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分岐器 - Wikipedia

分岐器

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

Disambiguationこの項目では鉄道の分岐器について説明しています。電波工学における分岐器については分配器をご覧ください。
分岐器の例
分岐器の例

分岐器(ぶんきき)とは、鉄道線路において線路を分岐させ、車両の進路を選択する機構である。分岐器のうち、進路を転換する部分のことをポイントというが、一般には分岐器全体のことをポイントと呼ぶ。正式名称は、ターンアウトスイッチであり、分岐器を操作する装置を転轍器(てんてつき)と呼ぶ。

目次

[編集] 構造

片開き分岐器の概略図
片開き分岐器の概略図

分岐器は通常、図に示したような構造になっており、黒線はストックレール(基本レール)、茶色の線はトングレール(先端軌条)、赤線はリードレール、紫の線はウィングレール、青の線はガードレール(護輪軌条:ごりんきじょう)、オレンジ色の線は主レール、緑の線はノーズ(鼻端レール)またはフログ(轍又・てっさ)と呼ばれる。進路変更はトングレールを分岐側と反対側のストックレールに移動させることで行う。なお、弾性分岐器ではトングレールとリードレールとウィングレールが一体化されている。

可動式ノーズの概略図
可動式ノーズの概略図
可動式ノーズ(ボン中央駅)。クロッシング部にガードレールがない。
可動式ノーズ(ボン中央駅)。クロッシング部にガードレールがない。

ノーズ付近に見られるすき間は車輪のフランジがスムーズに通過できるように設けられたものでフランジウェイと呼ぶ。このすき間による他線への誤進入を防ぐため通過する車両は減速を強いられるが、ノーズまたはウィングレールを可動式にしてウィングレール(ノーズ)に密着させ、高速通過を確実にしているものも存在し、主に新幹線で多用されている。その場合、ノーズ(ウィングレール)はトングレールと連動するようになっている。

右に可動式ノーズの概略図を示す。このうち水色のレールが緑色のレールを軸にして動くことでフランジウェイを塞いでいる。図では直進の場合のフログの状態。可動式ノーズを用いた場合異線進入のリスクが減少するため、クロッシング部のガードレールが省略される場合がある。

[編集] 仕組み

一般的に1線の線路を2線(またはそれ以上)に分岐させるもので、下記の4つの部位から成り立つ。1線側を前端、2線側を後端と称する。

ポイント部
上図1の部分。トングレール(列車を分岐させる先の尖ったレールのこと)およびそのトングレールが密着する基本レール部分を指す。
リード部
上図2。トングレールとクロッシング部を結ぶ部分を指す。一般的に、分岐線側はリード部が曲線となるが、この曲線半径のことをリード半径と呼び、この半径の大小が分岐器の列車通過制限速度を決定する大きな要因となる。
クロッシング部
上図3。分岐器でレールが交差している部分を指す。内方分岐と外方分岐以外のクロッシング部は、通常直線になっているが、曲線半径を大きくするためにクロッシング部を曲線にした曲線クロッシングもある。
ガード部
クロッシング部の相手方のレール部分に列車が異線進入するのを防ぐために設けてあるガードレール部を指す。

専門的には、たとえば「弾性分岐器」といえば弾性ポイントを使用した分岐器全体を指し、「弾性ポイント」といえば上記4部位のうちの「ポイント」のみを指す。

[編集] 種類

[編集] 形状による分類

片開き分岐
直線軌道から分岐線のみを曲線で分岐させる形状のもの。基本線は直線であり、分岐線線は曲線となる。基本線から分岐線が右側に分岐するものを「右片開き分岐器」、左側に分岐するものを「左片開き分岐器」と称する。
両開き分岐
直線軌道から分岐線を左右同一の角度で開いて分岐させる形状のもの。
振分分岐
直線軌道から分岐線を左右が等しくない角度で開いて分岐させる形状のもの。振り分け率は9:1、4:1、7:3、3:1、2:1、3:2のものが一般化されている。
内方分岐
内方分岐
内方分岐
曲線区間で基本線、分岐線ともに同方向の曲線で構成されているもの。右カーブの場合「右内方分岐」、左であれば「左内方分岐」と呼ぶ。
外方分岐
曲線区間で基本線と分岐線を逆方向に分岐させる形状のもの。根元も曲線の両開きや振分分岐と考えることができる。基本線のカーブ方向によって「右外方分岐」と「左外方分岐」とが存在する。
シーサス・クロッシング
シーサス・クロッシング
片渡り線
(クロスオーバー、シングルクロス)複線区間など複数の線路が並行する箇所において、隣接する線路へたすき掛けされた形状のもの。複線区間では上下線の行き来に多用される。
両渡り線(ダブルクロス(オーバー)、シーサス・クロッシング SC)
両方向への片渡り線を同一箇所に重ねて配置したもの。フランジウェイが増えるため、複数の片渡り線を別個に設置する余裕がない駅などで使用される。
交差(ダイヤモンド・クロッシング、DC)
鉄道同士の平面交差を行う際に用いられる。線路の枝分かれはないが、分岐器の一種とされる。分岐器と交差をあわせて分岐器類と言う。
片渡り付交差(シングル・スリップ・スイッチ、SSS)
ダイヤモンド・クロッシングに渡り線を一本付加することで、交差する線路のうち一方向への分岐が可能なもの。もう一方は交差しかできない。鶴見線などで多く見られ、片開き分岐との組み合わせで両渡り線のように用いることもある。
両渡り付交差(ミュンヘン中央駅)
両渡り付交差(ミュンヘン中央駅)
両渡り付交差(ダブル・スリップ・スイッチ、DSS)
シングル・スリップ・スイッチにさらに渡り線を一本付加し、交差する線路の双方向へ分岐できるようにしたもの。ヨーロッパのターミナル駅で多用されている。
三枝分岐(スリースロー)
2つの片開き分岐を重ねて3方向に分岐できるようにしたもの。
複分岐
2つの片開き分岐を重ねて3方向に分岐できるようにしたもの。三枝分岐は枝が左右対称に分かれるが、複分岐では分岐点が前後にずれている。阪急宝塚線等にみられる。
単複線・搾線(ガントレットトラック)
敷地面積の狭い場所において、2本の線路を重ねるようにして敷設したもの。現在日本では使われていないが、過去には名鉄瀬戸線堀川~土居下間でみられた。

[編集] 番数

分岐器においては、基準線と分岐線との開き具合を番数によって示す。番数とは基準線と分岐線のなす角度で表される値である。たとえば片開き分岐器の場合、分岐点(理論交点と呼ぶ)から基準線を分岐器後端方面に12m進んだときに分岐線と1mの開きがあった場合、この分岐器は12番分岐器と称し、これを#12と表記することもある。通常はこの番数が整数となるものが使用される。分岐器番数が大きいほどリード半径を大きくすることができ、その結果列車の通過制限速度を高くすることができるが、分岐器延長が長くなり、高価であると共に据付のための多大な用地が必要となる。

また、同じ番数の分岐器であっても軌間が大きいほどリード半径は大きくできるので、分岐器列車通過制限速度を高くする見地から言えば軌間が大きい方が有利である。

番数 #n と分岐角 θ (rad) の関係は以下のようになっている。上式は正式なもの、下式は簡易式である。

\# n = 2\cot{\theta\over 2} \left(= \frac{2}{\tan{\theta\over 2}}\right)
\# n = \cot\theta \left(= \frac{1}{\tan\theta}\right)

[編集] 番数に関するトピックス

  • 上越新幹線下り線の高崎駅付近で、北陸新幹線長野新幹線)の分岐に使用されている38番分岐器は、分岐側の通過速度が日本最速の160km/hである。
  • JR北海道では石勝線高速化の際に楓駅(現、楓信号場)に日本で初めて20番両開き弾性分岐器を設置し、両開き分岐器最高の通過速度 120 km/h を実現した。
  • 特殊狭軌線(軌間762mm)である三岐鉄道北勢線では東員駅等で新たに12番片開き分岐器を導入したものの、軌間の制約もあって分岐線側通過制限速度は 25 km/h にとどまっている(参考:JR在来線等の12番分岐器の分岐側制限速度は 45 km/h)。

[編集] 構造上の種類

[編集] 滑節ポイント

鈍端ポイントともいい、トングレール(分岐器の分岐部分のレール)の後端部継ぎ目部分に遊間(隙間)を設け、ポイント転換の際にトングレール後端部が滑り移動しながら動作するポイントのこと。大正14年型分岐器や側線用分岐器等に使用される。

[編集] 関節ポイント

トングレール(分岐器の分岐部分のレール)の後端部継ぎ目部分に遊間(隙間)を設け、ポイント転換の際にトングレール後端部を中心にして回転するように動作するポイントのこと。50Nレール使用の本線用分岐器等、全国的に最も多く使用されてきたが、トングレール後端部継ぎ目部分での衝撃・損傷が大きいため、主要幹線では下記の弾性ポイントに更換されつつある。

[編集] 弾性ポイント(弾性分岐器)

16番両開き弾性分岐器
16番両開き弾性分岐器

トングレールとリードレールを一体化してトングレールの後端部継ぎ目をなくしたポイントのことで、トングレール後端部レール底面に切り欠きが設けてあり、トングレール全体をたわませて転換する。弾性ポイントを使用した分岐器のことを弾性分岐器と称する。分岐器通過時の振動や騒音が押さえられ、通過速度を向上できる特徴がある(直線側は速度制限なし = 実際は線区最高速度になる)。

新幹線や高速列車の多い路線で多く使用されるが、他の分岐器より一般的に高価となる。在来線では、JR四国予讃線本山駅に最初に設置され、160km/hで通過した実績がある。

[編集] 乗越分岐器

安全側線に使用されている乗越分岐器
安全側線に使用されている乗越分岐器
特殊狭軌線(軌間762mm)用の乗越分岐器(乗越クロッシングのみを用いたもの)
特殊狭軌線(軌間762mm)用の乗越分岐器(乗越クロッシングのみを用いたもの)

乗越ポイントと乗越クロッシングの両方またはどちらか一方を用いた分岐器のこと。乗越クロッシングは分岐線側に列車が進入する場合基準線を車輪が直接乗り越えていく構造をしている。乗越ポイントは横取り装置と呼ばれる渡り板のような装置を覆いかぶせる。基準線側を列車が通過するときは、その基準線にフランジウェイがないことから分岐器の無い通常の軌道部分と同じであり、滑らかに通過できる特性を持つが、分岐線側に列車が進入した場合は列車の上下動が大きくなってしまう欠点がある。従って、分岐線側に滅多に列車が進入しない安全側線新幹線の保守車両用留置線に多用される。

乗越分岐器は手動式、自動式とに大別でき、手動式ではトングレールは動かず、分岐器脇に据え付けられた横取り装置を覆いかぶせて使用する。自動式でのトングレールは横取り装置一体型で、ポイントが分岐線側に開通した場合に関節ポイントのように横取り装置が移動し、基準線の上に覆いかぶさる構造となっている。

[編集] 転轍器

分岐器は、通常はある一定の方向(本線)に列車を進入させるようになっている。これを定位という。また、通常とは異なる方向(副本線)に列車が進入するようになっていることを反位という。

[編集] 電気転轍器

電気信号によって動かす転轍器で、1箇所で集中制御する際に用いられる。進路の状態を表すには信号機が用いられる。 下記の手動転轍器に記載の標識およびランプがあるものも存在する。

[編集] 手動転轍器

転轍器標識
転轍器標識

現場で扱う転轍器で、その動作方法により下の3種類がある。 主要な手動転轍器には、進路の方向を示すための標識がある。また、夜間など標識が見づらい場合のために、ランプがつくものがある(ランプは通常、定位が青紫、反位が橙色)。

普通転轍器
常に人の手によって進路を変える転轍器。定位での標識は青の円盤、反位では黄色の矢羽根形である。本線用などは、列車通過時の振動で勝手に切り替わることがないよう、ロック機構がある(ロック方式は数種類がある)。ローカル線や保線用側線など、通過車両が比較的軽量かつ低速である場合、転轍器のハンドル自体の重量でロックに代える簡易式のものもある(通称「ダルマ」)。
いたずら等で操作されることを防ぐため、施錠機構が存在する場合もある。たとえば、日中線熱塩駅の機回し線には、通票(タブレット)をセットしないと動かせない転轍器が存在した(この方式の転轍器は、国内にはすでに例がない)。
発条転轍器 (スプリングポイント)
通常の分岐器は人の手によって進路を変えるが、この転轍器は原則的に定位に固定され、列車通過時もポイント操作が行なわれない。分岐側からの列車は車輪によってポイント部のトングレールを押し広げて通過し、通過後はスプリングによって自動的に定位へ戻るようになっている。定位のときの標識は青の円盤にSの文字、反位のときは黄色の矢羽根形である。必要があれば普通転轍器と同様に手動で反位に固定することもできる。
ポイント操作が不要なので、省力化のため設置される。路面電車の折り返し箇所や、進行方向が一定しており高速の列車通過が無い単線区間の交換駅などで使われている。
脱線転轍器
単線区間の列車交換駅で、安全側線が設けられない場合に設ける転轍器。定位で脱線するようになっている。しかし、低速でなければ車両転覆の危険があるため、主に保留貨車の脱線防止に使われていた。定位のときの標識は赤の四角、反位のときは黄色の矢羽根形である。

[編集] 関連項目

Wikimedia Commons
ウィキメディア・コモンズに、分岐器に関連するカテゴリがあります。

[編集] 外部リンク

各種レールの構造の解説、種類、写真など。

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