ケロイド
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ケロイド(keloid)とは、瘢痕組織が過剰に増殖した病変であり、良性線維増殖性病変に分類されている。肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)は類縁病変である。
「ケロイド」の語は、「鉤爪(かぎづめ)」を意味するギリシア語に由来する。即ち、「鳥の鉤爪のような」病変という意味である(Enzinger FM et al., 1995)。和名は蟹足腫(かいそくしゅ)。しばしば蟹の足のような形状の突起を生ずることから来ている。
外傷や手術などが原因で、膠原線維性瘢痕が腫瘍様に増殖する場合が一般的であるが、原因不明のケロイド病変の発生もある。後者の場合には本人も気が付かない小外傷、虫刺傷などが先行することが多い。
目次 |
[編集] 臨床的特徴
思春期から壮年期に発生しやすい。欧米では白人より黒人に多い傾向が指摘されている。前胸部、肩甲部、恥骨上部などが好発部位で、頭部や眼瞼、下肢の病変は稀である。通常は皮膚の表面から隆起した弾性に富む限局性腫瘤を形成する。ほとんどの病変で圧痛や自発痛を訴えることが多い。近年多く見かけるのは、耳朶のピアス孔に一致してできたケロイドである。美容目的に医療機関(形成外科、皮膚科)を受診することが多いため、遭遇頻度が多いと推察される。一般的な傾向として、以下の点が挙げられる。
- 自然治癒がない
- 健常組織へ染み出すように広がる
- 怪我や熱傷などの直接的原因が無くても自然に出来ることがある
- 出来やすい体質がある
ケロイドと肥厚性瘢痕の見極めは専門家でも迷うことがある。決定的な指標は周辺健常部位への広がり方であり、ケロイドでは周囲の健常皮膚に発赤を認めることが多い。
[編集] 病理組織学的特徴
真皮から皮下組織にかけて、硝子様の太い膠原線維束が縦横に錯綜増殖するパターンが特徴的である。膠原線維束間に、紡錘形の線維芽細胞の分布が認められる。紡錘細胞は免疫組織化学的にビメンチン陽性であり、症例によっては平滑筋原性アクチンが陽性で、筋線維芽細胞への分化が示唆される。肥厚性瘢痕との鑑別は硝子様膠原線維束の多寡を参考にするが、必ずしも鑑別は容易でない。顔面皮膚に生ずる硬化性線維腫(sclerotic fibroma)、線維性丘疹(fibrous papule of the face)との鑑別に苦慮する例もあり、臨床医からの情報提供が正確な診断名の付与に必須である。
[編集] 治療の要点
外科的手技によって切り取る手術療法、術後の放射線治療(Ogawa R et al, 2003)、ステロイド剤の軟膏・注射やヘパリン類似物質塗布、シリコンジェル・シートまたは絆創膏・テープによる圧迫療法・密閉療法、トラニラストの内服などの療法がある。しかしながら単独で効果のある治療は確立されておらず、種々の治療を組み合わせた集学的治療が必要となる。
[編集] 参照文献
- Enzinger FM, Weiss SW. Soft tissue tumors. 3rd edition, Mosby-Year Book Inc., ISBN 0815131321 (1995)
- Ogawa R, Mitsuhashi K, Hyakusoku H, Miyashita T. Postoperative electron-beam irradiation therapy for keloids and hypertrophic scars: retrospective study of 147 cases followed for more than 18 months. Plast Reconstr Surg. 2003 Feb;111(2):547-53; discussion 554-5.
[編集] 関連項目
カテゴリ: 増殖性疾患 | 皮膚疾患 | 医学関連のスタブ項目