子音弱化
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子音弱化(しいんじゃっか、Lenition)は、言語で子音が「強い」ものから「弱い」ものへ変化することをいう。通常の言語使用で起きる共時的変化を含める場合もあるが、普通は歴史的変化を指す。
身近な例では、日本語の唇音退化(ハ行転呼など、唇音の変化)がある。
多くの例が見られるのが破裂音から破擦音・摩擦音への変化(摩擦音化)であり、日本語のハ行における[p]→[ɸ]の変化がこれにあたる。そのほか調音位置が声門に移動する非口腔音化(debuccalization, 日本語の[ɸ]→[h]、他の言語では[s]→[h]など)、有声化(日本語の[ɸ]→[w]など)、長子音の短子音化(degemination)、有気音の無気音化(deglottalization)などがある。
摩擦音化は言語の歴史で何度も起きたと考えられており、インド・ヨーロッパ語族では次のような例がある:
- ラテン語
- 印欧祖語 *bhrater > ラテン語 frater(兄弟;英語では brother)
- 印欧祖語 *dhe- > ラテン語 facere(置く・作る;英語では do)
- グリムの法則:
- 印欧祖語 *ph2ter > 英語 father(父;ラテン語では pater)
- 印欧祖語 *km̥tó- >英語 hund-red(百;ラテン語ではcentum[ケントゥム])
- 高地ゲルマン語の第二次子音推移:
- 英語 sleep:ドイツ語 schlafen(眠る)
- 英語 that:ドイツ語 das(あの)
- 古英語 habban > 現代英語 have(持つ)
「強い」というのは発音にエネルギーを要する、発音しにくいと感じられることであり、特に早口で話す必要があれば、「弱く」なるのは同化などとともに自然な変化(言語の“経済性”に従う)と考えられる。
逆に子音が「弱い」ものから「強い」ものへ変化する子音強化(fortition, 例えば「もはら」「やはり」が「もっぱら」「やっぱり」に変化するようなもの)もある。