暗黒物質
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暗黒物質(あんこくぶっしつ、Dark matter)とは、宇宙にある星間物質のうち自力で光っていないか光を反射しないために光学的には観測できない物質のことである。「ダークマター」とも呼ばれる。
暗黒物質の存在は、ヴェラ・ルービンにより指摘された。水素原子の出す21cm輝線で銀河外縁を観測したところ、ドップラー効果により星間ガスの回転速度を見積もることができた。この結果と遠心力・重力の釣り合いの式を用いて質量を計算できる。すると、光学的に観測できる物質の約10倍もの物質が存在するという結果が出た。この銀河の輝度分布と力学的質量分布の不一致は銀河の回転曲線問題と呼ばれている。この問題を通じて存在が明らかになった、光を出さずに質量のみを持つ未知の物質が暗黒物質と名付けられることとなった。
暗黒物質が存在するとその質量により光が曲げられ、背後にある銀河などの形が歪んで見える重力レンズ効果が起こる。銀河の形の歪みから重力レンズ効果の度合いを調べ、そこから暗黒物質の3次元的空間分布を測定することに日米欧の国際研究チームが初めて成功したことが2007年1月に科学誌ネイチャーに発表された。[1][2]
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[編集] 暗黒物質の候補
具体的に何が暗黒物質として宇宙の質量の大半を占めているかであるが、後述するように複数の候補が挙がっている。
これらのうちのどれかかもしれないし、複数かもしれないし、どれでもないかもしれない。それらの候補は大別して素粒子論からの候補と天体物理学からの候補に分けることができる。 素粒子論からの候補はWIMPと呼ばれ、さらに熱い暗黒物質と冷たい暗黒物質の2種類に分けられる(厳密には温かい暗黒物質も考えられなくはないが、恣意的すぎるとされている)。
宇宙の晴れ上がりの時に、運動エネルギーが質量エネルギーを上回っていたものを熱い暗黒物質、そうではないものを冷たい暗黒物質と呼ぶ。現状の本命は冷たい暗黒物質シナリオであるが、決定的な弱点はその候補粒子が未だ見つかっていないことである。
また、重力を介してのみ相互作用する物質(シャドーマター)も候補として挙げられているが、これは現状では純粋に理論的な存在であり、観測事実はない。
[編集] 素粒子論からの候補
ニュートリノ以外は、存在は未確認。
- 熱い暗黒物質の代表例。従来ニュートリノの質量は0であると思われていたが、近年では微少な質量を持っている事がほぼ確実になった。ニュートリノは宇宙全体に存在する数が非常に多い(計算では~100/cm3)ので、質量が10eV程度あれば暗黒物質の候補になる。ただし、ニュートリノが暗黒物質の主成分だとすると銀河形成論的に困ったことがおこる。銀河団以下のスケールの構造が生まれなくなってしまうのである(free streaming mixing)。これは、ニュートリノ同士の相互作用がほとんど無く互いに通り過ぎてしまい、圧力が生じないことによる。
- 超対称性粒子の一つ。超対称性粒子は現在見つかっていないことから不安定であると考えられており、宇宙の初期にほとんどが通常の素粒子と、より軽い超対称性粒子に崩壊していったと考えられている。しかし、超対称性粒子に特有のRパリティ保存則により、最も軽い超対称性粒子(Lightest Supersymmetric Particle: LSP)は崩壊できず宇宙に残っていると考えられている。電荷を持つLSPがあるならば既に見つかっているであろうから、現在考えられている宇宙暗黒物質としてのLSPは電荷を持たないLSPであり、総称してニュートラリーノと呼ばれている。ニュートラリーノの質量は数GeV~数百GeVの範囲で原子核との散乱断面積は10-4以下と考えられている。
- 冷たい暗黒物質の代表例。軽い(~10-5eV)質量しかないが、温度0なので「冷たい」のである。
- シャドーマター
- 超対称性理論によりその存在が予言される物質。重力以外の相互作用をしないため、もし存在したとしても、見ることも触ることも不可能。
[編集] 天体物理学からの候補
いずれもバリオンからなる。ビッグバン仮説においては、バリオンの存在量が予言できる。その値は、臨界密度の約1/100程度である。ところが、実際の宇宙の密度はその10倍程度であると見積もられているため、以下の候補を全て考慮に入れたとしても元々のバリオンの量が足りない。そのため、非バリオン暗黒物質の存在を仮定する必要があることに変わりはない。
- 小規模なブラックホールは超新星爆発のときに生じる。質量が太陽の数億倍もあるような大規模なブラックホールは銀河中心で観測されているが、まだ成因はよく分かっていない。恒星規模のブラックホールが銀河系内にいくつくらい存在するのか、その質量分布がどのような物か、等も未だ明らかではないため、これは暗黒物質の候補となる。
- 比較的小質量の恒星が燃え尽きると白色矮星・中性子星になる。こうした星が自分で出す光が小さい場合、暗黒物質の候補となりうる。
- 観測できる多数の恒星がそれぞれ観測できない惑星を持っている可能性があり、これが暗黒物質の候補になる。
- Massive Compact Halo Objectの略。銀河ハロー内に存在する、小さくて光学的に観測の不可能(あるいはきわめて困難)な天体の総称。上記の白色矮星、恒星ブラックホールもその一種である。
[編集] 関連項目
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