コデックス
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コデックス(ラテン語:Codex)とは写本の形状の一種で、古代末期から中世にかけてつくられた冊子状の写本のことである。写本の構造的な研究のことを写本学(Codicology)といい、写本の内容に関する研究のことを総称して古文書学(Peleography)という。冊子本、冊子写本などと呼ばれることもある。
コデックスといえばヨーロッパで書かれたものがほとんどであるが、マヤ・コデックスやアズテック・コデックスなどアメリカ大陸で16世紀につくられたものもある。コデックスはもともと巻物に代わってつくられていたが、やがて印刷本にとって代わられることになる。
[編集] 歴史
古代ローマ人たちはうすい木の板にワックスを塗り、何度でも使える筆記用具として用いていた。これがコデックスの原型である。記録上、このような筆記用具がはじめて用いられたのは1世紀の後半のことで主に軍事用としてであった。この時代、書物や記録の形態としてもっともよく用いられていたのは巻物であり、4世紀まで巻物が書物の主流であった。ガイウス・ユリウス・カエサルはガリアへの遠征時、文書を巻いておくよりも蛇腹状にまとめたほうが素早く参照できることに気づいた。2世紀のはじめごろにはキリスト教徒たちはパピルスを冊子上にまとめたコデックスの形式を好んで用いていたことがわかっている。1世紀に没したパピリ・ヘラクラネウムの居館の蔵書はほとんどが巻物の形式であったが、390年に秘匿されたと考えられるナグ・ハマディ文書ではすべてがコデックスになっている。
西欧では徐々にコデックスが巻物にとって変わっていった。4世紀から8世紀のカロリング朝の時代にかけて多くの巻物がコデックスに書き換えられていったが、この間にコデックスにされなかった書物は失われてしまった。コデックスには巻物にはない多くの利点があった。平面的で場所をとらない、特定の箇所を開いて読みやすい、表にも裏に書ける、表紙をつけて中身を守ることができる、持ち運びが楽などということである。
コデックスにはもうひとつ、書庫などで保管する際に背にあたる部分にタイトルをつけて探しやすくできるという利点があった。書名をわざわざつけるという発想は中世にいたるまで一般化しなかったので、ほとんどの古代の書物は冒頭の数語をとって書名としていた。(これをインキピットという。)
初期のコデックスはパピルスをまとめたものだったが、パピルスは破れやすく、エジプトでしか作られなかったので、徐々に羊皮紙にとって変わられた。羊皮紙はパピルスより高価だったが、頑丈だったことで好まれた。
ヨーロッパ同様、古代アメリカ文明においてもコデックスが用いられていた。アメリカのコデックスはいちじくの木の樹皮などの植物繊維を切ってまとめて漂白したものから作られていた。
[編集] 有名なコデックス
コデックスの中でも有名なものには名前がつけられている。その名前は所在地や所有者に由来していることが多い。
- アレクサンドリア写本 Codex Alexandrinus
- アレッポ写本 Aleppo Codex
- アミアティヌス写本 Codex Amiatinus
- アルジェンテウス写本 Codex Argenteus
- アステンシス写本 Codex Astensis
- サンエメランのアウレウス写本 Codex Aureus of St. Emmeram
- ロルシュのアウレウス写本Codex Aureus of Lorsch
- ベロリネンシス写本 Codex Berolinensis
- ベザ写本 Codex Bezae
- クラロモンタヌス写本 Codex Claromontanus
- クマニクス写本Codex Cumanicus
- エフレミ・リスクリプトゥス写本 Codex Ephraemi Rescriptus
- エクゾニエンシス写本 Codex Exoniensis
- フラトイエンシス写本 Codex Flatoiensis
- ギガス写本 Codex Gigas
- グランディオール写本 Codex Grandior
- エルサレム写本 Codex Hierosolymitanus
- コリデティ写本 Codex Koridethi
- ライスター写本 Codex Leicester
- レニングラード写本 Leningrad Codex
- マネッセ写本 Codex Manesse
- ms.3228a写本 Codex ms. 3227a
- ノーウェル写本 Nowell Codex
- ピサヌス写本 Codex Pisanus
- レギウス写本 Codex Regius
- ロホンチ写本 Rohonczi Codex
- ルニクス写本 Codex Runicus
- シナイ写本 Codex Sinaiticus
- チャコス写本 Codex Tchacos
- ウッセリアヌス・プリムス写本 Codex Usserianus Primus
- ヴァティカン写本 Codex Vaticanus
- ウェラーシュタイン写本 Codex Wallerstein
- ザモシアヌス写本 Codex Zamoscianus
- ズーヘ・ヌッタル写本 Codex Zouche-Nuttall
- ナグ・ハマディ写本
[編集] 関連項目
- 古文書学
- 写本学
- 新約聖書
- 人文主義