相 (言語学)
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文法カテゴリー |
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相(体) |
相(そう)とは、言語学、文法学上の用語で、動詞の文法カテゴリーの一つであり、動詞が表す出来事の完成度の違いを記述する文法形式のことを言う。アスペクト(aspect)ともいう。出来事を完結したまとまりのあるものと捉えるか、未完結の広がりのあるものと捉えるかによる語形交替などをいい、また出来事が瞬間的なのか、継続的か、断続的か、反覆するのか、やがて終わるのかといった全過程のどの局面にあるのかと面に着目して区別を行うことをもいう。
もともとロシア語などのスラヴ語に見られる完了体と不完了体の対立を表すものであった。なおロシア語の場合、日本語訳に「相」ではなく「体」が使われている。
かつて古典語の文法ではvoice(態)を相と訳しているものが多かったが、現代ではaspectの訳として相をあて、voiceの訳としては態をあてるのが一般的である。
スラヴ語などでは時制と独立のカテゴリーとして存在するが、多くの言語では相と時制が組み合わされた形態として存在する(例えば現在進行形、現在完了形など)。
目次 |
[編集] 日本語
日本語では、
- 雨が降っている・雨が降っていた(未完結相)
- 雨が降る・雨が降った(完結相)
というように、動詞のテ形語幹に「いる」がつけば出来事が未完結であることを表し、「いる」がなく、語幹に直接「る」「た」のみがつく場合は、出来事が完結していることを表現している。ちなみに「る」「た」は時制(テンス)を表している。
また、「雨が降っている」は、出来事が継続していることを表しているが(進行相)、「椅子に座っている」のように、「いる」が瞬間的に変化する動詞につけられた場合、変化の結果が持続していることを表している(結果相)。さらに「雨が降り始めた」(起動相)、「雨が降り止んだ」(終結相)というように補助動詞をつけることでさまざまな局面を表している。
なお、共通語では例えば同じ「買っている」でも、「彼は今帽子を買っている」「彼はきのうこの店で帽子を買っている」のように進行相・完了相の両方に用いられることがあり、時間が明示されないと紛らわしい。しかし中国・四国地方を中心とする方言には、前者を「買いよる」、後者を「買うちょる」(つまりテの有無)などと明確に区別する特徴がある。
[編集] 日本手話
日本手話においてアスペクト(相)の問題は研究途上にある。知られているところでは次のようなものが挙げられる。なお(かっこ)内の説明部分がアスペクト変化の文法的要素。続く部分が日本語訳。(主語を補った) なお例文中の [ 手話口形:] とは過去,進行,などを示すマーカーであり,この例では「食べる」という手話と共に口で「タ」という。これは「食べた」という意味となる。[手話口形:]の表記がない場合,口形はつけない。
- 食べる(茶わんを持ち箸で食べる仕草+ [ 手話口形:タ ] )(完結相) 「私は食べた」
- 食べる(食べる仕草を継続する) (継続相) 「彼はずっと食べている」
- 食べる(食べる仕草を断続的にくり返す)(習慣相) 「彼はいつも(定期的に)食べている」
- 食べる(食べ物を口に運ぶ途中でやめてしまう) (直前相) 「食べようと思ったがやめた」
[編集] 英語
- He begins to talk. (起動相)
- He continues to talk.(継続相)
- He's crossing the street.
- He stopped talking.(終止相)
ただし、現在進行形を取らない限り通常の動詞は終止相と考えられる。
[編集] ロシア語
ロシア語では、多くの動詞に関して完了体と不完了体がペアで存在する(動詞の性格により一方しかないものもある)。 例えば、 делать(不完了体:作る)と сделать(完了体:作り上げる、作ってしまう)など。完了体の現在形は(機能的には「現在」は考えられないので)実際には未来を表す。 形態としては例のように接頭辞(動詞によって違う)の有無のほか、語幹の形が少し違う場合、また全く異なる形態で示される場合もある。