スリップウェア
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スリップウェア(Slipware)とはヨーロッパなど世界各地で見られた、古い時代の陶器の一種。その表面の、独特の装飾方法に特徴があった。
まずスリップと呼ばれる泥漿(でいしょう、水と粘土を適度な濃度に混ぜたもの)を準備し、生乾きの鉢や皿の上にスリップをスポイトから細く垂らしたり、筆で描いたり、はねつけたりして文様を作る。このあと窯に入れて焼くと、スリップをたらした部分は盛り上がって素地とは違う色の文様が浮かび上がることになる。
スリップは白い粘土や鉱石の調合で作られ、「化粧土(engobe、エンゴーベ)」とも呼ばれる。陶器がスリップで均一に塗られる場合(化粧掛けされる場合)もあるが、これは荒い素地を色の淡いスリップでカバーし、滑らかで美しい表面に仕上げるためや、スリップを部分的に削って素地の色を出し模様にするためである。ヨーロッパなどで建築の壁の装飾に使われたスグラフィット(Sgraffito)という手法は陶芸でも使われており、壷や器が生乾きの間に、着色したスリップ(化粧土)の層を線で引っかいて、下側の異なる色のスリップの層や素地となる陶の色を露出させることで絵を描く。
またスリップは、陶の上に色を一層または数層に重ねて絵を描く手法としても使われる。このうち、スポイトから垂らす手法は日本の作陶における「筒描き」と同じ手法であり、スリップを垂らしては流しを繰り返して矢羽根文様を作ることもできる。
また陶の素地が色・質感ともに望ましい物ではない場合、一回スリップを塗って焼き、その上に異なる色のスリップを流して削ったり線を描いたりすることもできる。
多くの先史時代や産業革命前の時代の文化で、スリップは陶を装飾する手段として使われた。例えば先史時代の中東、アフリカの多くの地域、南北アメリカ大陸の先住民の陶、初期の朝鮮半島、ミケーネ文明の陶、古代ギリシアの陶、そして18世紀までのイギリスなどで鍋や皿をかねて使われていた重厚な陶器である。比較的進んだスリップウェア、例えばイギリスでのスリップウェアは釉薬と組み合わせて使われていた。
こうしたスリップウェアは進んだ陶磁器技法の普及や産業革命による大量生産品の普及とともに廃れた。しかし20世紀になって見直されこの技法を使う陶芸家やメーカーも多くある。そのうち、バーナード・リーチや濱田庄司らは1920年代、イギリスのセント・アイブスの彼らの窯の近くでスリップウェアの破片を見つけ、また使われなくなったスリップウェアを収集し、船木道忠によってその技法が解明された。これら無名の職人の素朴な器は、彼らの作陶や、日本の民芸運動の陶芸家にも強い影響を与えた。
[編集] 外部リンク
- スリップウェア研究会
- スリップウェア(日本民藝館ウェブサイト)