岩波文庫
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岩波文庫(いわなみぶんこ)は、岩波書店が発行している文庫本シリーズの一つ。1927年創刊。
レクラム文庫に模範し、古典的価値を持つ書物を刊行する。日本出版史における文庫本の草分け的存在で、学術分野を一般層に広めた功績は大きい。最初の刊行作品は『新訓万葉集』など。
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[編集] 収録作品と評価
書物を安価に流通させ、より多くの人々が手軽に学術的な著作を読めるようになることを目的として創刊された、日本初の文庫本のシリーズである。「袖珍本」などのように小型の版型のシリーズはそれ以前にも発刊されていたが、現在のような「文庫本」のスタイルを完成させたという意味で、岩波文庫の発刊は日本出版史上大きな意義がある。
岩波文庫は、日本及び世界の古典的価値を持つ文学作品や、学術書を幅広く収めている。評価の定着したもののみを収めるという方針をとり、それに達しない、むしろアクチュアリティで注目されるものは、かつては岩波同時代ライブラリー、現在では岩波現代文庫に収められる。
岩波文庫に続いて、改造社を始め、すでに戦前期にも、文庫本を出す出版社が現れた。ことに昭和末期から平成に掛けて、講談社学術文庫、ちくま文庫、ちくま学芸文庫、講談社文芸文庫、平凡社ライブラリーといった良質のシリーズが現れたために、岩波文庫は、戦前期のような唯一無二という地位ではなくなっているものの、古典的良書の継続的な提供という意義は未だ健在である。ただ、『紫禁城の黄昏』『危機の二十年』等のようにその翻訳内容に問題が提起される事もしばしばある。
書店の立場から見た岩波文庫は、返品のできない買取での扱いとなるため(書店で扱う本は基本的に仕入れ値段そのままで返品ができる委託販売の形式である)仕入れにはリスクが伴う。そのために岩波文庫を扱っているか否かは、その書店の規模や傾向を判断するバロメーターと成り得る。
[編集] デザイン
文庫の巻末に掲載されている「読書子に寄す―岩波文庫発刊に際して」は、当時の教養・啓蒙主義のもと、知識を一般民衆に普及させるために刊行したという旨とともに、ドイツのレクラム文庫を模範とした事などが書かれている。当時の社長である岩波茂雄の名前が記されているが、実際には三木清の手によるものといわれる。
かつてはカバー(ジャケット。「カバー」は本来は表紙を指す)はなく、パラフィン紙で覆われていた。(1987年7月の新刊から全てかけるように。)また定価は金額ではなく星印(★)で示しており、★一つ○円などと、星の数で値段を計算していた。また、岩波文庫には原則として絶版はなく品切れがあるのみで、定期的にリクエストの多い過去の刊行物の復刊を行っている。
[編集] 分類
カバーの背表紙下側の色によって五つに分けられている。
- 青帯 - 日本思想、東洋思想、仏教、歴史・地理、音楽・美術、哲学・教育・宗教、自然科学
- 黄帯 - 日本の古典文学。江戸時代まで
- 緑帯 - 日本の近現代文学。
- 白帯 - 政治・法律、経済・社会
- 赤帯 - 東洋文学、ラテン・ギリシア文学、イギリス文学、アメリカ文学、ドイツ文学、フランス文学、ロシア文学、南北ヨーロッパ文学など
このほか解説総目録や文学案内などの別冊、活字が大きいB6型のワイド版がある。