カウル
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カウル (cowl) とは、航空機やオートバイなどにおいて、エンジンや車体に沿って流れる空気の整流を目的とする覆いのこと。フェアリングと同義で使われることもある。
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[編集] 航空機
レシプロエンジンを持つ航空機においては、エンジンを覆うカバーをエンジンカウル (engine cowl) あるいはカウリング (cowling)、または単にカウルと呼ぶ。フェアリングと言った場合は、エンジンだけでなく脚(きゃく)などの整形覆いも含まれる。
飛行機においては、複葉機の時代など、速度の小さかったころにはエンジンは剥き出しであったが、速度が増大し始めた第一次世界大戦後の1920 - 30年代ころから、空気抵抗(抗力)低減策の一環としてエンジンが覆われるようになった。同時に主翼は単葉となり、脚は引き込み式に、操縦席も風防(ウィンド・シールド)で覆われるなど、機体全体が流線形で設計されるようになった。
空冷エンジンの冷却のためには、剥き出しの方が一見いいように思えるかもしれないが、これは必ずしも正しくない。カウリングの存在を前提に設計されたエンジンでは、カウリングを取りつけた状態で正しく冷却されるようになっており、外したままで運転してはならない。カウリングがないと冷却用の空気が冷却フィンの間を正常に流れず、熱交換が不十分となり、オーバーヒートの危険がある。
エンジンの冷却状態をある程度制御するために、カウルフラップ (cowl flaps) と呼ばれる機構を備える機種もある。これは冷却空気流路の出口に設けられる可動式の板で、冷却効果を増したい際には開く(OPEN にする)ことで冷却空気の流量を増やすことができる。
現代の大型ジェット機など、主翼の下にジェットエンジンを吊り下げる機体では「エンジンナセル」や「エンジンポッド」とも呼ばれる。
[編集] オートバイ
同じく空気抵抗を減らす目的で、オートバイにも航空機技術が転用された。オートバイにおいては車体およびライダーを覆う風防部品のこと。主に合成樹脂(一部にカーボン、ケブラーなど繊維強化プラスチック製のものもあり)で作られており、一般に視界を確保する部分は透明、それ以外の箇所についてはボディに合わせたカラーリングが施されている。適切に設計されたカウルは高速走行時にダウンフォースを発生し、走行安定性を高める効果がある。
[編集] 歴史
競技用オートバイ(レーサー)に装着される部品の代表格であり、かつての日本では、暴走族が隆盛期を迎えていた1980年代以前は、暴走を助長しかねないものとして装着が事実上規制されてきた。
一方、1970年代にハーレーダビッドソンやBMW社製の大型車への標準装備が進むと、徐々に日本メーカーの海外輸出仕様車にもオプションとして採用され始めた。
1980年代初頭にスズキ・カタナをはじめとした、デザイン的にもカウル同様の効果を持つ外装(メーター・バイザーという方便も使われた)をまとうモデルが発表されると、徐々に規制も緩和された。
[編集] 種類
- ビキニカウル
- ライト回りを中心とした比較的小型のカウルのこと。多くの機種で、ハンドルとライトが一体的に動くため、ハンドルを切った際に適切な光軸を得ることができる。丸灯を覆うやや大型でハンドルの上下まで伸びたカウルはロケットカウルと呼び分けることもある。
- フルカウル
- 正面のほぼ全てをカウルで覆う大型のカウルのこと。乗員への風圧を劇的に軽減できるため、長距離走行時に大きな効果を発揮する。セパレート式のカウルの場合、パーツ毎の呼び名として、上部のカウルをアッパーカウル、下部のカウルをアンダーカウルと呼ぶことがある。
- ハーフカウル
- 正面から見て車体の上半分のみを覆うカウルのこと。