中性子爆弾
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中性子爆弾(ちゅうせいしばくだん、Neutron bomb)は、核兵器の一種で、核爆発の際のエネルギー放出において、中性子線の割合を高めたもの。放射線強化型核爆弾とも呼ばれる。
[編集] 概要
通常の核爆弾と比較して、熱エネルギー(爆風など)へのエネルギー放出割合が低く、そのため、建造物などの被害は相対的に減少させることができる。その一方、中性子線の放射があるために、人間を初めとする生物には放射線障害による死傷を与えることができる。ただし、熱核爆発が全く起きないわけではなく、相対的に小さいのみであり、爆風などの被害半径よりも中性子線による被害半径のほうが大きいものである。
中性子爆弾は、使用後の占領時に市街の建造物やインフラ設備を利用できるようにするための爆発力縮小に端を発し、主として自軍地上部隊の行動を視野に入れて開発された。そのため、弾頭威力も核としては小さく、残留放射能も少量になるように設計されている。中性子線は透過力が強く、鉛などの金属板も透過するが、コンクリートや水など放射線を遮断できる遮蔽物に覆われた地下核シェルター等への攻撃能力は小さい。
本爆弾の開発の経緯としては、核兵器に対し、密閉された戦車や艦船の防御力が予想以上に高いことが証明され、それらの装甲を貫いて兵員の殺傷を目的にする効果的な戦術核の運用の一環として開発された。
通常の核爆弾との構造の違いは、中性子反射材にある。通常は、核反応を効率化させるために、弾頭の内殻をウラン238などの中性子反射材で覆う。しかし、中性子爆弾においては、それにクロムやニッケルなど用いて、中性子の吸収・反射を抑えている。そのため、核反応によって発生した中性子線が、周囲に放射されるようになっている。なお、中性子線の発生にあたっては、核分裂よりも核融合の方が効率が良いため、水素爆弾が用いられる。
当初は、中性子線による電子機器への障害発生を用いて、弾道ミサイル迎撃に用いる手段として考えられた。その後、1ktの弾頭ならば、被害半径1,000m程度に抑えられることもあって、戦術核兵器としての利用が考えられた。
[編集] 現在
中性子爆弾は遮蔽物や防護施設に立てこもる敵を排除することを本来の目的とするが、核兵器としての威力からも大規模な機甲師団などへの攻撃に用いるのが最適である。しかし、冷戦の終結により、そのような情景は極めて実現性の低い可能性となってしまった。一方で中性子爆弾は劣化が早く、メンテナンスに高額のコストを要する。このため2007年現在、すでに中性子爆弾の存在意義は激減しており、第一線からは退役している。遠からず中性子弾頭という兵器体系は消滅することになろう。