ダクト
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ダクトとは、建築あるいは自動車などの用途で「風を流す」こと、分電盤などの用途で「電線を収納する」ことを目的とするものや無線分野での電波の飛ぶ様を表すことなどに分かれる
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[編集] ダクト(建築分野)
ダクト、風導管(ふうどうかん)とは、建設分野の用途で「風を流す」ことを目的にした管及びそれを目的とした空間を指す。
[編集] 概要
鉄板製の矩形の部材を組み合わせ、空調機械から居室などへの空気の流れ道とするもの。空調・排気排煙などに用いる建築設備のひとつである。 形状は矩形以外に円形や楕円形をしたものもあり、送風機の吐き出す圧力によって空気が流れるため、所定の風量を確保するためには、一定の断面積が必要である。極端に長くて細いと風量が減り、冷えない・暖まらないの苦情の原因となる。
丸型のものは、スパイラルダクトや楕円のオーバルダクトがある。スパイラル風導管やオーバル風導管とは呼称されることは少ない。スパイラルダクトあるいは単にスパイラルと呼ばれる。
角ダクトや丸ダクトは、建築設計図から施工図に基づいて製作が行われ、現場で組み合わされて完成する。材質は、亜鉛めっき鉄板が最も多い、ガルバリウム鋼板、ステンレス鋼板、塩ビ塗装鋼板などの場合もある。使い分けは、主に防錆の目的度合いで異なるが、予算等で決められてしまう場合もあり、注意が必要である。亜鉛めっき鉄板は、ダクトの主用材であるが、防錆の面では最適とはいえず、水場周辺ではガルバリウムが主流である。防錆では、ステンレスが最適ではあるのだが、ステンレス鋼の価格が最近急騰しており、使いづらくなってしまっている。医療現場などのクリーンルームでは、塩ビ塗装鋼板が多く用いられている。また、スーパーダイマやアルシートなどの新素材も、最近出てきている。鉄板の板厚はダクトの大きさにより変化し、一般ダクトの場合0.5ミリから1.2ミリ程度である。排煙用のダクトになると、使用時の空気圧などの関係から1.6ミリの厚手の鋼板が使用される。1.6ミリとなると、ダクト製造時の板と板の接続にハゼを用いることができず、すべて溶接により形成される。
角ダクトと丸ダクトは「角丸」と呼ばれる特殊なダクトで接続することができる。丸ダクト同士の接続は、主に差込によって行われる。角ダクト同士の接続は、現場にて溶接をしてつなぐことも可能であるが、作業負担が大きいため、主に二つの様式でおこなわれる。一つは「アングルフランジ接続」であり、鉄などで製造された、フランジという枠を角ダクトの両端にリベットで接続し、現場ではそのフランジ同士をボルトで固定してつなぐ方法である。単に「フランジ」と通称される。もう一つは、最近主流となってきた「共板フランジ接続」であり、TDCと通称される。この工法は、角ダクトの端を外折にめくり上げ、その四隅にコーナーピースという金具を接続し、現場ではコーナーピース同士をボルトで接続する工法である。フランジ接続に比べてボルト穴が四隅のみで少ない分、接続部の辺の部分にダクトクリップという金具をかみ合わせて、強度を出す。近年は、ダクト製造と現場作業の手数がより効率的なTDCが主流ではあるが、排煙ダクトなど、より強度が必要なダクトの場合は、フランジ工法が今でもメインとなっている。また、丸ダクトにもフランジが用いられることがあり、角ダクトでも、補強の目的で、長いダクトの中間部にボルト穴の開いていないフランジをかませることがある。
また、機器から排気を取り出す際に、本管へ機械の振動や騒音を伝えないための目的で、主にアルミニウムやステンレス、鉄などの材料で蛇腹状に形成されたフレキシブルダクトが多く用いられ、そして防振の目的で、塩ビ樹脂やアルミガラスクロスなどで作られたキャンバスと呼ばれる継ぎ手も作られ、しばしば見かけられる。
建築シャフトを給排気チャンバーにしたりする場合は、コンクリートのままのシャフトをダクトとする場合がある。この場合はコンクリートダクトと呼ばれる。コンクリート風導管とは呼ばれない。天井裏をダクトとして利用する場合があり天井全体がチャンバーとなる。
防火区画を貫通することが多く、延焼防止や熱い空気の噴出を防ぐ為、全てのダクトに防火ダンパーが入れられる。防火ダンパーには、各個に設定されたヒューズが取り付けられており、設定温度を超えた空気が通過すると、ヒューズが作動して通気を遮断する。厨房排気が外部に出るところも同じであるが、この場合換気扇シャッターで代用することもある。
[編集] 用途別区分
- 空調
- 冷風あるいは温風が流れるもの(給気SA)また、部屋より空調機への還り(還気RA)に使われる。給気の場合は保温断熱されることが多い。精密部品の工場や食品関係のクリーンルームや、病院の手術室などの清浄度維持にも空気の入れ替えが必須であるので、一定の給排気が必要である。
- 排気
- 一般の排気(EA)や厨房排気に分かれる、断熱されることは少ない。有機溶剤の局所排気、臭気や必要のない高温低温の空気を排出することもある。実験設備や放射線設備の排気は、フィルターで処理してから排気される。また、厨房排気は延焼防止と油分のダクト内部への付着防止のため油分分離装置がつくことが多い。蒸気の分離が必要な場合もある。
- 排煙(SEA)
- 火災発生時の発生煙を外部に放出するために利用され、延焼防止の目的で断熱されることが多い。通常、通過風速を高速に設定するため、静圧を高圧にするべく板厚が厚く作られる。
[編集] 建設業としての位置
設備工事としてのダクト設置工事は、建設業のうちの、管工事業に分類される。工事の例示として、ダクト工事と記載される。法律上は風導管という言葉はほとんど出てこない。業として営むには建設業許可が必要である。この場合、現場や営業所の主任技術者になれるのは、管工事施工管理技士と実務経験者などである。板金工事の技能士は主任技術者になれない。配管技能士は主任技術者になれるが、配管工事とダクト工事はほとんど共通する施工はない。国土交通省と厚生労働省の所管の違いが生むねじれ現象である。
[編集] 歴史
昭和初期に日本に冷暖房が入ってきたころに、米国より技術が伝承されたとされる。 当初、板金工事の職人が従事していたので、技能の系統としては板金作業になっているが、流体力学的にも配管工事に近い業務である。当初はフランジ接続であり、展開が手作業であったが、昭和60年ごろに自動プラズマ切断機と共板工法が広まり日本では、かなり生産性が向上した。輸送中の体積を減らすため、折りたたんだり現場で組み立てたりの工夫も一部では見られるものの、工場で製作し、現場で取り付けるのが一般的である。
TDCというのは共板工法の一つ、アメリカロックフォーマー社の製品である。
[編集] 角ダクトの種類
まっすぐのもの、まがったもの、とそれらの組み合わせである。
- 直管
- 同じサイズで、ただまっすぐ。定尺の鉄板から取れるものは、定尺ダクトと言う。鉄板素材が6フィート幅のものが多いため、面間長さ1740㎜が標準である。
- エルボ
- まがったもの。普通は90度だが、45度や135度や60度や30度でも製作可能。カーブしながら変形したり、ねじれを加えたりできるが、断面積が少なくなると抵抗が増す。
- ホッパー
- 入り口と出口のサイズが違う。普通は面間が平行だが、角度やねじれのついたものも製作可能。
- 角丸(かくまる)
- 入り口が円形で、出口が四角形。丸ダクトと、角ダクトの接続に使う。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
[編集] ダクト(自動車分野)
[編集] ダクト(電線収納)
- 分電盤などの内部において、電線の保護、整理のため、収容できるように合成樹脂製の箱型のものを配置し、その中に電線を収容する。この箱型のものをダクトと呼ぶ。
[編集] ダクト(無線分野)
- 無線の電波が電離層の反射などによって、遠くへ飛ぶことがあり、この反射する部分をダクトと呼ぶことがある。