真空
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- 真空(しんくう、vacuum)とは、物理学の概念で、大気圧より低い空間状態のこと。意味的には、古典論と量子論で大きく異なる。本項ではこれについて示す。
- 仏教の概念。とらわれの心一切がないこと。仏教における真空については、真空 (仏教)を参照。
- 僧侶の人名。
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[編集] 古典論における真空
古典論において、真空は「何も無い状態」である。実用的には次の二つに大別される。
負圧は、しばしば俗に「真空度が良い」「真空度が悪い」「真空度が駄目」などという使い方をされる。真空ポンプを用いて真空を得ることができる。真空度の単位はTorr(トル)が用いられてきたが、SI単位系への統一に伴い、Pa(パスカル)に移行しつつある。1atm=1.01325×105Pa=760Torrである。
用途にもよるが、一般に圧力が 10-4Pa より低くなると良い真空、10-6Pa 以下は高真空、10-8Pa 辺りになると超高真空と呼ばれるようである。
[編集] 真空状態の作り方
大気中にある容器内を真空にするために各種の真空ポンプを使用する。
10-1Pa程度の真空は、ロータリーポンプで手軽に得ることができる。真空デシケーター等ではこの程度の真空で十分である。
スパッタ等の真空蒸着装置ではプラズマ発生時に他の気体が残留するのを防ぐため、10-5Pa程度の真空度が求められる。このような場合、金属製のチャンバと銅ガスケットを用い、ターボ分子ポンプ(TMP)で排気することにより達成できる。
MBEや電子顕微鏡、粒子加速器等、10-9Pa台の超高真空が求められる場合は、達成に更に多くの工程が必要となる。チャンバをTMPで高真空状態にした後、チャンバ全体を加熱(ベーキング)して、チャンバ内壁に付着した気体分子を排除する必要がある。排気は大排気量のTMPのみでも可能であるが、多くの場合はイオンポンプやゲッターポンプが用いられる。MBE用のチャンバでは、チャンバ内で蒸着を行うため、チャンバの壁面に液体窒素シュラウドを設け、壁面を冷却することで内部に残留した気体分子を固着させ、真空度を上げる手法も用いられている。 容積Vを排気速度Sのポンプで排気したときの圧力p=p0exp(−St/V)となる。ただしt=0でp=p0とする。また、コンダクタンスC1のパイプの長さをm倍にすると、コンダクタンスはC1/mになる。
[編集] 真空をめぐる歴史
真空の存在については古代ギリシア時代から、論争が繰り広げられてきた。デモクリトスの原子論では、万物の根源である粒子アトム(atom)が、無限の空虚な空間であるケノン(kenon)の中で運動しているとして、真空の存在を認めていたが、アリストテレスは「自然は真空を嫌う」(真空嫌悪)と述べ、空間は必ず何らかの物質が充満しているとして、真空の存在を認めなかった。
この議論に決着がついたのは17世紀に入ってからであった。1643年にエヴァンジェリスタ・トリチェリは、一方の端が閉じたガラス管に水銀を満たし、このガラス管を立てると、水銀柱は約76cmとなり、それより上の部分が真空になっていることを発見した。また、オットー・フォン・ゲーリケは1657年、ブロンズ製の半球を2つ合わせて中空の球にして、内部の空気を抜いて真空にするという実験を行った。この2つの半球はぴったりとくっ付き、16頭の馬で引っ張ることでようやく外すことができた。この実験はマグデブルグの半球として知られている。
[編集] 量子論における真空
量子論における真空は、決して「何もない」状態ではない。常に電子と陽電子の仮想粒子としての対生成や対消滅が起きている。
ポール・ディラックは、真空を負エネルギーを持つ電子がぎっしりと詰まった状態(ディラックの海)と考えていたが、後の物理学者により、この概念(空孔理論)は拡張、解釈の見直しが行われている。
現在の場の量子論では、真空とは、その物理系の最低エネルギー状態として定義される。粒子が存在して運動していると、そのエネルギーが余計にあるわけだから、それは最低エネルギー状態でない。よって粒子はひとつもない状態が真空であるが、場の期待値はゼロでない値を持ちうる。それを真空期待値という。 たとえば、ヒッグス場がゼロでない値をもっていることが、電子に質量のあることの原因となっている。
[編集] 関連項目
- エヴァンジェリスタ・トリチェリ
- フリーズドライ(凍結真空乾燥)
- 真空注型(樹脂成型)