断熱材
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断熱材(だんねつざい)は、熱の伝導を抑える目的の材料。ここでは主に建築材料としての断熱材について述べる。
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[編集] 概要
断熱をするということは、熱が伝導や対流・更には放射によって伝わるのを防ぐことであり、それを実現するものが断熱材である。建物の冷暖房の効率化や熱を扱う様々な用途に使われる。放射による熱伝達の場合は反射による断熱方法もとられる。 一般的には、伝導を防ぐことを断熱といい、JISでも定義されている。また、放射を防ぐ場合は遮熱と言う。
断熱材とは熱伝導を抑える障壁の働きをするものといえ、熱伝導性の低い素材が用いられる。気体などは分子密度が低いため熱伝導性が低いが、対流を起す事から熱を伝える媒介として機能してしまう。逆に固体は分子密度が高いので対流しないが熱伝導を起し易い。液体は熱伝導と対流を起す事から熱伝達には様々な利用が成されているが、断熱する上では極めて不適当である。現在利用されている断熱材では、気体を封入した固体として、固体の中に気体の小胞を多量に持つ物が広く利用されている。
断熱材は冷房・暖房のエネルギー効率を高めるために建物で使用されるだけではなく、熱伝導を遅くするのが重要なストーブ・冷蔵庫・冷凍庫・湯沸かし器等の器具の筐体部分、および多くの工業的な応用にも使用される。これらでは対象範囲内と外部との温度差を、他の系よりのネゲントロピー利用に拠らず維持するために利用されている。
また真空中では伝導も対流も発生しない(放射は発生する)事から、魔法瓶では鏡面で熱放射を反射する一方、陰圧にした密閉構造の二重構造により、断熱効果を発生させている。詳しくは魔法瓶の項を参照されたし。
[編集] 建材としての断熱材
住宅建築における、一般的に使用されるタイプの断熱材(カッコ内は特徴)
- グラスウール(最安価、耐熱性、耐久性、吸音性)
- ロックウール (安価、耐熱性、耐久性、高い吸音性)
- 羊毛断熱材 (吸湿性、難燃性、断熱性、リサイクル性、有機化合物吸着性)
- ウレタンフォーム(高い防水性)☆
- フェノールフォーム(高い断熱性)☆
- ポリスチレンフォーム(樹脂系では安価、軽量、耐水性)☆
- 建材では主にXPSや押し出しボードと呼ばれる難燃剤を混ぜた素材が用いられるが、燃えないわけではない。
- セルロース断熱材(低環境負荷)☆
- 難燃剤を含ませてある。
- 注:☆印は樹脂系
これらは主として気泡を含む樹脂の種類によって区別されている。封入されるガスは炭化水素系のものが多い。しかし、このガスが最近、オゾン層破壊 地球温暖化などの問題で制限されてきている。また、難燃剤を混ぜたものは、リサイクルしにくいという問題もある。
施工的には、樹脂系のものは工場で発泡させてボード状に加工したものを現場で取り付けるものと、現場で発泡させながら吹き付ける物とがある。後者の方が施工しやすいため施工者には好まれる。しかしこの方法は、発泡温度の関係からウレタンフォームにしか用いることは出来ない。
鉄筋コンクリート造の建築物においては断熱材を躯体の内側に設けるか、外側に設けるかによって内断熱、外断熱に区別される。かつては、断熱材自体は風雨に対して対抗性の強いものでないため、内断熱が常識だったが、外断熱にすると構造体自体が外部の熱(または冷気)から保護されると同時に内部では冷暖房による熱が保たれ(あるいは冷やされ)冷暖房を切っても快適な温度が得られるという利点があり、近年様々な試みがなされている。しかし、逆に考えると、外断熱は構造体まで暖め(冷やさ)なくては室内環境を快適に出来ないという弱点もある。そのため、内断熱と外断熱は一長一短があり、建物用途によって使い分けるべきものである。また、高層建築物においては断熱材の剥離などに配慮する必要がある。
同様に、木造、鉄骨造の建築物においても充填断熱、外張り断熱に区別される。
表面結露を抑えるために断熱を行うことがあるが、断熱による内外の温度差から空気中の水分が断熱材表面で内部結露しやすくなる。これを防ぐためには防湿層を断熱材より内側に丁寧に施工することが必要である。内部結露を起こしたり、水にぬれた場合の劣化を防ぐために防水加工された断熱材が使われることもある。防湿層は断熱材の暖かい側に付加するのが普通である。すなわち、暖房された家の場合は防湿層は暖かい内部と断熱材の間に入れられる。また暑い気候の地域でのエアコン付きの家では防湿層が外部にあり、その内側に断熱材がある。
かつて断熱材として耐久性(耐火性もある)に優れるアスベストがよく使われていたが、人体への影響(健康被害)が問題視された1980年代頃から使用されなくなっている。ただ、既存建造物にはまだ多く利用されており、これの解体による処理も、大きな社会問題となっている。(石綿の項を参照されたし)
[編集] 建築構造の断熱化
現在の住宅・建造物では採光性の面から多くの窓ガラスが取り付けられているが、これらは断熱性と相反する要素である。ここからの熱の流入出を防ぐ目的で、Low-E(Low-Emission)ガラスという放射熱を抑える金属皮膜がついた板ガラスやフィルムを使ったり、ペアガラスという二層の板ガラスの6mmから12mの隙間に乾燥空気やアルゴンガスを充填したり、真空層を作ったり、2重サッシにすることで断熱性を持たせている物も利用されている。ヨーロッパの一部では トリプルガラスという三相の板ガラスに乾燥空気とアルゴンガスを充填してさらにLow-Eガラスを付けたものもある。また、アルミでできたサッシも非常に熱を通しやすいため、樹脂や木製のサッシや、室内側を樹脂や木製にした 複合サッシ も一般的である。以前は、木製サッシは燃える素材であるというから使用が禁止されていたが、アルミサッシは簡単に熔けてしまうが木製サッシは中まで燃えないということが叫ばれていたこともあり、性能を試験して示せば素材は制限されないということに法改正された。
ただし、施工費が一般的な窓ガラスよりも割高となるため中々普及していないが、その一方で冷暖房効率は良くなる事から、エネルギーコストを考慮すれば結果的に割安とされる。エネルギーコストが急速に増大した時代には、これらは特にエネルギーコスト削減の面で注目された。ヨーロッパでは、ペアガラスのほうがよく使われるために日本で一般的な一枚ガラス(フロート板ガラス)より安いそうである。
なお古くより日本家屋に見られる縁側(または日当たりの良い廊下)などは、家屋構造によって断熱構造を求めた物である。これら構造による断熱空間を持つ建築物では、夏季などに日の当たっている部分を敢えて(障子や雨戸を使う等して)締め切る事で、その奥の部屋が外気温より涼しくなる効果が発生する。
世界的にも似たような方法で断熱を行っている建築物もあり、所謂「屋根裏」と呼ばれるデッドスペースも断熱効果を目指した空間であるが、このデッドスペース有効活用を目指して屋根裏部屋を設けると、同室内は非常な酷暑や暖房効果の低さに見舞われる事があり、屋根裏部屋を活用するタイプの現代日本住宅では、屋根構造に断熱材を組み込む事で、これを改善しようと言う動きも見られる。