多数決
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多数決(たすうけつ)とは、ある集団において多数派の意見を採用すること。
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[編集] 概説
ある集団の全ての構成員個々からの意見表明を元にして、その集団が採用する意思決定をするための手法である。一般には単記非移譲式投票を指す。
より多くの人間が納得する結論を導き出すこと、特定の人物の決定に委ねないことから、民主制と深く関連したものとされており、民主制の中では手続き的妥当性から採用されている事が多いが、論理的には必ずしも民主制において必須な物ではなく、全員が納得するまで議論し続ける形の民主制もあり得る。また、どんな二人の人を選びだしても、十分細部まで比較すれば、同一の意思を共有することはない。従って多数決には、個々の意志の互譲や切り捨てが必ず伴う。単純な多数決は衆愚政治へとつながる危険性をはらんでいる。
多数決の正当性について、多数が必ずしも客観的に真実であり妥当なものを捉えられるものではない、とする批判がある一方で、少数説との比較において多くが相対的に良いと判断するものを選ぶことに最低限の正当性を認める発想がある。
日本においては、仏教の影響で寺院などでは多数決によって賛否を決める方法は古くから知られていた。ただし、単純過半数で議論を決する事はほとんどなく、目に見える程度の差が生じなければその案が採用される事はなかったという。
[編集] 多数決の正当化の仕方
- 宗教的な規律
- 多数決が宗教上の手続きによって定められているもの。寺院などで行われているもの。
- 判断能力の測定不可能性&個人の平等
- 「良識を持つ人間を見つける方法」は存在しないという考え方が発展し、「良識を持つ可能性の期待値は、全ての人に付いて等しい」となったもの。
- かつては、「血筋(遺伝、人種)」「学歴(門地、教育)」「家柄」「手のしわ」「年齢」「頭の数」などと、良識を持つ可能性には相関があると考えられた。しかし、家柄・門地などは政治的な理由によって、「手のしわ」は科学の台頭による手相占いの没落により、残りは法治主義の台頭により一々考慮する事が出来ないため、一部を除いて判断能力の目安から除外された。
- 戦争の安価なシミュレーション
- 最も普遍的で、しかし最も効率の悪い意志決定の方法は、構成員同士による武力衝突である。しかし、最も汎用的で高価な兵器は人体であるため、これの多寡が戦争の結果を決める場合が多い。そこで、この兵器の台数を単純に比較する事によって、最も普遍的な意志決定方法の安価なシミュレーションにしようと言うもの。
[編集] 最少勝利連合
多数決を非民主的なものにしてしまう要因として当初から存在するのが最少勝利連合である。ここで、A・B・C・D・E・F・G・H・Iの9人からなる集団で議決を行うとする。
- 9人のうち利害の一致するA~Eがカルテルを組んで常に同じ投票をするよう密約すれば、F~Iは常に排除されてしまうことになる。
- さらにA~Cがその集団の中でも利害が一致して主導権を握り、
- さらにA~Cの中でもAとBが・・・・・・
となり、最終的には個人間の力関係でAの独裁状態となってしまう。
実際に日本の政治に於いても、「常に政権を握る連立与党」があり、その中に「第一党」があり、その党内に「最大派閥」があり・・・・・・という形で、意思決定が少数の人間に主導されて行われているという見方もできる。
しかし、この過程に於いても、少数派は「自分の意見が反映されなければ政権を抜ける」という圧力をかけることも出来るため、必ずしも最少勝利連合の論理のみにて動いているわけでは無く、日本の政治システムが原始的な多数決によって成り立っているわけでもない。
そもそも、バラバラの意見を持つ9人が1つの結論を出さなければいけないとき、もともと1人だけの意見だったものが、“その案も悪くはない”と受け入れられて最終的な結論になることはおかしなことではなく、個人の自由な意志を示せないような状況で意見を集約させられたので無ければ、特に問題もないということもできる。
[編集] 多数決の進化
[編集] 二者択一
集団を構成する人員すべてが、二つの案の中から、他方よりふさわしい(もしくは自分に有利に働く)と思う方の案に投票し、最も多くの票を獲得した案をその集団の総意として決定するという方法。最も古典的な方法で、選択肢を別の方法で二つまで絞らなければならないことを除けば、多数決の理想である。
[編集] 単記非移譲式投票
集団を構成する人員すべてが、複数の案の中から最もふさわしい(もしくは自分に最も有利に働く)と思う案に投票し、最も多くの票を獲得した案をその集団の総意として決定するという方法。二者択一から選択肢の数の制限をなくした。
しかし選択肢が3つ以上になったため、戦略投票の影響や過半数の死票、投票の逆理等、二者択一にはない多数の問題を抱えることになった。これを補うため、二者択一でも決定が確実な票数である、投票者数の過半数に達した場合に限り、その案を採用するなどの措置が取られることがある。
[編集] より良い多数決の方法を求めて
選択肢が3つ以上の場合を考慮した、様々な多数決の方法が提案されている。詳細は en:Voting system。
- 他の方法とは逆に、戦略投票のある方が良い結果を出す。
[編集] 多数派とは何か?
これら様々な多数決の方法は、必ずしも同じ結果にならない。従って多数決の方法を変えれば、それに応じて多数派も変わってしまう。
[編集] 採用に必要な票数
通常は二者択一なので、
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- 1/2 (50%) 以上、(下記と違い、一票でなく、%である)
- 半数 (1/2) + 一票
で決着がつくことが多いが、上記のように(目で見える程度の差としての)
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- 2/3 (66.66 ..... %)
か、それ以上(憲法改正や組合や組織の定款改正等の場合)を要求されることが多い。また、特殊な場合には、
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- 3/4 (75%)
か、それ以上が必要であると規定されている場合もあるが、
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- 全会一致を必要とする場合もある。
採用に要求される票数が半数を超えると、二つの選択肢(「採用」か、「廃案」か)に同等な被投票権が与えられている場合、両者とも採用に必要な票数を取れない事が起きる。すると、コンクラーヴェの様に決定がなかなか行えず、その間、集団としての行動が麻痺する。これを防ぐため、「廃案」「前例踏襲」「天皇に裁可」「執行部に一任」「無作為」などの選択肢には特別な地位が与えられていることが多く、普通に提案された案を採用できない場合、これらが自動的に採用される。
三つ以上の同等な被投票権を持つ選択肢から採用する場合、「死票」と同様に、多数決の方法によっては「採用に必要な票数」が無意味だったり定義できない場合がある。
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- 優先順位付連記投票制…すべての票がひとつの選択肢に集まってしまう。