コミュニティバス
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コミュニティバス(community bus,略称コミバス)とは、市・区・町・村などの自治体が住民の移動手段を確保するために運行する路線バスである。市街地などの交通空白地帯において公共交通サービスを提供するもののほか、市街地内の主要施設や観光拠点等を循環する路線などのさまざまなタイプがあり、従来の乗合バスを補う公共交通サービスとして全国的に急速に導入され、そのサービスは、その後一部のバス事業にも採用されている。
地元のバス会社に実際の運行を委託するなどし、必要に応じ自治体側が経済的な支援を行うのが一般的である。
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[編集] 仕組み
[編集] 定義
「コミュニティバス」は法的に明確に定義されている概念ではない。法的には、普通の路線バス(乗合バス)と同様、道路運送法などの規定に従う。
高齢者や身体障害者等が公共施設・医療機関に行きやすくするなど、地域住民の交通の利便性向上を目的として、地方公共団体が何らかの形で運行に関与している乗合バスを一般にコミュニティバスと呼ぶ。
[編集] 運行形態
コミュニティバスは、既存のバス事業者(又はその子会社)が運行するもの、貸切バス事業者が運行するもの、地方自治体が運行するものなどがある。自治体が運行する場合にあっても、地方自治体が国土交通省から運行許可を取得し、実際の運行は地元の貸切バス事業者や交通局(地方公営企業)に委託することもある。これは、コストや車両管理、運転士の雇用の関係である。
近年では、沿線住民が路線の設定等、運行計画に当初から関与していくケースが増えている(四日市市の「生活バスよっかいち」、京都市醍醐地区の「醍醐コミュニティバス」などの事例がよく知られている)。
事例としては少ないものの、NPO法人などに事業の運営を委託するケースもある。これらは、道路運送法21条または同法80条に基づき運行されている。 また、廃止代替バスの形態で運行されることもある。乗車定員の関係でバスではなく、乗合タクシーとして運行されることもある(宮城県石巻市稲井地区の「いない号」)。
[編集] 運営の実際
通常の乗合バスですら高速バスを除き経常的な赤字の状況であり、ましてやコミュニティバスは乗合バス事業者が運行しない又は撤退した地域を運行し、しかも運賃は低廉であることから、収支均衡させることは極めて困難であり、純然たる営利事業として捉えることは適当でない。経常的収支で赤字計上は覚悟せざるを得ないものの、交通空白地帯の解消、公共交通の確保という公益的な観点から、市町村から運行費用の補助(赤字補填)が行われるのが一般的である。市町村自身が、路線、便数、停留所位置などコミュニティバスの基本的な要素を計画したうえ、運行の委託を地元貸切バス会社に委託することも多い。なお、通常の路線バス(4条バスと呼ばれる)においても、国土交通省や都道府県、地元市町村による赤字補填の仕組みがある(路線形態、延長、実行実績によって、役割分担が決まっている)。
町田市民バス(まちっこ)や、一部のコミュニティバスについては、運行主体がバス会社で、自治体が補助金を出し、コミュニティバスとして運行しているケースがある。ただし「まちっこ」は運賃面などからコミュニティーバスとされる事が多いが、厳密にはコミバスではない。
公営バスは地方公営企業として公営企業会計が適用され、一般会計と分離され、独立採算による運営であるという点でコミュニティバスと大きく異なる。ただし、赤字基調であり、一般会計から繰出(運行補助)を行い、運行を支えている場合がある。
[編集] あゆみ
コミュニティバスのさきがけは、1980年の東京都武蔵村山市の市内循環バスであるとされる。市が車両を購入し、立川バスに運行を委託した。これに続いて、1986年に東京都日野市で「ミニバス」が始まった。これは日野市が行政サービスの一環として、市内のバス路線のない地域に小型バスによる路線バスを運行するというものであった。市が直接バス路線を開設することは現実的でないため、日野市内で路線バスを運行していた京王バスが路線開設と実際の運行管理を引き受けた。
この「ミニバス」は見た目としての運行形態はそれまでの路線バスと一線を画する全く新しいものであった。そのため、全国各地で似たような形態での路線バスサービスを開始する自治体が続出し、それらは「コミュニティバス」と呼ばれるようになったのである。
ただし全国的に有名にはならず、続出し始めるのは1995年の武蔵野市におけるムーバスの成功に触発されたところが大きい。
また、金沢市における金沢ふらっとバスは斬新な車体で、商店街アーケードの中を走行する(トランジットモール)など、従来のバスにない発想のもとに運行されており、注目を浴びた。
特徴については次項で記す。
[編集] 共通的な特徴
概ね次の様な特徴を持つ事が多い。
[編集] ルート・路線
- 既存のバス停留所・鉄道駅などから遠く(300m程度)、また公共交通機関に頼らざるを得ない交通弱者の数が少なからずあるにも関わらず、狭隘路・坂道があったり、需要が小さいなどの理由により、通常のバス路線を導入する事が困難な住宅地を対象としている。
- 住宅地と、市役所などの公共施設・医療施設・繁華街・交通結節点(鉄道駅・バスセンター)などを結ぶ。
- 循環路線が多く見られる。また一方通行の循環路線も多い。
- ただ、通常の折り返し式に比べて、遅延し始めると遅れを取り戻すことが難しいともいわれている。
- 停留所間隔が一般的に短く、細かく停留所が設置されている。
[編集] 車両
- 中型以下の車両を用い、それまで大型車両の入れなかった住宅街等へも路線を延ばすことが可能。
- 低床でバリアフリーに対応した人にやさしい車両。
- 外国の車両を導入する場合もある(金沢市等)。
- 斬新で親しみやすい車体デザイン
[編集] 運賃など
- 地域によって様々な仕組みがとられている。大きく用いられている仕組みは、100~200円程度均一料金制、既存バスに合わせた運賃制度などが挙げられる。
- 地域によっては無料のところもあるが、送迎バスに近く、有償を前提としたバス事業としては別のものとして考えるべきである。
- 大都市圏のコミュニティーバスにおいては委託業者によってはSFカード(東京近郊地域のバス共通カード、(2007年3月18日からのPASMOを含める)、(大阪近郊地域のスルッとKANSAIなど)が使える地域がある。
[編集] 運行システム・その他
- パターンダイヤ
- 中規模以上の都市では高頻度運行(30分毎など)、パターンダイヤとなっていることが多い。
- 愛称
- 住民に親しみをもってもらうため、愛称を公募する等の取組みがみられる。
[編集] 課題
コミュニティバスは、性質上サービス内容に比して低廉な運賃設定を要求されるため十分な収益を上げていくことが難しいシステムであり、交通事業としては事前に十分に検討する必要がある。一般に陥りやすい問題としては、次の事項が挙げられる。
- 安易な導入
- 他の自治体で導入しているからという安易な理由で導入される傾向がある。
- サービスの妥当性の検証
- 住民・地域団体の求めにより路線・停留所を決めて運行開始することが多いため、運行地域、運行回数、運行時間帯など、一般に需要量に比べて過剰サービスに陥りやすい。
- 運行区域の制約
- 行政主導の場合、なるべくその市区町村内のみを通るように路線を計画する傾向があり、隣接する市区町村内の商業地や鉄道駅などに乗り入れることで利便性が向上するにもかかわらず、それが実現できない問題がある。
- 弾力的な見直しが困難
- 一般に、一度始めると路線見直しや撤退が困難(特に自治体が関係することから、議会対策上も)。
- 既存路線バスとの営業面での差別化
- 既存の路線バス事業者が運行するコミュニティバス路線では収支を別立てで管理する関係で、事業者が発行するバスカードや一日乗車券が使用できず、別途に運賃を支払うケースがある。自治体が発行する福祉乗車証についても利用できる路線と利用できない路線がある。
なお、市町村合併(平成の大合併)に関連して旧市町村の庁舎や市街地を連結する交通手段確保の観点からコミュニティバスの運行が計画された地域もある。
[編集] コミュニティバス一覧
日本のコミュニティバス一覧を参照のこと。
[編集] 主に使用されるバス
[編集] 現行車種
- 日野ポンチョ
- 三菱ふそうエアロミディME
- 日野リエッセ/トヨタ・コースターR/いすゞジャーニーJ
- トヨタ・コースター/日野リエッセII
- 日産シビリアン/いすゞジャーニー
- 三菱ふそうローザ
- トヨタ・ハイエース
- 日産キャラバン/いすゞコモ
- クセニッツ(輸入は中止)
[編集] 絶版車種
[編集] 参考文献
- 鈴木文彦『路線バスの現在・未来part2』グランプリ出版、2001