水冷エンジン
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水冷エンジン(すいれいえんじん)は、内燃機関のうち、水またはそれに類する冷却液を媒体として間接的に冷却を行うものを指す。液冷エンジンも同義。
内燃機関の場合、燃焼室周囲のヘッド部・エンジンブロック部に「ウォータージャケット」と呼ばれる二重構造の空間を作り、ここに冷却水を通して燃焼室周囲の過熱を抑制している。過熱した冷却水は、ラジエーターで空気冷却されて水温を下げ、再び機関の冷却に用いられる。
水の比熱が大きく、またラジエーター容量に余裕を持たせることで空冷エンジンよりも安定した冷却能力を持つが、配管系統が複雑であり、また冷却媒体となる水(ないし冷却液)の漏出・減少による故障のリスクを伴う。
通常、ウォータージャケットはエンジン製造時に鋳造で形成されるが、第二次世界大戦以前の航空用エンジンには、外部から鋼板を巻き付けて溶接することでウォータージャケットを形成する例もあった。
[編集] 沿革
内燃機関の出現当初から、高温に達する燃焼室周囲の安定した冷却は重要な課題であった。空冷エンジンは簡易だが冷却効率が悪く、比熱の大きい水を冷却媒体とする手法が早くから普及した。
当初の水冷エンジンは、極めて原始的なものであった。燃焼室周囲のウォータージャケット上に大きな水槽部があり、エンジンの作動前には水槽に水を満たしておく。過熱した水はそのまま大気中に自然蒸発するに任せる。 これは非常に単純な構造であるため、定置動力用・農業用の小型エンジンなどでは、はるか後年の1960年代になっても用いられていた。
だが、自動車など交通機関に用いるには水の搭載量が過大であり、またエンジンが高性能化すると発熱量も高まることから、自然蒸発では到底効率が悪く、ガソリン自動車が生産されるようになった1890年代には、早くも実用性を欠くようになった。その解決には、ラジエーターの利用によって冷却水を循環再使用させることが必要だった。
このため1890年代後半には、冷却フィン(ひれ)を設けたパイプをくねらせた原始的ラジエーターが、水冷エンジン自動車に装備されるようになった。
1900年には、ドイツのダイムラー社が開発した乗用車「メルセデス・シンプレックス」に、ハニカムラジエーターが採用された。このラジエーターは、細い流路で形成された冷却コアを密集させて広い表面積を確保し、高い冷却効率を得るもので、原理的には1世紀以上を経た21世紀初頭に至っても、最も一般的なラジエーターの構造として踏襲されている。エンジン動力の一部を利用して冷却ファンを駆動し、ラジエーターの放熱を促進する構造も、時を同じくして一般に広まった。
大型エンジンでも効率の良い冷却が可能であることから、20世紀初頭には水冷方式は自動車や船舶、定置動力用機関のもっとも有効な冷却手段として用いられるようになった。しかし複雑で冷却装置の重量をも伴うことから、レシプロ航空エンジンの分野では空冷エンジンを圧倒するまでには至らなかった。
その後、加圧式ラジエーターが出現する。冷却水の過熱による沸騰を防ぐため、配管全体を強化した密閉構造にすることで加圧し、沸点を高くして冷却効率を高める手法である。これは航空機から自動車などにも拡大された技術である。
また、冬期の凍結防止のため、冷却水に氷点を下げる不凍液としてエチレングリコールなどを混入することは古くから行われていたが、20世紀後半の1960年代以降、エンジンの冷却水には、ロングライフクーラントを用いることが普通になった。これはエチレングリコールのほか防錆剤等も混合し、冷却水路内部の劣化を防止して、冷却水の長期間無交換とメンテナンスフリーを狙ったものである。
将来的に導入されそうなものとして、沸騰冷却システムが上げられる。冷却液の液体から気体へ又は、その逆の相変化は通常の数倍の熱伝達効率を期待できるため、凝結器に相当するラジエータの小型化が可能である。負荷に合わせて冷却液に対し加減圧を制御することで沸点を変化させ、効率的な廃熱コントロールが可能になると期待されている。