失速
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失速(しっそく)とは、翼の迎角をある角度よりも大きくしたときなどに、翼上面の流れが全面的に剥離し、揚力が減少・抗力が増大する現象である。また、その状態をストール (stall) とも呼ばれる。高速飛行時に大きな迎角を急激に取ることで、「加速失速」を誘発することもある。
高度と速度の低下を招くなど、飛行機などの航空機にとっては一般に望ましくない現象である。一方、鳥の中には、着陸時に敢えて失速することでスムーズな接地を行うなど、積極的に利用するものもある。
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[編集] 発生のメカニズム
失速が発生する過程において、翼表面からの空気流の剥離と復旧が交互に起こるバフェットと呼ばれる現象が発生する。これを超えて迎角がさらに過大になるか、対気速度が大きくなると翼表面から気流が完全に剥離し、失速となる。この状態から回復するには、機首を下げる、速度を上げるなどして、翼の迎角を失速角よりかなり小さくしなければならない(通常失速角まで戻しても失速からは回復しない)。
ちなみに翼型やレイノルズ数によるが失速後迎角をさらに大きくしていくと揚力係数は再び最大揚力係数並みまで増加することが多い。しかしこのときの抗力係数は非常に大きく揚抗比は悪い。
[編集] 失速の種類
失速の種類には大きく分けて、後縁失速、前縁失速、薄翼失速に分けられる。
- 後縁失速は翼上面の境界層が乱流のときに起こり、翼後縁から徐々に剥離を起こしていく。そのため急激な揚力係数の減少は起こらず、失速特性から見た場合もっとも使用するにはよいタイプといえる。
- 前縁失速は境界層が層流の時に起こり、翼前縁付近で剥離を起こし、その後流れは翼に再び付着することがないため急激な揚力係数の減少をもたらす。
- 薄翼失速は前縁失速と同じように前縁直後で剥離を起こすが、剥離した流れはその後再び翼に付着するため、剥離の段階で若干の揚力係数の変化があるものの、その後は再び迎角に従い揚力係数が増加していく。さらに迎角を大きくしていくと、流れの再付着点が後縁まで達し、後縁失速と同じ状態となる。従って最終的な揚力係数の減少の仕方は後縁失速に近いものになる。
[編集] 失速特性
失速を誘発する要因として
などが密接に関与する。
一般に失速しやすい翼型の場合、一旦失速すると大気との迎え角の減少が発生するまで回復しないため、機首を大きく下に向け、高度を失うことになる。 この回復能力は、上記の要因により大きく異なり、一般的に翼厚の小さな翼ほど、矩形翼よりもテーパー翼の方が回復しづらい。
[編集] 翼端失速
テーパー翼などの翼端に行くにしたがって翼弦が小さくなっていく翼によく見られ、失速が翼の先端付近から胴体側に向けて発生し、最終的に翼全体または翼の一部が失速する状態を言う。着陸などの低速時に、翼端動翼(エルロンなど)を大きく動かした場合発生しやすく、航空機が非常に危険な状態となる。