デオキシリボ核酸
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デオキシリボ核酸(-かくさん、DNA: Deoxyribonucleic acid、デオキシリボヌクレイック・アシッド)は、核酸の一種。
高分子生体物質で、地球上のほぼ全ての生物において、遺伝情報を担う物質となっている(一部のウイルスはRNAが遺伝情報を担っている。遺伝子を参照)。
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[編集] DNA の構成物質と二重らせん構造
DNA はデオキシリボース(糖)とリン酸、塩基 から構成される。塩基はアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルの五種類あり、それぞれ A, G, C, T, Uと略す。デオキシリボースと塩基が結合したものをデオキシヌクレオシド、このヌクレオシドのデオキシリボースにリン酸が結合したものをデオキシヌクレオチドと呼ぶ。ヌクレオチドは核酸の最小単位である。糖にリボースを用いる核酸はリボ核酸 (RNA) という。
ヌクレオチド分子は、リン酸を介したフォスフォジエステル結合で連結し、鎖状の分子構造をとる。フォスフォジエステル結合には方向性があり、複製、転写のときはこの方向性に従う。
2本の逆向きのDNA鎖は、相補的な塩基 (A/T, G/C) による水素結合を介して、全体として二重らせん構造をとる。この相補的二本鎖構造は、片方が鋳型となりDNAの複製を容易に行うことができるため、遺伝情報を伝えていく上で決定的に重要である。
長さは様々で、長さの単位は二本鎖の場合 bp(base pair:塩基対)、一本鎖の場合 b または nt(base、nucleotide: 塩基、ヌクレオチド)。
[編集] 細胞内でのDNA
原核生物においてDNAはむき出しで存在し、細胞質で核様体を形成する。
真核生物においてDNAは細胞核内に存在し、ヒストンと結合して染色体を形成している。ちなみに動物細胞は直径が1000分の5ミリメートル程しかないが、その中のDNAをつなげてまっすぐに伸ばすと2メートルにも達するため、普段は非常に高度に折りたたまれている。
またオルガネラでもミトコンドリアや葉緑体は独自のDNAを持つ。このことがオルガネラの由来に関する膜進化説に対する細胞内共生説の証拠であるとされている。形状は環状のものもあれば、そうでないものもある。
[編集] 遺伝情報の担い手としてのDNA
全ての生物で、細胞分裂の際の母細胞から娘細胞への遺伝情報の受け渡しは、DNAの複製によって行われる。DNA の複製はDNAポリメラーゼによって行われる。(詳しくはDNA複製を参照のこと)
DNAが親から子へ伝わるときにDNAに変異が起こり、新しい形質が付加されることがあり、これが種の保存にとって重要になることがある。
細菌など分裂によって増殖する生物は、条件が良ければ対数的に増殖する。その際、複製のミスによって薬剤耐性のような新たな形質を獲得し、それまで生息できなかった条件で生き残ることができるようになる。
有性生殖をする生物において、DNAは減数分裂時の染色体の組み換えや、配偶子の染色体の組み合わせにより、次世代の形質に多様性が生まれる。
[編集] 生命の設計図としてのDNA
DNAは生命の設計図とよく言われるが、これはDNAの塩基配列がタンパク質のアミノ酸配列に対応しており、生命現象の大部分はタンパク質が担っているため、「タンパク質の設計図」=「生命の設計図」ということである。
DNAのタンパク質をコードする部分は外部からの刺激に応じ、RNAポリメラーゼにより、mRNAに転写される。その後、mRNAはリボソーム内でタンパク質に翻訳される。(転写、翻訳を参照のこと)
連続する3つの塩基配列により、1個のアミノ酸がコードされる。これにより4種しかない塩基が20種のアミノ酸をコードすることができる。(コドンを参照のこと)
[編集] DNAの材料
ヌクレオチド及びその結合体であるポリヌクレオチド、DNA、RNAは生物を原料とするほとんどの食品に微量含まれており、魚の白子や動物の睾丸などでは含有率が高い。DNAを摂取すると、体内でいったんヌクレオチドに分解されて、RNA、DNAを効率的に合成する材料となる。
工業的に効率的に分離するための原料としてサケの白子やホタテガイの生殖巣などが利用されている。
[編集] DNAの利用
- DNA鑑定
- DNAの反復領域の違いをもとに、犯罪捜査や親子鑑定に利用される。
- 医療
- 遺伝子治療など一人ひとりの個性に合った治療が可能になる。
- 工業
- DNAの二重らせん構造を使って、微細な有機分子を捉えるフィルターが開発されている。
- 健康食品
- 健康食品として錠剤、粉末、水溶液のものが市販されているが、有効性や効果は不明。また、DNA関連の健康食品を販売する一部の会社では、マルチ商法(MLM)の形態で販売をしているにも関わらず明文化していなかったり、癌やアトピーが治るといったオーバートークが用いられるなどの問題点も見受けられる。もっとも、これはDNA関連の健康食品会社に限った話ではない。
[編集] DNA 小史
- 1869年: F.ミーシャー(スイス)がDNAを発見、1871年に発表したが、彼は細胞内におけるリンの貯蔵と考えていた。
- 1885年: A.コッセルがアデニンを発見。86年にグアニン、93年にチミンも発見。
- 1944年: オズワルド・アベリーらによって肺炎双球菌を用いて DNA が遺伝物質であることが証明される。
- 1952年: A.D.ハーシーとM.チェイスは、バクテリオファージを用いて、より正確な実験で、DNA が遺伝物質であること決定的になる。
- 1953年: J.ワトソン、F.クリックがロザリンド・フランクリンやモーリス・ウィルキンスの研究データの提供によって DNA の二重らせん構造を明らかにした。
- 1956年: A.コーンバーグによってDNAポリメラーゼが発見される。
- 1957年: M.メセルソンとF.W.スタールによって DNA の半保存的複製が明らかにされる。
- 1967年: 岡崎令治らによって岡崎フラグメントが発見される。
- 1970年: H.スミスによって制限酵素 Hind IIIが分離される。
詳しくは遺伝子を参照のこと
[編集] 関連項目
- DNA複製
- 二重らせん
- 遺伝子
- 遺伝子工学
- プラスミド
- 核酸
- RNA
- ゲノム
- アガロースゲル電気泳動
- PCR
- 相補的塩基対
- DNAマイクロアレイ
- DNAシーケンサー
- DNAコンピュータ
- DNA - DNA分子交雑法
- ミーム:文化における伝統を遺伝子に喩える通俗的な言い方として「何々のDNA」と用いられることがあるが、これに近い概念としてミームがある。学術的な場面以外で「何々のDNA」という言いまわしが用いられた場合、実質的には「何々のミーム」という意味で用いられていることが多い。