挿し木
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挿し木(さしき)とは、植物の人為的繁殖方法の1つ、クローン技術の元祖とも言える。
母株の枝の一部を切り取り(これを挿し穂という)、挿し床に挿し、不定芽あるいは不定根の形成を期待することで個体数を増やす園芸ないし農業技術である。これは、種子を形成しないか種子繁殖が経済的、栽培技術的理由などにより適さない植物を繁殖させるための方法のひとつとして用いられる。
挿し木によって繁殖させる植物の中で観賞用に栽培されるものの代表的なものとしてサツキ・ドラセナなどが、食用の植物においては、サツマイモやパインアップル、バナナなどが挙げられる。
園芸植物や食用作物として栽培される植物の多くは、その有用な鑑賞形質は種子繁殖によって伝えがたいため栄養繁殖によってクローンを作成することが望ましいし、また種子からの繁殖では鑑賞に適する大きさにまで育つのに多大な年月を必要とするものも多い。そうした時に、挿し木の技法は栄養繁殖の手段として有用性が高い。上で挙げた例ではサツキは個体ごとの花の模様の差異を鑑賞するものであるために、増殖にはクローン作成が欠かせないし、ドラセナでは種子からより格段に早く大きな鑑賞に適した株を生産できるのみならず、再生力が高く単に切断した幹を水に挿しておくだけで発芽する珍奇な様が観賞用として珍重されてもいる。サツマイモが本来の栄養繁殖器官である芋を植えるのではなく、農業の現場で挿し木が用いられるのは、ひとつの種芋から生じる多数の蔓を切り取って挿し木することで、効率的に多数の苗を確保できるからである。パインアップルは本来ならば花が受粉すれば種子ができるが、種子ができなくても果実は成熟し、集合果の先端の冠芽を挿し木することで繁殖できる。ただし、経済栽培においては株の根元から出る芽を挿し木することが普通である。これによって、優良品種のクローンを継続的に確保できるし、また種子繁殖よりはるかに短いサイクルで果実を得ることができる。最後にバナナであるが、栽培品種は倍数体で受精能力がなく、種子ができない。そのため、新石器時代以来、原産地で栽培化に成功した人間が、挿し木によって優良品種のクローンを維持して今日に伝えたものである。
挿し穂には、普通、葉が1枚以上ついていないといけない。これは、葉の基部から芽が出ることが多いからである。枝についた葉は、半分くらいで切り取っておく。これは、指し穂には根がないので水分の吸収が悪いので、蒸散を抑えてやるためである。なお、種類によっては茎ではなく葉をさしても繁殖が可能で、これを葉挿しという。
枝からの不定芽は体細胞分裂で生じるものだから、遺伝的な多様性は生じない。ただし、斑入りなど体細胞のキメラに基づく形質は変化することもある。たとえばチトセランの覆輪園芸種は、葉差しでよく増えるが、出てきたものは必ず斑がなくなる。
[編集] 挿し木の種類
- 葉挿し
- 茎挿し
- 葉芽挿し
- 根挿し