上皿天秤
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広義には、上皿天秤(うわざらてんびん)は天秤ばかりの一種であり、試料や分銅を乗せる所に下から支えられた上皿が置いてある形式のものである。上皿でないものでは、試料や分銅を乗せる皿は上からつり下げられている。
狭義には、化学や薬学の実験、理科実験、調剤、調理において使われてきた、数百グラム以下の質量計測に使う装置を指す。本項では、この狭義の上皿天秤について述べる。狭義の上皿天秤は少量試料の精密質量測定のために多く使われてきたが、現在では直示天秤や電子天秤の方が多く使われている。
[編集] 各部の名称
上皿天秤の棹または梁(beam)は、表に出ている一本のほかに、台座の中にもそれと平行な棹が取り付けてあって、それらを両端の皿を垂直に支えている支持棒によって結合することによって、リンク機構(平行四辺形)を形作っている。この構造のおかげで、天秤が傾いても棹に加わる両端の力(重力)が平行になる。棹および皿の重量分布は左右対称になっており棹の中央で刃(Edge)で支点としている。
[編集] 操作方法と注意点
物質の重量を測定する場合は、左側に被測定物をのせ、右側に分銅を載せる。これは、頻繁な操作を必要とする側を右に持ってくることによって右利きのものが作業しやすいようにするためであるから、左利きのものなど逆にしたほうが操作しやすいと思うものが操作を行う場合は逆にしてもよい。また、天秤の急激な傾がりは支点で棹を支える刃(Edge)を欠けさせたり、潰したりして天秤の精度を損なう原因になるので慎まなくてはならない。測定物の質量が未知である場合は、軽い分銅から徐々に分銅の重量を増してゆく必要がある。分銅の重量構成は、とある分銅の質量とつりあうだけの量のさらに小さな質量の分銅が存在する。したがって、分銅の重量を増加させてゆくときは分銅の載せる順番を考慮して載せる分にほぼ見合う分だけ分銅を除いてから分銅を載せる必要がある。測定物の質量がおおよそ判明している場合は、その試料の質量以下で最大の分銅から初め、徐々に小さい分銅を追加する。
このようなプロセスを、天秤がつりあうまで繰り返すことによって、右側の皿の上の分銅の質量の合計が、被測定物の質量となる。このとき、効率を求めて重い分銅からはじめるのは支点の破損により天秤の精度を損なう危険があるので手間を惜しんではならない。
物質を計り取る場合は、左側に計り取りたい量とおなじ重さの分銅をあらかじめ載せておいて、右側に計り取りたい粉末などを徐々に載せていく。このとき、天秤ばかりが動き出すまでは比較的大雑把に載せていってよいが、動き出したら、薬匙の小さいほうを用いるなどの工夫によって、微量ずつ加えるようにする。多すぎたならば、取り除くことになるが、薬品などの純度を保つため取り除いたものを元に戻さないほうが良いとされる場合が多い。
上皿天秤は、非常に精密な測定器具であるから、使用する際はその前に調整をしてから用いる。通常、天秤の両脇、皿の下にあたる部分に微小な調整用の錘が備え付けられており、螺子によって微動調整が出来るようになっているから、これを調整することによって天秤の釣り合いをあらかじめ取っておくことが必要となる。
粉末等を測定する場合、薬包紙などを用いることになるであろう。この場合、薬包紙を分銅を載せる側の皿にも置いた上で、上記の調整を施すようにしないと、薬包紙の重さと空気の流れによる浮力によって測定結果が狂うこととなる。
上皿天秤に用いられる錘、すなわち分銅は、非常に精密に重さが検定されているものである。したがって、汚れや錆を生じさせてはならない。また、落としたりぶつけたりして、その一部かかけたり削れたりするようなことがあってはならない。このため、分銅が納められている木箱には、必ず専用のピンセットが用意されているから、これを用いなければならない。通常分銅には専用のピンセットでつかみやすいように、突起がついているのであるから、この部分をピンセットで慎重につかみ、静かに上皿天秤に載せるようにする。手でつかむと、手の汗や皮脂等が付着して1ミリグラム未満~数ミリグラム誤差が発生し、錆びやほこりの付着の足がかりとなる。間違っても素手でつかむなどと言うことの無いよう注意するとともに、児童、生徒を指導する教員にあっては、このことを教室にいる全員に徹底させるよう留意してもらいたい。学校の備品は代代受け継がれていくものであるにもかかわらず、意識の低い教員、生徒の手によって損傷を受ける場合が多々あって、それを引き継いだ次世代の教員、生徒は困るのである。
もちろん、上皿天秤本体も精密な器具であるからして、その取り扱いには十分注意しなければならない。ぶつけるなどして衝撃を与えるのは言語道断であり、また、薬品等が付着しないように細心の注意を払ってもらいたい。学校の理科担当教員にあっては、日ごろのメンテナンスを怠らず、常に最良の状態で実験に望めるようにしてもらいたいものである。
なお、最近では上記のような目的に古典的な上皿天秤を用いることは少なくなっているように見受けられる。すでに、大学等における学生実験では、電子天秤などと称する、デジタル式の非常に精密なはかりを用いるところが大半であり、高等学校などにも普及していると聞く。これは、非常に便利なものであるが、外見上は見るからに台ばかりであり天秤と言う呼称を用いることには違和感を禁じえない。しかしながら、これもまた内部構造からすれば立派な天秤ばかりなのである。上皿天秤では最初の重りで重力が不十分な場合、分銅を追加して棹にかかる力を増加させるが、電子天秤の場合は最初の重りは存在するが、分銅を追加して重力で力を追加するのではなく、コイルに流れる電流と磁石との電磁力で力を追加して天秤をつりあわせるというメカニズムなのである。これも、もちろん使用前の較正は必要であるが、その実体はボタンを一押しするというものであり精密機器を扱っていると言う実感にかけるように思える。電子天秤の他にひずみゲージなど直接物体に加わる重力の大きさ、すなわちいわゆる重量を図るものもあるが、天秤機構をもつはかりでは2つの物体の重力の大きさが一致することを計測しているので、上皿天秤も電子天秤も質量を測定している。とは言うものの、教育目的や懐古趣味いがいではもはや古典的な上皿天秤を用いるメリットは無いと言ってよく、今後も電子天秤が普及していくであろうと思われる。