人類学
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人類学(じんるいがく)とは人類(霊長類ヒト科)に関して研究する学問である。生物学的特性について研究対象とする学問分野を形質人類学若しくは自然人類学と呼び、言語や社会的慣習など文化的側面について研究する学問分野を文化人類学若しくは社会人類学と呼ぶ。さらに言語学や考古学、民俗学や民族学も包括する。
もっとも人類学の範囲や制度上の位置づけは国によって異なっている。アメリカでは、社会人類学(民族学)、考古学、言語学の三分野をあわせて広義の文化人類学と呼び、これに自然人類学も含んだ総合的な人類学科が大学に設置されている。これに加えてこれら四分野はアメリカ人類学協会という統一学界を組織している。
これに対して、イギリスでは社会科学的手法を用いる社会人類学と生物学の一分野である自然人類学、および考古学、言語学は分離されている。このイギリスの制度は、欧州統合前後からヨーロッパの人類学の発展に大きな影響を与えており、90年代には社会・文化人類学に関する欧州統一学会として、ヨーロッパ社会人類学会が設立された。
日本でも一般に理学部に属する生物学系の自然人類学と社会科学系学部に設置された文化人類学は制度上完全に分離されており、学会も自然人類学の日本人類学会と文化人類学の日本文化人類学会(旧称日本民族学会)に分かれている。また日本の特色として、今西錦司の霊長類学の影響を受け、自然科学と社会科学の中間的な立場に立つ生態人類学の伝統が存在することがあげられる。
人類学は極めて総合的な学問であるため、その制度上の位置づけは上記のように極めて複雑である。自然人類学は一般に生物学に属する動物学の下位分野と分類される一方、文化人類学は社会科学に、言語学と考古学は人文学に分類される。このように多様な領域に重複して分類される学問は究めて珍しいといえよう。