全日本剣道連盟居合
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全日本剣道連盟居合(ぜんにほんけんどうれんめいいあい)は、1969年(昭和44年)、居合道各流派の基本的な業や動作を総合し、剣道人のための居合道入門用の形(かた)として全日本剣道連盟(全剣連)が制定した居合道形をいう。全剣連居合・制定居合などとも呼ばれる。対して各流派の形は古流の形といわれる。
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[編集] 制定の経緯
全日本剣道連盟(全剣連)は、剣道修行者も習いやすい居合道の形をつくるために1955年(昭和30年)に吉澤一喜・正岡壹實ら7人を招集して会合を持った。その後、1966年(昭和41年)に本格的な形の作成を企画し、研究委員会が発足した。十数回の会合の後、1969年(昭和44年)に7本の形が制定された。
なお、この時の居合道研究委員会の委員は、政岡壹實(委員長)・細間清志・橋本正武・壇崎友彰・山蔦重吉・森原一二・額田長・金谷為吉・紙本栄一・山本晴介・沢山収蔵・環量などである。
制定以後、剣道修行者のみならず、居合道の初心者にも学びやすいことから、居合道修行者にも普及していった。また、全剣連では普及のために段位審査でも全日本剣道連盟居合を重視し、全剣連の主催する全日本居合道大会でも指定業としている。
1980年(昭和55年)、3本が追加され、日本剣道形に倣って10本とされた。1988年(昭和63年)には、解説文の用語、仮名遣い、文体などが理解しやすいものに改正され、「受け流し」などの業の改正もおこなわれた。さらに、2000年(平成12年)に2本が追加されている。
[編集] 技術
全日本剣道連盟居合の研究委員会では、居合の生命として、
- 抜き付けの横一文字
- 止めの縦一文字
- 両斜めの袈裟切り
- 返す刀
- 撃突の一刀
に尽きるとした。この五つの基本技術をもとにして業が設定された。
また、制定の業は、どの流派の業にもとらわれない、という前提のため、礼法では、初めと終わりの刀礼の作法については夢想神伝流と無双直伝英信流の作法に基づいている。ただし、座礼のときの刀の置き方は独自のものである。また、業の動作でも、一本目「前」の振りかぶりを無双直伝英信流と夢想神伝流の中間にしている。
[編集] 業の名称と想定
1969年(昭和44年)制定
- 一本目 前
- 対座している敵の殺気を感じ、機先を制してこめかみに抜き付け、さらに真っ向から切り下ろして勝つ。
- 二本目 後ろ
- 背後からすわっている敵の殺気を感じ、機先を制してこめかみに抜き付け、さらに真っ向から切り下ろして勝つ。
- 三本目 受け流し
- 左横に座っていた敵が、突然立って切り下ろしてくるのを鎬で受け流し、さらに袈裟に切り下ろして勝つ。
- 四本目 柄当て
- 前後に座っている二人の敵の殺気を感じ、まず正面の敵の水月に柄頭を当て、続いて後ろの敵の水月を突き刺し、さらに正面の敵を真っ向から切り下ろして勝つ。
- 五本目 袈裟切り
- 前進中、前から敵が刀を振りかぶって切りかかろうとするのを逆袈裟に切り上げ、さらにかえす刀で袈裟に切り下ろして勝つ。
- 六本目 諸手突き
- 前進中、前後三人の敵の殺気を感じ、まず正面の敵の右斜め面に抜き打ちし、さらに諸手で水月を突き刺す。つぎに、後ろの敵を真っ向から切り下ろす。続いて正面からくる次の敵を真っ向から切り下ろして勝つ。
- 七本目 三方切り
- 前進中、正面と左右三方の敵の殺気を感じ、まず右の敵の頭上に抜き打ちし、つぎに、左の敵を真っ向から切り下ろし、続いて、正面の敵を真っ向から切り下ろして勝つ。
1980年(昭和55年)追加
- 八本目 顔面当て
- 前進中、前後二人の殺気を感じ、まず正面の敵の顔面に「柄当て」し、続いて後ろの敵の「水月」を突き刺し、さらに正面の敵を真っ向から切り下ろして勝つ。
- 九本目 添え手突き
- 前進中、左の敵の殺気を感じ、機先を制して右袈裟に抜き打ちし、さらに腹部を添え手で突き刺して勝つ。
- 十本目 四方切り
- 前身中、四方の敵の殺気を感じ、機先を制してまず刀を抜こうとする右斜め前の敵の右こぶしに「柄当て」し、つぎに左斜め後ろの敵の「水月」を突き刺し、さらに右斜め前の敵、続いて右斜め後ろの敵、そして左斜め前の敵をそれぞれ真っ向から切り下ろして勝つ。
2000年(平成12年)追加
- 十一本目 総切り
- 前進中、前方の敵の殺気を感じ、機先を制してまず敵の左斜め面を、つぎに右肩を、さらに左胴を切り下ろし、続いて腰腹部を水平に切り、そして真っ向から切り下ろして勝つ。
- 十二本目 抜き打ち
- 相対して直立している前方の敵が、突然、切りかかってくるのを、刀を抜き上げながら退いて敵の刀に空を切らせ、さらに真っ向から切り下ろして勝つ。
[編集] 普及の現状
現在、全剣連の昇段審査には、諸流儀に伝承されている独自の業(古流)とともに、全日本剣道連盟居合が指定業となっている。そのため、全日本剣道連盟居合の習得は昇段のためには必要不可欠な条件となっており、全剣連に所属する諸流儀では、全日本剣道連盟居合と古流とが併修されている。
指導者の方針にもよるが、多くの居合道修行者は、まず全日本剣道連盟居合を学び、居合道の基礎を身につけた後に、古流に入る場合が多い。このように、剣道修行者のみならず、居合道修行者にも居合道入門のための技術となっている。
また、各県の剣道連盟では、居合道の講習会として、全日本剣道連盟居合の指導がおこなわれている。
全剣連の主催する全日本居合道大会をはじめとする試合でも、全日本剣道連盟居合が指定される場合が多い。審判法・着眼点も整備されており、審判員の講習も盛んにおこなわれている。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 全日本剣道連盟編『全日本剣道連盟居合』(全日本剣道連盟)
- 全日本剣道連盟編『新版・全日本剣道連盟居合』(スキージャーナル、1990年)
- 「剣道時代」編集部編『詳解・全日本剣道連盟居合』(体育とスポーツ出版社、1990年)