イントロン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
イントロンは、転写はされるが最終的に機能する転写産物からスプライシング反応によって除去される塩基配列。エクソンの対義語。
1977年にアデノウイルスのmRNAをアデノウイルスのゲノムDNAとハイブリダイズさせ電子顕微鏡で観察したところ、RNAを含まない一本鎖DNAループ (RNA displacemant loops) が形成されることが観察された (Berget et al., 1977; Chow et al., 1977)。これはそのmRNA分子は、いくつかのひと続きでないDNA領域と相補的であることを示す。その後多くの遺伝子が分断されていることが示され、真核生物の遺伝子の多くはこのような構造を持つことが分かった。この遺伝子を分断している配列こそイントロンである。原核生物では遺伝子がこのような構造を持つ種は稀である。
イントロンは一見無駄に見えるが、選択的スプライシングや、エキソンシャッフリングを可能にし、また、mRNAを核から運び出す過程や、翻訳効率などに関わっていることがわかってきた。
[編集] イントロンの種類
イントロンには様々なタイプがあり、tRNAに主に見られ蛋白質によって切り出されるprotein-spliced intron、主に真核生物の遺伝子に見られスプライソソームによってスプライスされるスプライセオソーム型イントロン(spliceosomal intron)、自己スプライシングを起こすグループI、グループII、まだよくわかっていないグループIII(ユーグレナ(ミドリムシ)で発見)などがある。
グループIイントロンはテトラヒメナのrRNAで初めて見つかり、蛋白質因子がなくてもRNAだけでスプライシング反応を触媒できるリボザイムとしてはじめての例となった。グループIIイントロンはスプライセオソーム型イントロンと同様の反応様式をもち、スプライセオソーム型イントロンと祖先を同一にすると考えられている。グループIIイントロンの一種Ll.LtrBはケフィアヨーグルトにも使われる乳酸菌の一亜種Lactococcus lactis subsp. lactisに由来する。
[編集] スプライセオソーム型イントロン
例(配列は架空の物。大文字はエクソンを、小文字はイントロンを示す。)
pre-mRNA
5' AAAAUGUCAUCAGAUAUCUGGAGguaaguuuuacguauuauucgauucgaaaugcuaucguuucagGCCCGUUACGGGGGCUAUCAG 3'
スプライシング後
5' AAAAUGUCAUCAGAUAUCUGGAGGCCCGUUACGGGGGCUAUCAG 3'
上記にあるようにスプライセオソーム型イントロンで最も一般的なタイプは5'端にGU、3'端にAGをもち、これはGU-AG則(GT-AG則)と呼ばれる。 長さは様々で長いものでは数100 kbまで知られ、また平均長は生物種によっても異なる。一方最短は約20 nt程度であり(哺乳類では60 nt程度)、これはイントロンとして機能するためにスプライシング因子との相互作用に立体構造上の制限などがあるためと想像されている。
[編集] 参考文献
- Berget, S. M., Moore, C. & Sharp, P. A. Spliced segments at the 5' terminus of adenovirus 2 late mRNA. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 74, 3171-3175 (1977).
- Chow, L. T., Gelinas, R. E., Broker, T. R. & Roberts R. J. An amazing sequence arrangement at the 5' ends of adenovirus 2 messenger RNA. Cell 12, 1-8 (1977).