服部嵐雪
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
文学 |
![]() |
ポータル |
各国の文学 記事総覧 |
出版社・文芸雑誌 文学賞 |
作家 |
詩人・小説家 その他作家 |
服部 嵐雪(はっとり らんせつ、承応3年(1654年) - 宝永4年10月13日(1707年11月6日))は、江戸時代前期の俳諧師。幼名は久馬之助、通称は孫之丞、彦兵衛など。別号は嵐亭治助、雪中庵、不白軒、寒蓼斎、玄峯堂など。江戸湯島生まれ。松尾芭蕉の高弟。雪門の祖。
目次 |
[編集] 経歴
服部家は淡路出身の武家で、父服部喜太夫高治も常陸麻生藩主・新庄直時などに仕えた下級武士で、長男である嵐雪も一時、常陸笠間藩主の井上正利に仕えたことがある。若い頃は相当な不良青年で悪所通いは日常茶飯事であった。1673年、松尾芭蕉に入門、蕉門で最古参の一人となる。1678年、不卜編『俳諧江戸広小路』に付句が2句入集したのが作品の初見である。1680年には同門宝井其角の『田舎之句合』に序を草し、『桃青門弟独吟廿歌仙』に入集、以後『虚栗(みなしぐり)』、『続虚栗』などに作品を採用された。1688年には『若水』を刊行し、同年立机して宗匠となり、1690年には『其机(そのふくろ)』を刊行して俳名を高めた。1694年、『露払』の斤にからんで深川蕉門との対立を生じ、代えて『或時集(あるときしゆう)』を刊行。また翌年には芭蕉の一周忌追善集『若菜集』を刊行した。作風は柔和な温雅さを特徴とする。芭蕉は嵐雪の才能を高く評価し、1692年3月3日の桃の節句に「草庵に桃桜あり。門人に其角嵐雪あり」と称えたが、芭蕉の奥州行脚にも嵐雪は送別吟を贈っていないなど、師弟関係に軋みが発生していた。1694年10月22日、江戸で芭蕉の訃報を聞く。その日のうちに一門を参集して芭蕉追悼句会を開き、桃隣と一緒に芭蕉が葬られた膳所の義仲寺に向かった。義仲寺で嵐雪が詠んだ句は、「この下にかくねむるらん雪仏」であった。其角と実力は拮抗し、芭蕉をして「両の手に桃と桜や草の蛭」と詠んだ程であったが、芭蕉没後は江戸俳壇を其角と二分する趣があった。1707年10月13日没。享年54。追善集に百里斤『風の上』など。その門流は、雪門として特に中興期以後一派を形成した。
[編集] 代表作
[編集] 『枕屏風』
- 布団着て寝たる姿や東山
[編集] 『遠のく』
- 梅一輪いちりんほどの暖かさ
[編集] 『萩の露』
- 名月や煙はひ行く水の上
[編集] 『曠野(あらの)』
- 庵の夜もみじかくなりぬすこしづゝ
- かくれ家やよめ菜の中に残る菊
- 我もらじ新酒は人の醒やすき
[編集] 『虚栗』
- 我や来ぬひと夜よし原天の川
[編集] 『続虚栗』
- 濡縁や薺こぼるる土ながら
- 木枯らしの吹き行くうしろすがた哉
[編集] 『猿蓑』
- 雪は申さず先ず紫の筑波かな
- 狗背の塵に選らるる蕨かな
- 出替りや稚ごころに物哀れ
- 下闇や地虫ながらの蝉の聲
- 花すゝき大名衆をまつり哉
- 裾折て菜をつみしらん草枕
- 出替や幼ごゝろに物あはれ
- 狗脊の塵にゑらるゝわらびかな
[編集] 『炭俵』
- 兼好も莚織けり花ざかり
- うぐひすにほうと息する朝哉
- 鋸にからきめみせて花つばき
- 花はよも毛虫にならじ家櫻
- 塩うをの裏ほす日也衣がへ
- 行燈を月の夜にせんほとゝぎす
- 文もなく口上もなし粽五把
- 早乙女にかへてとりたる菜飯哉
- 竹の子や兒の歯ぐきのうつくしき
- 七夕やふりかへりたるあまの川
- 相撲取ならぶや秋のからにしき
- 山臥の見事に出立師走哉
[編集] 『續猿蓑』
- 濡縁や薺こぼるゝ土ながら
- 楪の世阿彌まつりや靑かづら
- 喰物もみな水くさし魂まつり
[編集] 『杜撰集』
- 魂まつりここがねがひのみやこなり
[編集] 句集
- しだり尾の長屋長屋に菖蒲かな
- 木がらしに梢の柿の名残かな
[編集] 辞世句
- 一葉散る咄ひとはちる風の上
[編集] その他(前項と重複あり)
- 春
- 元日や晴れて雀の物語
- 面々の蜂を払ふや花の春
- 五十にて四谷を見たり花の春
- 惟茂と起しに来たる二日かな
- 七草を三べん打った手首かな
- 鶯にほうと息する山路かな
- 梅一輪々々ほどのあたゝかさ
- なれも恋猫に伽羅たいてうかれけり
- 巡礼にうち交り行く帰雁かな
- 酒くさき人にからまる胡蝶かな
- 出代や幼心に物あはれ
- うまず女の雛かしづくぞ哀なる
- 桃の日や蟹は美人にわらはるゝ
- 花に風軽くきて吹け酒の泡
- 兼好の莚おりけり花盛り
- 花を出て松にしみ込霞かな
- 夏
- 時鳥鳴くや利休のおとし穴
- 古庭にあり来りたる牡丹かな
- 青嵐定まる時や苗の色
- 五月雨や蚓の潜る鍋の底
- 竹の子や皃の歯ぐきの美しき
- 蓑ほして朝々ふるふ蛍かな
- 文もなく口上もなし粽五把
- 萍の実もいさぎよし水駅
- 蝉鳴や麦を打つ音三々々
- 瓜切てさびぬ剣の光かな
- すヾろたつ羽黒のきヾす夏尾花
- 夏祓目の行く方や淡路鳥
- 秋
- 秋風の心動きぬ縄簾
- 真夜中やふりかはりたる天の川
- 七夕や加茂川わたる牛車
- おもしろく富士に筋かふ花野かな
- 松虫のりんともいはず黒茶碗
- 稲妻にけしからぬ神子が目ざしやな
- 食物も皆水くさし魂祭
- 角力取ならぶや秋のから錦
- 立出てうしろ歩きや秋の暮
- 名月や煙這ひ行く水の上
- 名月やたしかに渡る鶴の声
- 我もらじ新酒は人の醒め易き
- はぜ釣や水村山郭酒旗の風
- 黄菊白菊その外の名はなくもがな
- 冬
- きりきりす鼠の巣にて鳴終りぬ
- 木枯に梢の柿の名残かな
- 深谷やしきる時雨の音もなし
- ふとん着て寝たる姿や東山
- 足袋はきて寝る夜隔てそ女房ども
- 鈴鴨の声ふり渡る月寒し
- 鴨おりて水まで歩む氷かな
- 門の雪臼とたらひの姿かな
- 蔵ありと知たる雪の光かな
- 武士の足で米とぐ霰かな