事務管理
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事務管理(じむかんり)は、民法上の概念、用語の一つであり、不当利得、不法行為と並ぶ法定債権発生事由である。民法第697条から702条まで規定がある。法律上の義務がない者が、他人のために他人の事務(法律行為や事実行為)の管理を始めた場合、事務の性質に従って最も本人の利益になる方法で、本人が管理できるようになるまで、その管理を継続しなければならない。そのかわり、管理者は本人に対して費用の償還を求めることができる。
事務管理の条文における他人と本人とは、通常、同一人物になる(事務管理開始前が他人で、開始後に本人になる)。
[編集] 管理者の権利義務
管理者とは、義務なく他人のために事務の管理を始めた者である(697条1項)。
- 義務
本人の意思を知っているか、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない(第697条2項)。また事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない(本人が既にこれを知っている場合を除く)(697条)。一度管理を始めたら、原則として本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければならない(700条、ただし継続が本人の意思に反するか、本人に明らかに不利な場合はこの限りではない、700条但書)。その他委任の規定のうち645条から647条までが準用され(701条、それぞれに規定された受任者の義務(報告義務、引渡義務、消費した金銭の返還義務)も負担する。
- 権利
本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる(第702条1項)。また、本人のために有益な債務を負担したときは、本人に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる702条2項、650条2項)。ただし管理者の管理が本人の意思に反するものであったときは、本人は現存利益の限度でこれらに応じればよい(702条3項)。
[編集] 事務管理の特殊類型
- 緊急事務管理
本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、管理者は悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない(698条)。
- 準事務管理
自己のために他人の事務を管理した者が挙げた利益について、事務管理の規定に基づき本人にその利益を帰属させてもいいかどうか問題になる。事務管理を認めなくても不当利得、不法行為などにより本人が損害を回復することは可能であるが、これを準事務管理として事務管理に準じて扱おうとする見解も有力である。