドゥーン殺害容疑も認め、5つ目の死刑判決を受ける。1993年2月にはウォルター・ジーノ・アントニー殺害容疑も認めた。ピーター・シームズに関しては遺体が見つからなかったために起訴されなかった。
アイリーンは彼女の犯した犯罪に関して、つじつまの合わない供述をしている。7人の男性を別々の機会に殺害したことを語っている。アイリーンは彼らにレイプされたと主張したが、後にその主張を撤回している。
[編集] 死刑
最初の死刑判決後、それこそが彼女が望んでいるものだと語った。2001年になると、なるべく早く死刑が執行されるようにと働きかけだした。彼女は"私はあの男達を殺して、冷酷に金品を奪った。そしてもう1度やるだろう。だから自分を生きたままにしておくのは何の益にもならない、また殺すと思うから。・・・自分は法的能力があり、正気で、真実を語ろうとしている。私は人間を憎み、また殺人を犯すだろう。"と語った。
2002年10月9日に薬物注射によって死刑が行われた。アイリーンはアメリカで死刑になった10番目の女性である。
[編集] メディア
[編集] 映画
1991年の米国映画「テルマ&ルイーズ」はアイリーンとティリアの物語をモデルとしている。ただし大きく脚色され事実と異なることが多く事件を取り上げた伝記映画という位置付けではない。
2003年、アイリーンの伝記映画「モンスター」がアメリカで公開された。映画の中では特にアイリーンとティリアの関係に重点が置かれている。主演のシャーリーズ・セロンがアカデミー主演女優賞を受賞した。
また、同年、ドキュメンタリー映画「シリアル・キラー アイリーン 「モンスター」と呼ばれた女」が制作されている。この映画には処刑前日のアイリーンへのインタビューも納められている。