戦略防衛構想
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戦略防衛構想 (Strategic Defense Initiative, SDI) はアメリカ合衆国がかつて構想した軍事計画。通称スターウォーズ計画。
静止衛星軌道上にミサイル衛星やレーザー衛星、早期警戒衛星などを配備、それらと地上の迎撃システムが連携して敵国の大陸間弾道弾を各飛翔段階で迎撃、撃墜し、合衆国本土への被害を最小限に留めることを目的にした。
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[編集] 経緯
1980年代、核の均衡は相互確証破壊 (MAD) に基づいていたが、アメリカ大統領ロナルド・レーガンはこれをよしとしなかった。レーガンは、1983年3月23日夜の演説で、「アメリカや同盟国に届く前にミサイルを迎撃」し、「核兵器を時代遅れにする」手段の開発を呼びかけ 、翌3月24日に開発を命じた。計画に対しては、技術的な問題、資金的な問題、宇宙空間の軍事利用に関する法的・倫理的な問題、現状の核抑止を不安定にする危険などが指摘された。
SDIが実現すれば、核戦略においてアメリカの一方的な優位が成立するため、ソ連は、アメリカが核戦争を計画している兆候だと考え、東西の緊張が高まった。ソ連には対抗して軍拡競争に応じる体力がすでになかったため、ソ連共産党書記長ミハイル・ゴルバチョフは1985年のジュネーヴ会談、1986年のレイキャヴィク会談での軍縮交渉によりSDIを阻止することを試みたが失敗した。この動きの中、ソ連は軍拡競争をあきらめ、1987年の中距離核戦力全廃条約へとつながり、最終的に冷戦終結をもたらした。
[編集] 内容
[編集] 捜索・追跡システム
ブースト段階捜索・追跡システム (Boost Surveillance and Tracking System, BSTS)、宇宙空間捜索・追跡システム (Space Surveillance and Tracking System, SSTS) などからなる。MIRV(多弾頭ミサイル)が展開する前の、敵国上空での探知が求められた。
[編集] 地上配備防衛
ERINT (Extended Range INTercept、延長射程迎撃弾)は、戦域ミサイル防衛計画の一部で、FLAGE (Flexible Lightweight Agile Guided Experiment) を発展させたものとされた。FLAGEは小型のレーダー誘導ミサイルでミサイルを撃墜する実験であり、現在のミサイル防衛 (MD) にも繋がる。FLAGE は1987年にランスミサイルの撃墜に成功している。ERINT は固体燃料を用い、FLAGE よりも高速で飛翔するとされた。
HOE (Homing Overlay Experiment、誘導被覆実験)は、直径4メートルの網によってミサイルを迎撃するというもの。開発は陸軍が担当し、1983年から1984年にかけて4回実験が行われた。最初の3回はセンサーや誘導装置に問題があったために失敗し、最後の1回だけが成功した。
ERIS (Exoatomosphere Reentry-Vehicle System、大気外ミサイル妨害機構)はロッキード社によって開発が行われ、1990年代初頭に2回実験された。しかしながらそれ以降の開発はされていない。この計画の成果は戦域高高度防衛ミサイル (THAAD) や地上配備中間軌道防衛 (GMD) に活用された。
[編集] 光線/粒子線兵器
初期には核爆発を動力源とするX線レーザーによるミサイル迎撃が検討された。これは人工衛星から発射されるもので、通常のレーザーと仕組みは同じであるが、エネルギー源が原子爆弾であるという点で非常に開発が困難であった。1983年に最初の実験が行われているが、核爆発によって計器が破壊されて数値を得ることができなかったため開発が断念された。核動力の実用化には失敗したがX線レーザーそのものは現在各方面で利用されており、この計画がその発展に貢献している。
化学レーザーは空軍主導で1985年に研究が開始され、フッ化重水素レーザーによる実験が行われている。これは MIRACL (Mid-Infrared Advanced Chemical Laser、中赤外線先進化学レーザー)として知られる。開発早々の1985年にタイタンミサイルのブースターを破壊することに成功した。戦略防衛構想が中止された後も海軍が対衛星兵器として空軍の衛星に対して用いたがこの実験は失敗している。2006年現在、この兵器を発展させて砲弾迎撃実験も行われている。
化学レーザーは小型化が難しいが大気圏での減衰が少ないため、地上設備から発射し、軌道上の衛星で反射させる「ミラー衛星」が研究された。
非荷電粒子線は1989年にロケット搭載型が実際に放射実験を行っている。実験は成功し、予想通りの運動を確認することができたが、宇宙空間では予想外の副作用も確認された。
[編集] 運動エネルギー兵器
Kinetic Energy Weapon (KEW)。従来の火薬から高性能爆薬、あるいはレールガンを含む各種電磁投射砲(コイルガンやリニアモーターガン)などが想定された。
右画像は7gの合成樹脂(Lexan)製弾丸の加速に圧搾ガスを用いたものであるが、最大初速で約7km/s(秒速7km)にも達し、アルミニウムのブロックに衝突して運動エネルギーの一部は熱に変換され、このような衝突痕となった。
空気中では余りに軽い弾丸は空気抵抗(抗力)にもより急速に減速してしまう事から、火薬を使う銃器でも一定の重さを持つ弾丸か、あるいは空気抵抗の少ない形状をしているのが一般的であるが、空気のない宇宙空間では問題なく発射から衝突までの運動エネルギーは保持されるため、高速で飛行する核ミサイルを迎撃しやすいよう、専ら発射速度だけが重視された。
このほかにも人工衛星から大量の微細なスペースデブリを放出させ、散弾銃のように広範囲に弾丸を発射、対象となる人工衛星や核ミサイルとの交差軌道を取らせる事で破壊するアイデアもあった。