エミール・デュルケーム
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エミール・デュルケーム(Émile Durkheim, 1858年4月15日 - 1917年11月15日)は、フランスの社会学者。オーギュスト・コント後に登場した代表的な総合社会学の提唱者である。その学問的立場は、方法論的集団主義と呼ばれる。
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[編集] 略歴
デュルケームはフランスのロレーヌ地方のエピナルで代々敬虔な信仰を保持したフランス系ユダヤ人の家系に誕生している。父親と祖父はラビであった。 しかし彼自身は世俗的な人生を送っている。 事実、彼の業績の多くは宗教現象が天与の要素よりはむしろ社会的なそれに起因していることを実証したものであった。
しかしながら、彼のユダヤ人としての背景が彼の社会学に色濃く影響を与えていることは否定できない。彼の教え子と友人の多くはユダヤ人であり、血縁者であった。
[編集] 社会学主義の提唱者
デュルケーム(またはデュルケム、デュルケイム)は当時としては斬新な独自の視点から社会現象を分析し、経験科学としての社会学の立場を鮮明に打ち出した人物である。彼の理論は20世紀初頭に活躍した多くの社会学者、民族学者、人類学者などに多大な影響を与え、彼の死後マルセル・モースを中心としてデュルケーム学派というフランスにおける有力な社会学派が形成されるまでになった。
エコール・ノルマル(高等師範学校)卒業、ボルドー大学教授を経て、1902年ソルボンヌ大学講師、1906年同大学教授。社会学の他、教育学、哲学などの分野でも活躍。社会学主義の提唱者で、フランスにおいて初めて社会学の機関紙として、L'ANNÉE SOCIOLOGIQUE(社会学年報、1898年発刊)を創刊し、この機関紙の執筆者や協力者たちによってデュルケーム学派という研究グループが形成された。
実証主義の科学としてオーギュスト・コントによって創始された社会学が、未だに学問として確立されていない状況を見たデュルケームは、他の学問にはない独自の対象を扱う独立した科学としての地位を築くために尽力した。
彼は『社会分業論』において、社会学を「道徳科学」と位置づけ、諸個人の統合を促す社会的要因としての道徳(規範)の役割を解明することであると考えた。そしてその後、『社会学的方法の規準』において、社会学の分析対象は「社会的事実」であることを明示し、同時代の心理学的社会学の立場をとっていたガブリエル・タルドを強く批判した。
デュルケームが社会学独自の対象とした「社会的事実」とは、個人の外にあって個人の行動や考え方を拘束する、集団あるいは全体社会に共有された行動・思考の様式のことであり、「集合表象」とも呼ばれている。つまり、人間の行動や思考は、個人を超越した集団や社会のしきたりや慣習などによって支配されるということである(たとえば、初対面の人に挨拶をすること、うそをつくのは悪いことだと考えることなどは、社会における一般的な行動・思考のパターンとして個人の意識の中に定着したものである)。
彼は、個人の意識が社会を動かしているのではなく、個人の意識を源としながら、それとはまったく独立した社会の意識が諸個人を束縛し続けているのだと主張し、個人の意識を扱う心理学的な視点から社会現象を分析することはできないとして、タルドの心理学的社会学の立場を批判した。
このような「社会的事実」を客観的かつ実証的に分析し、その実態を具体的な事例によって明らかにしようとしたデュルケームの意欲作が『自殺論』である。
[編集] 自殺論
1897年に書かれた。当時のヨーロッパ各国で自殺のさまざまな統計調査を行い、それぞれの社会の特徴によって自殺がどのように異なるかを明らかにした。 また自殺を個々の人間の心理から説明するのではなく、社会的要因が人々を自殺に追い込むという彼の考え、社会学主義のもとに4つに類型化している。
[編集] 自殺の四分類
- 利他的自殺(集団本位的自殺)
集団の価値体系に絶対的な服従をすることによって起こる自殺。 未開社会などにおける殉死がこれにあたる。 一般人よりも軍人のほうが自殺率が高い。
- 利己的自殺(自己本位的自殺)
過度の孤独感や焦燥感などにより集団の結合が弱まることによって起こる自殺。 ユダヤ教徒よりもカソリック教徒、カソリック教徒よりもプロテスタント教徒のほうが自殺率が高い。 また農村よりも都市、既婚者よりも未婚者の自殺率が高いなどと言ったように個人の孤立を招きやすい環境において自殺率が高まる。
- アノミー的自殺
社会的規則・規制がない(もしくは少ない)状態において起こる自殺。自由のもと、自分の欲望を抑えきれず(無限の病)、それによる虚無感から自殺する。 不況期よりも好景気のほうが自殺率が高まる。
- 宿命的自殺
閉塞感など欲求への過度の抑圧から起こる自殺(アノミー的自殺の亜種と類型できる。彼はこのパターンは脚注において説明しているに過ぎない)。 奴隷や子を授からなかった妻などの自殺がこれにあたる。
[編集] アノミー
アノミー (anomie) は、社会秩序が乱れ、混乱した状態にあることを指すアノモス(anomos)を語源とし、宗教学において使用されていたが、デュルケームが初めて社会学にこの言葉を用いたことにより一般化した。デュルケームはこれを近代社会の病理とみなした。社会の規制や規則が緩んだ状態においては、個人が必ずしも自由になるとは限らず、かえって不安定な状況に陥ることを指す。規制や規則が緩むことは、必ずしも社会にとってよいことではないと言える。
[編集] 著作・関連書
- 『社会分業論』(原著1893年)
- (田原音和・訳)青木書店 ISBN 4-250-20506-1
- 『社会学的方法の規準』(原著1895年/岩波文庫版1978年)
- (宮島喬・訳)岩波文庫 ISBN 4-003-42143-4
- 『自殺論』(原著1897年/中公文庫版1985年)
- (宮島喬・訳)中公文庫 ISBN 4-122-01256-2
- 『宗教生活の原初形態』(原著1912年)
- (古野清人・訳)岩波文庫
- 『社会主義およびサン‐シモン』(翻訳版2003年)
- (森博・訳)恒星社厚生閣 ISBN 4-769-90190-9
- 『分類の未開形態』(翻訳版1980年)
- (小関藤一郎・訳)行路社 ISBN 4-588-00099-3
- 『デュルケーム家族論集』(1972年)
- (小関藤一郎・訳)川島書店
- 『デュルケームと近代社会』(1978年)
- (小関藤一郎・著)法政大学出版社
- 『デュルケーム宗教社会学論集』(1983年)
- (小関藤一郎・編訳)行路社
[編集] 参考文献
- 山崎亮 『デュルケーム宗教学思想の研究』
- 未来社 (2001.12) ISBN 4-624-10041-7
- 藤原聖子 『「聖」概念と近代―批判的比較宗教学に向けて』
- 大正大学出版会 (2006/07) ISBN 4-924297-29-1
[編集] 関連項目
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