メトヘモグロビン血症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
メトヘモグロビン血症(ーけつしょう)とは、血液中にメトヘモグロビンが多い状態を言う。チアノーゼを起こす代表的疾患のひとつ。チアノーゼとは、唇や爪が鮮やかな赤ではなく、静脈血のような紫色になっている身体所見を指す言葉である。チアノーゼを起こす頻度の高い原因は、肺疾患(肺炎や肺気腫などで、直接的に血液に酸素を取り入れられなくなる)や心疾患(心不全を起こすと、肺に水がたまり酸素をうまく取り入れられなくなる、あるいは右左シャント)であるが、特に新生児を含む若い人がほかに原因のないチアノーゼをきたしているようならメトヘモグロビン血症の診断が検討される。
目次 |
[編集] 病態
メトヘモグロビンは、ヘモグロビンに配位されている二価の鉄イオンが三価にとなっているものである。メトヘモグロビンは正常な体内でもごくわずかに産生されており、シトクロームb5還元酵素によって二価に還元される。メトヘモグロビンは酸素を運搬できないため、何らかの原因によりこれが体内に過剰になると、体の臓器が酸素欠乏状態に陥る。
[編集] 原因
- 先天性: まれ。
- シトクロームb5還元酵素欠乏症は、メトヘモグロビンを代謝する酵素の先天性の異常で、常染色体劣性遺伝形式を示す。世界で一例だけ、シトクロームb5欠乏症によるメトヘモグロビン血症の報告がある。
- Mヘモグロビン血症は異常ヘモグロビンを原因とするメトヘモグロビン血症で、常染色体優性遺伝形式を示す。
- 後天性
[編集] 症状
- チアノーゼ
- 通常のチアノーゼは血中にデオキシヘモグロビンが5g/dLをこえると出現するが、メトヘモグロビンは1.5g/dL程度の濃度でもチアノーゼをきたす。デオキシヘモグロビンが5g/dL以上というのは重篤な状態を意味する。したがって、ほかに特に症状のない(元気な)単独のチアノーゼの所見はメトヘモグロビン血症を示唆する所見のひとつである。
- 慢性の経過をきたす先天性では、チアノーゼ以外の症状はほとんどない。ただし、シトクロームb5還元酵素がほぼ欠損している場合(Type II)には、種々の神経障害や発達遅延などをきたし、予後が悪い。
- 後天性における急性発症では、頭痛などの全身症状や呼吸苦、呼吸抑制、意識障害、さらには死に至ることもある。
[編集] 検査所見
- 動脈血を採血したはずなのに、真っ黒(あるいはチョコレート色)な血がひかれることがある。
- もしメトヘモグロビン血症であるなら、その後測定した動脈血中酸素濃度とその色とが乖離している。
- パルスオキシメーターによる酸素飽和度は正確な値を示さず、低値を示す。
- 動脈血中酸素濃度から計算した酸素飽和度との差はsaturation gapと呼ばれ、診断に有用である。
- メトヘモグロビン濃度の上昇(確定診断)
- 血液を置いておくとメトヘモグロビン濃度は上昇するため、できるだけ早く検査する必要がある。
[編集] 鑑別疾患
- 冒頭で述べた肺疾患、心疾患
- スルフヘモグロビン血症
[編集] 治療
- 急性期には、メチレンブルーの投与、交換輸血、酸素投与など。
- メトヘモグロビン血症の原因となったと思われる薬剤を中止し、今後の投与を避ける。
- 先天性においては、硝酸をふくむような飲食物の摂取を避ける。
カテゴリ: 医学関連のスタブ項目 | 血液疾患 | 救急医学