グライダー
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グライダー(英語glider又はsailplane。ドイツ語Segelflugzeugは後者に近い)は滑空機に同じ。空気より重いが動力なしで空を飛ぶための乗り物。もしくはその模型・玩具。航空法の航空機としては「滑空機」がその種類。ただしエンジンを搭載したモーターグライダーと呼ばれる派生種もある。モーターグライダー(モグラと略すことあり)には離陸と地上移動に動力を使うもの(エンジン格納型retractable)と飛行機に近いもの(touring motorglider)の二種がある。ハンググライダーやパラグライダーも略してグライダーと呼ぶことがある。映画『スパイダーマン』の悪役が乗って空を飛んだ機械も「グライダー」だった。
現在人が搭乗するもの(実機)はエアー・スポーツとして、模型や玩具は趣味として楽しまれている。第二次世界大戦では、前線へパラシュート降下の訓練を受けていない兵士や車両、対戦車砲などを輸送するために飛行機で曳航する大型グライダーが各国で使用された。動力がなくとも、上昇気流をとらえる技術のあるパイロットならば高く長く飛行することができる。このような飛行をソアリング(soaring)と呼ぶ。日射による熱上昇風(サーマル)が最も一般的で、山の斜面上昇風を使う地域もある。大きな山岳や大平原の気象条件が有利なため日本記録も海外で記録されることが殆どであるが、500km往復の日本速度記録189km/hは国内で達成された。日本国内でも2003年に群馬県から岩手県にわたる地域で6,000m程度の高度を使い、8時間で1,038kmが飛ばれている。那須の山岳波(山などの風下に発生する大規模な大気のスタンディングウェーブ)を利用してチョモランマ(エベレスト)山の高度を越える、当時の日本記録が作られた実績もある。日本人が作った世界記録も数多い。世界記録や技能向上の楽しみのための認定記章はジュネーブの世界航空連盟(Fédération Aéronautique Internationale, FAI)が管理している。距離の世界記録はアンデス山脈での3,000km超に至っている。
人が搭乗する実機グライダーは航空法で規定された航空機であり、自家用操縦士、事業用操縦士の免許(技能証明)がある。練習飛行を始めるには航空身体検査のみで操縦練習許可証が発行される。最低年齢は飛行機より若く16歳(ただし操縦練習許可証は14歳から発行でき、練習が出来る)。格納型(曳航装置のある動力滑空機)の免許はやや容易になっている。滑空機免許の取得者は三千数百名、現在国内で飛行しているパイロット数は千数百名である。純グライダーと飛行機の免許の組み合わせでモーターグライダーの免許を取得する方法もある。
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[編集] 離陸
純グライダーは動力がなく、自力では離陸できないため、ウインチ曳航、飛行機曳航により離陸する。国内でも以前は自動車曳航も行われていた。
ウインチ曳航は、グライダーに800~1500mほど伸ばした金属または化学繊維製のワイヤーロープを取り付け、これをエンジンまたは電動モーターにより動かされるウインチを使用して高速で巻き取る。それによりグライダーは急激に加速、上昇していく。最高高度(300~600mほど)に達したらグライダー側でフックをはずす。
飛行機曳航は、グライダーにロープを取り付け、これを飛行機により牽引することで、飛行機の上昇とともにグライダーも上昇していく。一定高度(600~900mほど)になった時点で、グライダー側でフックをはずす。
モーターグライダーには、プロペラによって離陸し上昇後動力を止めて滑空に入ることもできるものや(格納型の大部分と飛行機型の一部)、ウィンチや飛行機曳航で空中に上がった後なら動力飛行に移れるものがある(格納型の一部)。
[編集] 機体
軽くて丈夫で製造しやすく、きれいな流線型が出せるなどの特長があるFRP(繊維強化プラスチック)製のモノコック構造のものが主流である。FRP以前は合板を加工して機体を形づくる木製構造や、鋼管羽布張りと呼ばれる鉄パイプの骨格を布で覆うことで機体を形づくる構造が主流であった。グライダーには2人乗り(複座)のもの(練習機)と1人乗り(単座)がある。第二次世界大戦後でも文部省がグライダーを奨励した時期もあり、国産機が国内の主要機だった時代もあるが、1980年代以降は国内生産がない。現在生産しているのは主にドイツと東欧である。ドイツでグライダーが盛んになったきっかけは第一次世界大戦後に軍用機に制限が加えられたためという。(空軍パイロットの初期訓練によく使われた。)
外見で他の飛行機に対して最も際立った特徴となっているのが細くて長い主翼であり、揚抗比を大きくする形状となっている。アスペクト比(縦横比)は非常に大きく旅客機が6~7程度であるのに対してグライダーは15~22程度となっている。この大きなアスペクト比によって翼に発生する誘導抵抗が小さくなることにより、最新の旅客機で揚抗比(滑空比)が20程度であるのに対し、国内で使用されているグライダーでは28から60程度の滑空比を実現している。これはつまり高度1Kmから飛行を開始した場合、無風では28kmから60kmの距離を滑空することができるということである。滑空比は訓練用の二人乗りのもので28~38、一人乗りのもので35~50程度、翼幅26mというような高性能機では二人乗りでも60に達する。
フラップにより翼型を変化させ高速性能を上げる機種も多い。ただし翼型の設計の進歩に伴い1990年以降にはフラップのない機体が競技会で活躍したことから、自重が重く低速飛行時のためフラップが安全上必要なエンジン付きの機体以外ではフラップなしの設計も再評価されている。
高性能のグライダーでは翼内に200L程度の水タンクを備え、上昇気流が強い場合に平均飛行速度を早くする装備をしているのが一般的である。水は着陸前に放出する。自重は一人乗りで260kg、二人乗りで380kgが代表的なところ。エンジンは数十kgの加算となる。
無尾翼や可変翼のグライダーも試作されている。米国では個人製作の機体も一時盛んであった。国内でも大学のクラブなどで製作されたものがある。
計器は速度、高度、コンパスに加えて滑り(機体と気流が相対する方向と、機首の指す方向が一致していないこと。こうなると抵抗が大きくなる)を見るための毛糸をキャノピーに貼るのが基礎である。(この毛糸が常に機体の軸線と一致するように操縦すれば滑りがないということになる。)これに加えて周辺大気の上下動を知るために飛行機のものよりも複雑な昇降計が装備される。また初期訓練機以外は記録飛行や競技のためにグライダー専用のGPS表示・経路記録装置と滑空距離計算コンピューターを装備している場合が多い。無線機としては従来は短波のグライダー周波数無線機が用いられてきたが、現在は航空用VHF無線機が殆どとなった。3,000m以上の高度の飛行のためトランスポンダーを、4,000m以上の飛行のために酸素装置を装備した機体も増えてきている。
高性能機をソアラと称するなどした時代もあるが、現在は法規上は滑空機の機体検査(耐空証明)について曲技A、実用Uの区別があるのみである。動力滑空機(曳航装置ありとなしの二種)についても曲技A、実用Uがある。滑空機はさらにパチンコ打ち出し式の初級滑空機、ウィンチ使用の中級滑空機、ウィンチに加えて飛行機曳航のできる上級機に分けられているが、国内では1980年代以降初級・中級機の日常的運航は行われなくなった。
グライダーは一般的に飛行機より強度が高く、一人乗りで荷重倍数+5G、-2.5G程度が典型的である。
格納型モーターグライダーはエンジン(means of propulsion)を格納した状態では純滑空機と外見上区別が困難で、性能も同等である。飛行機型モーターグライダーは抵抗が多く滑空性能は高くない。モーターグライダーは低馬力低速のものもあるが、空力的に洗練されているために二人乗り飛行機と比べて高性能のものもある。モーターグライダーによる世界一周も行われている。
曲技用の機体は+7G~+10G程度の強度があり曲技飛行機に比べて同等以上の高強度である。専用機では超過禁止速度が300km/h程度と一般的な機体の250~280km/hよりも速くなっている。国内では日本飛行機/Pilatus B4金属機が(本来は距離飛行用であるが)普及している。
ヨーロッパでは草地に格納庫を建ててグライダーを組み立てた状態で保管している場合が多いが、米国や日本では翼を抜いてトレイラーに格納している場合が多い。純滑空機は毎日組み立て・分解が可能な設計となっているものが殆どである。一人乗りでは2人で15分程度で作業ができる。距離飛行で野外に着陸した際に、その場所から飛行機曳航での離陸ができない場合はトレイラーを引いた車で回収する。
[編集] 操縦
グライダーには飛行機と同様にエルロン、ラダー、エレベーターの3 舵があり、操縦桿とペダルの操作により姿勢を変える。操縦桿を前後に動かすことでエレベーターにより機首の上げ下げ(ピッチング)を、左右に動かすことでエルロンにより機体の左右の傾き(ローリング)を、2つのペダルの踏み分けることでラダーにより機首の左右の振り(ヨーイング)をコントロールする。速度はピッチによって決まる。着陸の際は一定の速度を保ちつつ着陸点を狙う必要があるため、ダイブブレーキ(またはスポイラー、エアーブレーキ)を使用して着陸点への降下角を調整する。
初期訓練では上昇気流を捉えることができないため一飛行がウィンチで数分間、飛行機曳航で15分間ほどである。FAI技能賞銀章は滞空5時間、高度獲得1,000m、クロスカントリー飛行(距離飛行)直線50kmが基準である。
[編集] 着陸
グライダーにおいて着陸は最も危険な時である。 全事故の80%が着陸時に起っている。但し重大な事故は低空での失速によるものが主である。 着陸には都合の良い位置と高度に適正な速度で戻ってこなければならないため、操縦上は降下角、軸線、速度を合わせるという操作が必要になる。高度が30m程度より低くなると地面との摩擦で風が弱くなるため失速に注意する必要があり、さらに低くなって翼幅くらいの高さになると翼の地面効果により空気抵抗が減って滑空比が大きくなる。 接地する際には失速ぎりぎりの所で接地すると跳ね上がったり着陸滑走が長くなったりしないが、タイミングを誤ると数メートルの高さから落ちる事になる。
[編集] 競技
エアー・スポーツとして欧米では6月を中心にグライダー競技会が盛んに開かれる。200~1,000km程度の指定コースの平均速度を主に競う2年に一度の世界選手権には日本人も出場しているが成績上位者は英仏独に多い。ドイツにはグライダーパイロットが数万人いる。国際競技会は FAIの規則が原則適用される。競技カテゴリーは参加者により一般、女子のみ、ジュニアと分かれ(国によりシニアもあり)、機体別に翼幅無制限(オープン)クラス、18mクラス、15mクラス、スタンダードクラス(15mクラスでかつフラップのないもの)、ワールドクラス(認定はPW-5の一機種のみ)、クラブクラス(15mクラスの機種で古いもの)に分かれている。日本選手権も開催されており120~280km程度のコースで実施される。
高性能機種はまず競技のための最新機として販売されるため規則の変更と共に生産される機体が変わってゆく。距離・速度競技とは別に、曲技飛行のカテゴリーとしてのグライダー曲技世界選手権もある。日本人選手も出場している。国内ではグライダー、飛行機とも定期的な曲技日本選手権は開催されていない。
[編集] 飛行場所
滑空場は四国と沖縄を除き全国にある。広い平坦な用地を必要とするため河川敷を利用している場合が多く、利根川水系には目立って多い。飛行場や自衛隊基地を利用している場合もある。飛行団体は大学系と一般に分かれて各所にある。他国でも滑空場は空港とは別にあることが多い。日本は地形、気象とも変化に富みソアリングには好適な自然条件である。しかし谷や平地に住宅、電線が多く、水田に水が張られている時期には場外着陸が容易でないことから高性能機と細かな計画が距離飛行に必要とされる。国内航空法でも諸外国と同じくグライダー、モーターグライダーは離着陸を飛行場外で行うことができる。