天ぬき
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天ぬき(天抜き てんぬき)とは、天麩羅蕎麦(てんぷらそば)の蕎麦抜きのことで、主に東京の蕎麦屋で使われる江戸っ子言葉の一種。転じて肝心なものが無いものの意味。
天ぷらの吸い物という意味から天吸い(てんすい)とも呼ばれ、関西地方では『すは(素は)鎌倉』の語呂からかまくらと呼ばれることもある。同様の言葉に鴨抜き(鴨南蛮の蕎麦抜き)、台抜き(天抜きと同義だが、カツ丼の飯抜きなども該当)などがある。
天抜きが注文される背景としては以下のような事情が挙げられる。
- 蕎麦屋で酒(日本酒)のつまみに天麩羅蕎麦を頼むと、飲んでいるうちに蕎麦がのびてしまうため打ち立ての旨い蕎麦を味わえず、「これでは店のあるじに失礼である」という客としての心使い
- 「酒を飲んでいる時には腹にたまるものは食べたくない」という酒飲みの心理
- 「蕎麦は汁にたっぷりつけて食べるものではない」という(スノッブで意地っ張りな)江戸っ子の気風
これらの要素が合わさり、いつしか蕎麦を抜いたものを頼むことが「通人」の作法として広まった。天抜きの天麩羅でゆっくりと酒を呑み、最後になってから盛り蕎麦を頼み、残ったつゆにつけて一席の締めとする、という具合である。
[編集] 天麩羅屋と蕎麦屋
同じ天麩羅でも蕎麦屋と天麩羅屋では粉が違う。天麩羅屋では素材を活かすために衣を薄力粉(メリケン粉)でつくり、蕎麦屋では、蕎麦の熱くしたつゆに合うように強力粉でつくる。
[編集] 天抜き十年
同じ蕎麦屋に10年は通って主人と顔なじみにならないと、「蕎麦を抜いてくれ」とはいいづらかったためにできた言葉。天抜きを頼んでやっとその店の常連である、という人もいる。蕎麦喰いにつきまとうスノッブさを誇張した表現とも取れる。
[編集] 関連項目
- 肉吸 - 肉うどんのうどん抜き