廃止代替バス
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廃止代替バス(はいしだいたいばす)とは、乗合バス路線が廃止された場合、その代替として自治体(市町村)等がバス事業者に替わって運行するバスのことである。
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[編集] 運行目的
過疎地では、路線維持のための努力ももちろん行われているが、利用が少ないため赤字がかさみ、民間路線バス事業者による路線維持はますます困難になっている。このような状況の中、2002年2月に道路運送法が改正され、バス事業者の赤字路線からの撤退が許可制から届出制になったことで、撤退を申し出る例が続出しつつある。この場合、やむなしとするか、市町村が自ら乗合バスを手がけるか、二つの道がある。
自治体が乗合バス事業を始める場合、方式としては21条バスと80条バスの2つの方法がある。21や80という数字は該当する道路運送法の条文によっている。
一方で、廃止路線の肩代わり以外に、新たにコミュニティバスを運行する自治体も増えており、道路運送法21条や80条を根拠とする開設方法を取ることがある。
なお、2006年10月に道路運送法が改正され、21条バスは原則廃止(4条=一般旅客自動車運送事業の許可に移行)、80条バスは78・79条に移行し、許可制から登録制への変更が行われている。このため、以下の説明は平成18年10月改正前によるものであることを注意されたい。
[編集] 21条バス
2006年改正前の道路運送法による21条バスとは「貸切代替バス」ともよばれる。地方自治体は原則として乗合バス事業を直接手がけることはできないため、市町村が貸切バス事業者に当該路線の運行を委託し、路線維持を図ろうとするものである。
[編集] 法律上の定義
- 道路運送法第21条(禁止行為)
- 一般貸切旅客自動車運送事業者は、次の場合を除き、乗合旅客の運送をしてはならない。
- 災害の場合その他緊急を要するとき。
- 一般乗合旅客自動車運送事業者によることが困難な場合において、国土交通大臣の許可を受けたとき。
この第21条の除外規定を根拠に、貸切バス事業者が路線バスの運行を行っている。道路運送法第21条に準拠するので「21条バス」と呼ばれる。
2006年改正後の第21条は、災害などの一時的な輸送事業を定義したものに改められ、貸切形態の旧21条バスは4条の一般乗合旅客自動車運送事業(通常の路線バス)の許可形態に移行した。もしバス路線撤退の肩代わりとすれば、肩代わり先となる貸切バス(一般貸切旅客自動車運送事業)やタクシー会社(一般乗用旅客自動車運送事業)などが一般乗合旅客自動車運送事業の許可を得るか(双方とも実例あり)、市町村や特定非営利活動法人が旧80条に相当する改正後の第78・79条除外規定の登録を行って、自家用バスを運行する形になると思われる。
[編集] 特徴
それまで運行していたバス事業者の貸切事業部門に委託、あるいはそれまでのバス事業者の系列下の貸切バス事業者に委託されることがある。この場合、乗客から見れば従前どおりのバスサービス内容となることが多い。
また、それまでのバス事業者が完全に撤退した後、地元の貸切バス専業事業者やタクシー業者などに委託されることもある。この場合は定期券・回数券などのバスサービス内容が完全に一新される。
なお車両は貸切車として登録した車両を用いる。とはいえ、貸切バスタイプの車両を用いるわけではなく、一般路線バスタイプの車両を貸切車として登録し用いるのが普通である。(そのため、21条バスに使われる車両には「貸切」の記載がある。ただし、法改正で乗合形態に移行したため、今後は「一般乗合」に書き換えられる可能性がある。)
[編集] メリット
- 路線や停留所、運行ダイヤなど、それまでのサービスを極力保った形で移行することも可能。
- 限られた委託金で運行を請け負うため、受託事業者はコスト意識を発揮した運営が期待できる。また、柔軟な対応も期待される。
- 自治体は、ハード部分を抱え込まないで済む。(車両は貸切バス会社の保有なので営業用緑ナンバーになる)
- 自治体と事業者の責任分担や運用の形態について、委託契約の文書の形で取り交わされるため、自治体と受託事業者とで役割分担関係が明確化される。
[編集] デメリット
- 同一事業者の貸切部門または系列貸切バス事業者への移行の場合、一見、移行前とほとんど変わらないので利用者からも違和感は少ないかわり、「マイバス」意識を高揚させる効果はあまり期待できない。
- 路線・ダイヤ・運賃制度など、運営の根幹的な部分に民間ならではの工夫や発想が入らない場合、不便なままのサービスが温存されるといったケースも考えられる。
[編集] 80条バス
2006年改正前の道路運送法による80条バスとは「自主運行バス」とも呼ばれ、公共の福祉の一環として公共交通を自治体自らが手がけるものである。形としては、自家用のバスを用いて旅客を輸送し、運賃を収受するものである。
[編集] 法律上の定義
- 道路運送法第80条(有償運送の禁止及び賃貸の制限)
- 自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。ただし、災害のため緊急を要するとき、又は公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であつて国土交通大臣の許可を受けたときは、この限りでない。
この第80条のただし書きを根拠に、自家用自動車による路線バスの運行を行う。道路運送法第80条に準拠するので「80条バス」と呼ばれる。
改正後は第78条(有償運送)にて
- 自家用自動車(事業用自動車以外の自動車をいう。以下同じ。)は、次に掲げる場合を除き、有償で運送の用に供してはならない。
- 一 災害のため緊急を要するとき。
- 二 市町村(特別区を含む。以下この号において同じ。)、特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他国土交通省令で定める者が、次条の規定により一の市町村の区域内の住民の運送その他の国土交通省令で定める旅客の運送(以下「自家用有償旅客運送」という。)を行うとき。
- 三 公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき。
第79条にて「自家用有償旅客運送を行おうとする者は、国土交通大臣の行う登録を受けなければならない。」
の形に変更・移行された。
[編集] 特徴
地方自治体(市町村)自らがバスを購入またはリースする。自家用バスのため、ナンバープレートは白ナンバーである。
運転士は自治体職員の中で大型免許保有者を充てる。新たに委嘱する場合もある。
[編集] メリット
- 地方自治体自らが運行するため、地域の利用者のニーズにあった運行体系・運行サービスを構築することができる。
[編集] デメリット
- 公営事業にありがちなことだが、需要の乏しい路線・ダイヤが放置されるなど、過剰サービスにつながったり、コスト抑制努力が希薄になったり、「行政サービスだから赤字で当たり前」という意識がはびこる恐れがある。しかし、上記の理由は一面の正当性があるともいえる。なぜなら、需要が乏しくても、その地域に人が住んでいれば、運行しなければならないし、行政サービスが黒字である必要性は無いというのも、公共性から考えれば、当然である。
- 自治体の車両を「自家用車」として運行するため、運転手は原則として、営業用自動車の第二種免許を取得する必要がないなど、運行管理が不充分になる恐れも指摘されている。
[編集] その他
- かつては自治体自らが運行する80条バスが主であったが、近年ではバス運行管理のノウハウを持つバス事業者(21条バスへの移行)や地元のタクシー事業者(乗合タクシー)に委託するケースが多くなっている。また、鉄道事業者に委託するケースもある(例:岩国市営錦バス(旧・錦町営バス)が錦川鉄道に委託)など。
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