打放しコンクリート
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打放しコンクリート(うちはなしコンクリート、うちっぱなしコンクリート)は、建築物の仕上げの一種である。基本的には現場打ちコンクリートの上に、塗装・タイル・石張りなどの仕上げをせず、むき出しのままのコンクリートを仕上げとする手法で、「打放コンクリート」・「打ち放しコンクリート」とも書く。「コンクリート打放し」と同義。単純に「打放し(「打放」・「打ち放し」)」とも言う。ただ、そのままでは雨水の浸透や劣化が心配されるため、「撥水剤」と呼ばれる耐水性を上げる液体を塗布する事が普通である。打ち放しコンクリートは、上記「仕上げ」という保護材を持たないため、風雨に対する抵抗力が弱く、また施工段階においても管理上の注意が大きく必要とされるため、発注者・施工者からは敬遠される傾向があるが、造形的には、コンクリート独特の力強さ・清潔感・素材感などが好まれ、特に設計者は、これを好む傾向が見られる。
[編集] 製造法による定義
コンクリートに含まれるセメントは、「セメントペースト」と呼ばれる流動体の状態が水分を吸収することによって硬化し、強度を持ち、最終的に建築物の「構造体」となる。この一連の作用が行なわれる場所と施工方法によって、ほぼ3種類に分けられる。
- 現場打ちコンクリート:最終的な建築物の部位(柱・壁・床など)の場所において行なわれるもの。
- PC(プレキャスト・コンクリート):工場等で上記硬化が行なわれ、現場でそれを金具などで建築本体に固定するもの。
- 両者の中間のもの。部分的に1と2が混在し、両者の長点を利用しようとしたもの。
「打放しコンクリート」と呼ばれるものは、一般に1に属するものを指す。2に属するものは、コンクリートのままの仕上げでも「打放しコンクリート」とは呼ばない。「化粧コンクリート」と呼ぶことはある。3の場合、現場打ちの部分を、「打ち放しコンクリート」と呼ぶ場合もある。
2は工場で生産されるため、1より精度が良い。しかし、1の精度の多少の狂いが一種の味わいであるという捉え方もある。
[編集] 歴史と表現
コンクリート(正確には「セメントコンクリート」。コンクリートには他にアスファルトコンクリート等が有る)の原料はセメント・砂(細骨材)・砂利(粗骨材)・水である。 砂利が無いものは「モルタル」と呼ばれる。
セメント利用の歴史は古く、古代エジプトまで遡る。 コンクリートもその祖形は古代ローマに見られるが、現在のように建築構造材として用いられたのは、18世紀末になってからである。鉄・ガラスと並んで、コンクリートは近代建築発達の新材料となった。 その自由な可塑性から、ドイツ表現主義を初めとする、曲面的表現において大いに活用され、「打放しコンクリート」もダイナッミックな造形にふさわしい表現として歓迎された。その後、バウハウス、CIAMなどの活動により、建築形態は直線的なものが主流となり、「打放しコンクリート」の手法はあまり用いられなくなった。しかし第二次世界大戦後、ル・コルビュジエ、ルイス・カーン等の作品によって、「打放しコンクリート」は再び建築表現の主役となった。コルビュジエが、強く荒々しい表現という従前の解釈に立つのに対し、カーンは、美しい輝くような表現という新解釈を打ち出した。前者の下で学んだ前川國男等の「打放しコンクリート」は前者の思想の延長線上にあり(例、東京文化会館等)、後者に私淑した安藤忠雄等の現代の商業建築・住宅等のものは、後者の思想の延長線上にあると言える。