ラック式鉄道
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ラック式鉄道(らっくしきてつどう)とは、2本のレールの中央に歯型のレール(歯軌条、ラックレール)を敷設し、車両の床下に設置された歯車(ピニオン)とかみ合わせることで、急勾配を登り下りするための推進力と制動力の補助とする鉄道のこと。特殊な分岐器が必要とされる。
ラック式鉄道は、歯軌条と歯車の形状により、リッゲンバッハ式、シュトループ式、フォンロール式、アプト式、ロヒャー式などの種類がある。
ただし、日本の営業用鉄道路線ではアプト式以外の採用例がないため、日本では「アプト式」があたかもラック式鉄道全般を指す言葉であるかのような誤解がしばしば見られる。
上に述べたすべての方式の採用例があり、ラック式鉄道が世界で最も普及している国はスイスである。その多くは観光鉄道になっている。
ラック式鉄道に対して、車輪とレールと摩擦力(粘着力)によってのみ駆動と支持を行う鉄道を、粘着式鉄道と呼ぶ。
[編集] ラックの諸方式
- リッゲンバッハ式は、浅いコの字の形をした2本の鋼材の間に台形断面のピンを渡した、はしご状のラックレールを使う。ラック式として最初の方式。ラックレールの構造が複雑。スイスの技師ニクラウス・リッゲンバッハ(1817年5月21日-1899年7月25日)によって考案された。
- シュトループ式およびフォンロール式は、幅の広い単一のラックを使う。シュトループ式は頭の大きなレールの形をした鋼材に歯をつけてラックにする。分岐器も含め、構造が簡単なので比較的新しい路線でよく使用される。シュトループ式はスイスのエミール・シュトループによって、フォンロール式はフォン・ロール社によって開発された。
- ロヒャー式は、ラックの歯が上部ではなく側面にあり、2枚の歯車がそれをはさむ形になる。車体側のピニオンがラックに乗り上げるおそれがなく、諸方式の中で最も急勾配に対応できるとされている。分岐器が作れず、トラバーサーで進路を切り替える。これを採用したスイスのピラトゥス鉄道は、ケーブルカーをのぞいた鉄道最急勾配の480‰(パーミル)を誇る。スイスの技師エデュアルト・ロヒャー(1840年1月15日-1910年6月2日)によって考案された。
- フェル式は厳密にはラック式ではないが、中央のレールを水平の2枚の車輪がはさみこむ。
[編集] 関連項目
- de:Carl Roman Abt(カール・ロマン・アプト)※ドイツ語
- de:Niklaus Riggenbach(ニクラウス・リッゲンバッハ)※ドイツ語
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