アーム・スレイブ
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アーム・スレイブは、賀東招二の小説『フルメタル・パニック!』に登場する、架空の人型兵器。以下はその設定である。
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[編集] 名称
armored mobile master-slave systemの略であり、直訳すると"主従追随式機甲システム"。ただし、作中では強襲機兵(きょうしゅうきへい)、あるいは単にASと呼ばれる。なお、強襲という言葉の意味の問題からか、日本政府の公文書においては主従機士という呼称が使われているという設定がある。もっとも、こちらが作中に登場したことは一度も無い(ちなみに、現実においても似たような理由から、自衛隊では戦車を“特車”と呼称していた時期がある)。
ちなみに、この強襲機兵という名前の由来については、アーム・スレイブの登場時に、そのASという略称がAssault Soldierの略という誤った報道が流れ、結局それが一般化した、というものである。
[編集] 概要
SDI計画の一環として開発が進められた兵器システムであり、『局地戦争の次なる主役』として『壮大な技術的挑戦』のもと、『歩兵部隊の省力化に貢献』するとして時のアメリカ大統領、ロナルド・レーガンによって推し進められた。そして、そのわずか3年後に実用化にこぎつけている。これは当時の(我々の現実世界においては現在の)技術レベルを遥かに凌駕しているものであり、一部では「宇宙人からの技術協力を受けた」という噂も流れた。しかし作中ではありふれたハイテク兵器として扱われており、汎用性が高く多種の武器を使いこなすマニピュレーター、あらゆる地形を走破し時速100km以上で移動する脚部などから「最強の陸戦兵器」とまで呼ばれる。
元々強化外骨格などの思想を発展させたもので、そのサイズは3m程度を想定していたが、当初計画されていた普通の強化外骨格のサイズでは、あまりにも低スペックであり、機動性や火力、耐弾性などに問題があった(設定上、XM3までがこの段階にある)。そこでM4以降は、敢えて約8mにまで大型化することによって、人間比で考えれば比べ物にならないほどの高い運動性能と、電子兵装や多々のオプションを積むことを可能としたものである。なお、8mというサイズは骨格の強度や電磁筋肉の適正出力、動力源のサイズ、隠密性、整備性、生産効率だけでなく、作戦目的やそれに要求される火器のサイズなどの多くの要素から導き出されたもの。全高40mのベヘモスは、文字通りの規格外の機体である。
駆動系はマッスルパッケージと呼ばれる、電磁収縮筋(通電により伸縮する形状記憶プラスチック)を用いており、これによって瞬間的で精微な稼動が可能となっている。ただし、第二世代ASでは、マッスルパッケージに加えて油圧とのバイナリ方式が利用されている。これは第二世代ASがロールアウトした当初のマッスルパッケージの性能が十分なものではなく、それ単独では十分なパワーを出す事ができなかったため。その性能が向上した事から、M9以降の第三世代ASでは油圧系を全廃して機動性の向上に充てている。なお、同じ理由から第二世代機の性能も向上しており、M6A3などではM9に引けを取らないパワーを発揮する事ができる。例えば、M6A3でも(骨格系の破損を覚悟すれば)M9に腕相撲で勝てる可能性がある。
ちなみに、マッスルパッケージには実戦用と訓練用の2種類が存在する。前者は消耗(人間で言うところの筋肉痛)が激しい代わりに発揮できるパワーに優れ、後者はその逆という特徴がある。このため、マッスルパッケージを交換する際には全身のマッチングを行う作業(整体)が必要となる。これを実行するソフトウェアはイスラエル製のものが優秀なのに対して、日本製のそれは競争原理が働いていないためシステムに無駄が多いという設定がある。
作品は現代のパラレルワールドだが、ECS(電磁迷彩システム)に代表されるブラックテクノロジーという設定によってこれらを成立させている。
[編集] 第1世代AS
M4等、ASの黎明期に開発・運用されていたAS。既に作中でも第2世代機が主力となっており、殆ど登場しない。反応速度が遅く、移動や姿勢変更には時間がかかるものの、既存の兵器に対抗できるだけの能力は有していた。
第1世代ASが開発された時期は、ASは未だ機甲部隊の中でイレギュラーな存在であり、待ち伏せや市街戦くらいでしかその有効性はないとされていたが、海上における潜水艦と同様に、どこにでもいる兵器と言う事も出来る。
[編集] 第2世代AS
Rk-92 サベージやM6 ブッシュネルなどを代表とするAS。作中では各所の軍隊やテロ集団など大半がこの第2世代ASであり、今後も当分はこの第2世代ASが主流であると思われる。
主動力は主にガスタービンエンジンであるが、素材系の性能向上により現行のガスタービンエンジンより燃費が向上している。しかしその騒音から静粛性に欠け(M6A3のように、大容量のコンデンサを積むことで限定的に無音駆動を実現した機体もある)、マッスル・パッケージの出力が不足していたことから、油圧を併用したバイナリ方式で駆動している。初期の第2世代ASの中には、ディーゼルエンジンで稼動するものもある。
[編集] 第3世代AS
M9を代表とする新型AS。M9は、作中ではミスリルなどを中心とする資金の潤沢な一部の部隊でしか使用されておらず、米軍などでは公式には開発中となっている(『つどうメイク・マイ・デイ』以降、米陸軍特殊部隊にも極秘に配備されている)。東側ではZy-98 シャドウが開発されている。
主動力はパラジウムリアクターによる常温核融合発電で、完全な電磁収縮筋による駆動と共に高い運動能力と瞬発性を持つ。油圧系を廃したため、そのシルエットは第2世代機に比べると大幅にスリムなものになっている。
さらに、高度なAIが搭載され複雑な戦闘補助が可能となっている。これによって、搭乗者の負担も軽減した。
[編集] 操縦システム
- バイラテラル角
- ASの操縦システムはセミ・マスター・スレイブと呼ばれる物であり、基本的にAS(スレイブ)は操縦者(マスター)の動作に追随して動く。しかし当然にASのコクピットは狭く、人間1人が動くほどの余裕は無い。
- そのため、搭乗者の動作を機体の側で増幅することでこの問題に対処している。その増幅度の事をバイラテラル角(BMSA)と呼び、仮にこの値が3なら、搭乗者の動作を機体の側で3倍に増幅することになる(例えば、搭乗者が腕を30度動かせば、機体は90度腕を動かす)。
- バイラテラル角の設定は、状況に応じて、任意に設定が可能である。例えば、狙撃等の、精密な動作をする際には、バイラテラル角を2に設定する。激しい戦闘などでは、4に設定する…などである。ちなみに、長編1巻の記述によれば、宗介は3.4(サベージの場合)、3.5(アーバレストの場合)に設定している。
- もっとも、全ての動作を搭乗者が律儀に行う必要は必ずしも無い。後述するマニピュレーターの操作もさることながら、歩行に関してもこれは同様。例えば、長距離行軍などを行う際は搭乗者の体力上の問題から、ペダルの踏み込みと機体の歩行を連動させるモードが使用される。逆に瞬発力が重視させる戦闘機動においては、マスター・スレイブによる機動が行われる。これらの動作はECSやセンサーの使用、ジェネレーターの出力等と併せて、マスター・モードとして登録されている。M9の場合、マスター・モード7までの存在が確認されている。
- モーション・マネージャ
- マスター・スレイブ方式の操縦システムにおいて、搭乗者の動作を翻案し、機体に反映させるためのソフトウェア群のことを総称して、モーション・マネージャという。
- 熟練者は機体性能を最大限に引き出し、自分の癖に合わせるために頻繁にその設定を調整、変更する。例えばクルツの場合、狙撃に特化した彼専用の設定データを持っている。こうしたデータは研究部に送られてバージョンアップに使用されることになる(ただし、上記したクルツの設定は余りにもクセが強すぎる)。このため、作中でも『戦うボーイ・ミーツ・ガール』(4月)と『踊るベリー・メリー・クリスマス』(12月)とでは、同じM9でも異なる点がある。
- マニピュレーター
- ただし、セミ・マスター・スレイブで機体を動かすと言っても、指先まで搭乗者の動作を再現しているわけではない。手を握る、開くといった動作は操縦桿に設置されたホイールに連動しており、実際の細かい動作についてはコンピューター任せ、あるいは事前に設定したメニューから選択する必要がある。
- なお、ASが銃火器を手にした場合、手についている端子と銃火器が接続され、ASの指でトリガーを引かなくてもボタン一つで発砲が可能(実際にトリガーも付いていて、これは何らかの理由で端子が使用できないときに手動で発砲するためのもの)。
- データ・グローブを用いて搭乗者の手の動きを直接再現する事も技術的には可能であり、第一世代機が開発されていた頃は採用が検討されていた。だが、そうした場合には機体の手しか動かせなくなる事や、戦闘中にそうした行為をする必要性がない事が統計上ハッキリしてきた事から、作中で運用されている機体には搭載されていない。
- サスペンドモード
- 戦闘時などの性能をフルに必要とするとき以外では、電源の省力化や各部の消耗を防ぐため、機体パワーの大部分を、サスペンドモード(待機状態)にしている。サスペンドモードから、戦闘モードへの復帰には、10秒程度の時間が必要となる。
[編集] ゲームでの設定
あくまで陸戦用機動兵器のはずなのだが、ゲーム「スーパーロボット大戦J」においては、ミスリルとネルガル重工、ウリバタケ・セイヤ主任監修のもとで共同開発されたAS専用空間戦闘用ユニットを装備し、宇宙空間でのスムーズな戦闘をも可能にしている。(ウリバタケは空中・水中もOKだと豪語していたが、実際にはユニット装着による能力の変化は無い) 「スーパーロボット大戦W」ではAS用アポジモーターを装備することにより同じように宇宙で使用可能である。
[編集] 登場機体
- ARX-8 レーバテイン
- ARX-7 アーバレスト
- ARX-6 ハルバード
- M9D ファルケ
- M9 ガーンズバック
- M6(A1・A2) ブッシュネル
- M6A3 ダーク・ブッシュネル
- M4 (ペットネーム不明)
- 96式
- ミストラル2
- サイクロン
- ドラッヒェ
- Rk-92 サベージ
- Rk-89 シャムロック
- Zy-98 シャドウ
- Plan1056 コダール
- Plan1058 コダールi
- Plan1059 コダールm
- Plan1501 ベヘモス
- Plan1055 ベリアル
- Plan1211 アラストル