ロシア語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロシア語 русский язык [IPA] |
|
---|---|
話される国 | ロシアと周辺諸国 |
地域 | 東ヨーロッパ・アジア |
話者数 | 2億8500万人 |
順位 | 4-7[1] |
言語系統 | インド・ヨーロッパ語族 |
公的地位 | |
公用語 | ロシア、ベラルーシ、カザフスタン, キルギスタン、国連 |
統制機関 | Russian Academy of Sciences |
言語コード | |
ISO 639-1 | ru |
ISO 639-2 | rus |
ISO/DIS 639-3 | rus |
SIL | RUS |
ロシア語(ロシアご)はインド・ヨーロッパ語族のスラヴ語派に属する言語。露語とも言う。ロシア連邦の公用語。ロシア連邦の国語表記には、キリル文字を使用する。
ロシア連邦及び旧ソ連構成国のベラルーシ、カザフスタン、キルギスタンで公用語となっており、ウクライナ等その他の旧ソ連諸国でも、公用語にこそなっていないもののロシア系住民を中心に広く使われている。旧ソ連邦以外でも移民の多いイスラエル、ドイツ、カナダ、米国で使用される。1999年のデータではイスラエルへの旧ソ連からの移民は75万人にのぼり、ロシア語のテレビ・ラジオ放送局もある。ロシア語にもっとも近い言語はウクライナ語とベラルーシ語である。これら三つは同一言語の方言と見做せるほどに近縁であるとも言われる。
1997年に発行された «Language Monthly» (No. 3)によれば全世界で2.85億人がロシア語を話し、その内の1.6億人がロシア語を母語とする。
国連の公用語の1つでもある。
目次 |
[編集] 文字
ロシア語で使われる33個のキリル文字の呼び方は次のようである。
アー | ベー | ヴェー | ゲー | デー | イェー | ヨー | ジェー | ゼー | イー | イー クラトコエ |
カー | エル | エム | エン | オー | ペー |
А | Б | В | Г | Д | Е | Ё | Ж | З | И | Й | К | Л | М | Н | О | П |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
エル | エス | テー | ウー | エフ | ハー | ツェー | チェー | シャー | シシャー (シチャー) |
トヴョールドゥイ ズナーク |
ウイー | ミャーフキー ズナーク |
エー | ユー | ヤー | |
Р | С | Т | У | Ф | Х | Ц | Ч | Ш | Щ | Ъ | Ы | Ь | Э | Ю | Я |
А, О, У, Ы, Эは硬母音。Е, Ё, И, Ю, Яは軟母音。Йは子音。
次の表には現在のロシア語で用いられない文字も含まれる。
キリル文字 (一部の文字は環境によって表示されないことがある) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
А | Б | В | Г | Ґ | Д | Ѓ | Ђ | Е | Є | Ѐ | Ё | Ж | З | Ѕ | И | І | Ї | Й | Ѝ | Ј | К | Л | Љ | М | Н | Њ | О | Ө | П | Р | С | Т | |||||||||||||||||||||||||||||
а | б | в | г | ґ | д | ѓ | ђ | е | є | ѐ | ё | ж | з | ѕ | и | і | ї | й | ѝ | ј | к | л | љ | м | н | њ | о | ө | п | р | с | т | |||||||||||||||||||||||||||||
Ћ | Ќ | Ѹ | У | Ү | Ў | Ф | Х | Ѡ | Ц | Ч | Џ | Ш | Щ | Ъ | Ы | Ь | Ѣ | Э | Ю | Я | ІА | Ѥ | Ѧ | Ѫ | Ѩ | Ѭ | Ѯ | Ѱ | Ѳ | Ѵ | Ѷ | ||||||||||||||||||||||||||||||
ћ | ќ | ѹ | у | ү | ў | ф | х | ѡ | ц | ч | џ | ш | щ | ъ | ы | ь | ѣ | э | ю | я | іа | ѥ | ѧ | ѫ | ѩ | ѭ | ѯ | ѱ | ѳ | ѵ | ѷ |
[編集] アクセント・発音
- 日本語のアクセント(高低アクセント)とは異なり、強弱アクセントである。アクセントのある音は長く、強く発音する。
- 子音Йは通常、母音の後以外には置かないが、特に外来語では Йокогама(ヨコガマ=横浜)のように単語の先頭に置くこともある。
- 軟子音・母音(口蓋化した発音)と硬子音・母音(口蓋化のない発音)が明確に区別される。
- Ёには必ずアクセントがある(アクセントがなくなった場合、文字上はЕに変化する)。
- У以外の母音はアクセントが無いと音が弱化する。アクセントの前後、位置で音は変わる。а, оは[ə], иとэは[ɪ](и склонно к э「エに傾いたイ」)になる。
- 西欧語にはない /zn/ や /nr/ など、子音連続が多様である
- 例: знание /zna-/(知識)
- 語頭に現れるもの
- zv, zd, zn, zl, zm, zr, mgl, mgn, ml, mn, nr... など
- 一部の子音は派生語などで規則的に別の子音に変化する。
- г - ж など
[編集] ロシア語の文法
[編集] 名詞
名詞は、男性、中性、女性の3つの性に分かれている。ロシア語の名詞は、例外はあるものの総じて、男性名詞(単数)は子音、-й, ьで、女性名詞は-а, -я, -ь で、中性名詞は-о, -е, -мяで終わる。そのため、名詞の性の判別が比較的容易である。
複数形の場合、男性及び女性名詞は語尾の硬・軟で-ыと-иで終わり、中性名詞は-аと-яで終わる。歴史的には、他にハサミやズボンなど、二つ一組のものに用いられる組数(双数)があったが、現在は数詞との結合の中にその痕跡を残すのみである。
名詞の格は主格、生格、与格、対格、造格、前置格の6種類の他、一部に呼格(例:Боже! 神よ!)、処格、物主格?(притяжательный п.)、分離格?(разделительный п.)が残る。
数詞とそれに関連する名詞は特殊な変化をみせる。1 は単数主格だが、2-4 は単数生格、5以上が複数生格をとる。2-4 の単数生格は古い双数形の名残である。
[編集] 人称代名詞
単数 | 複数 | |
---|---|---|
一人称 | я -私は(I) | мы -私達は(we) |
二人称 | ты -君は(you) вы -貴方は(敬称) |
вы -貴方達は(you) |
三人称 | он -彼は(he) она -彼女は(she) оно -それは(it) |
они -彼らは 彼女らは それらは(they) |
表中は全て主格を用いている。敬称としての「вы」は、文中でも「Вы」のように大文字で書き始めることがある。
[編集] 動詞
動詞は1回限りの動作や、その開始と終了がはっきりと意識できる一まとまりの動作など(日本語で言えば「食べてしまう」「読み切る」のような)を表す完了体と、進行・継続・反復する動作、動作そのものなど(「食べている」「読む」のような)を表す不完了体(未完了体とも)の2つの体(相 (言語学)参照)に分類され、多くの動詞で対になっている。一部には対になる体を持たないものや、完了体でもあり不完了体でもあるものなど、変則的な動詞も存在しているが、いずれにも属さない動詞は存在しない
時制は過去・現在・未来の3つのみと単純である。基本的に全ての動詞は過去と現在しか持たない(唯一の例外が、be動詞に当たる быть で、過去形・現在形・未来形の3形態を持つ)。現在形は主語の人称・数により、過去形は性・数によって変化する。未来形は完了体と不完了体で表現の方法が異なり、完了体の場合は、その現在形がそのまま意味上の未来を表すのに対し、不完了体では助動詞 быть の未来形との結合で表される。
コピュラ動詞(…である)быть の現在形は基本的には明示されない(例:Я чайка.「私はかもめ」)。かつては、主語の人称と数に一致した быть が用いられていたが、そのような機能は現在の быть からはほぼ完全に失われており、現在形が用いられる局面は、所有を表す場合に限定されると言っても過言ではない。その際には、所有される側が文法的な主語に当たるため быть の三人称単数形 есть (例:У меня есть сын.「私には息子がいる(私の許には息子がいる)」)を用いることになる。所有される側が複数の場合、以前はбытьの三人称複数形に当たる суть を使用していたが、現在では数に関係なく есть を使う傾向にあるようである。
さらに言うと、この есть は存在の有無のみを問題としているため、存在することが前提となっている場合は不要になる(例:У меня маленький сын.「私には小さな息子がいる」→息子の有無についてではなく、それがどのような息子なのかが問題となっている)。
なお、否定の表現(…がない…がいない)は нет を使い、存在を否定する名詞を生格にかえる(例:У меня нет сына.「私に息子はいない」)。ちなみに、この нет は、не есть の音便形であり、"Да(はい)"、"Нет(いいえ)" の "Нет" とは、別物である。
また動詞が変化したものとして形動詞(西欧語の分詞のように形容詞の働きをする)や副動詞(副詞の働き)がある。ся動詞と呼ばれる一群の動詞(語尾に再帰代名詞сяがつく)はフランス語などの再帰動詞と同様に用いられ、また相互の動作や受動表現にも用いられる。
[編集] 形容詞
形容詞は名詞と同様に性・数・格によって変化し、限定的用法(名詞につく場合)はそれらが一致する。叙述的用法では語尾が短い「短語尾形」も用いられる。
[編集] ソ連崩壊後のロシア語の現状
1991年末にソ連が崩壊し、ソ連を結成していた各共和国はそれぞれ独立し、それぞれの民族語が公用語へと昇格したが、その後の状況に関しては国に関して様々である。
バルト3国と呼ばれるエストニア・ラトビア・リトアニアでは、ソ連からの独立以降急速に各民族語(エストニア語・ラトビア語・リトアニア語)が使用される機会が増えている。もちろんソ連崩壊後15年しか経過しておらず、またロシア系住民が多い地域などではロシア語が今でも使われるが、ソ連時代と比べるとロシア語はそれほど使われなくなっていると言える。特にこの3カ国が2004年にEUに加盟してからは、英語やドイツ語がより広く学ばれるようになっている。ただし、ソ連時代後期にはロシア語人口がラトビア語人口を逆転するのではないかと言われたラトビアでは、独立回復後に制定した国籍法で国籍取得要件にラトビア語の習得を義務付けたため、多くのロシア系住民をロシアへ移住させる事に成功したが、国籍を与えられない残留ロシア人の権利が阻害されているとするロシア政府からの抗議を受け、さらに欧州委員会からもこの言語規定が市民の平等を定める欧州憲法に違反しているという指摘を受けた。その結果、ラトビア政府によるロシア語排除策は沈静化している。
また、ロシア影響圏からの離脱を模索するウクライナやモルドバでも、ロシア語ではなくウクライナ語やモルドバ語がより広範に使われているといえる。但し、ウクライナで長年ロシア語が強要されてきたこともあり、またウクライナ語とロシア語が言語学的にも近い言語であることから両言語の混交なども起こっており、完全なロシア語排除は難しいとされている。専らウクライナ語のみを使用しているの地域もあるが、ウクライナ語とロシア語両方が使われている地域、ロシア語が専ら使われている地域など地域差も大きく、今後もロシア語は使われ続けるといわれている。さらに、将来的にはロシア語の公用語化もありえない話ではないとされる。
それ以外の地域に関しては、今でもロシア語は幅広く使われ続けていると言ってかまわないだろう。ベラルーシやカザフスタン・トルクメニスタンなどでは非ロシア人でもロシア語しか喋れない人も多く、また多民族が入り混じって生活する中央アジア諸国ではロシア語が民族を超えた共通語として使われている。なお、ベラルーシでは隣国ウクライナとは逆にロシア語が奨励されており、ベラルーシ語に関しては弾圧的政策がとられている。このことから、ベラルーシ語の消滅が危惧されている。
ポーランドやブルガリアなど旧共産圏諸国では、共産主義体制ではロシア語が広く学習されていたが、民主化後は英語やドイツ語(歴史的にはチェコやハンガリーなど、オーストリア帝国の支配下にあった国も少なくない)など西欧の言語に押されて、ロシア語学習は下火になった。政治的にも経済的にもこれらの国が西欧諸国との関係を強化している現状では、ロシア語がかつてのような地位を取り返すのは難しいだろう。
一方、ウラジーミル・プーチン政権で経済の立て直しに成功したロシアがBRICsと呼ばれる経済成長地域の一つに加わり、天然資源を核にした諸外国との経済関係が再び拡大すると共に、ロシア語の需要は再び高まりつつある。一方、外国で使用されるロシア語教材・辞書にはソ連時代に製作されたものが多くの残り、その内容や例文には社会主義思想や文学・芸術などへの偏りがあるため、新たな時代に対応した学習体制の整備が求められている。ロシアでは言論統制が緩められて多様な出版の自由が拡大した反面、ソ連政府からの保護が失われた学術・芸術分野の停滞が指摘され、非採算部門での出版活動に支障を来している。
ロシア国内では急速な資本主義化や新技術の導入に伴い、今まで存在しなかった概念や用語が大量に導入された。これにロシア語の造語能力が追いつかず、特に英語を中心とした外来語がそのままロシア語に導入される例が多くなっている。
[編集] あいさつ
- こんにちは Здравствуйте! ズドラーストヴイチェ
- やあ!(親しみを込めた「こんにちは」) Привет. プリヴィェート!
- やあ!(親しみを込めた「こんにちは」) Здравствуй . ズドラーストヴイ!
- はじめまして Очень приятно. オーチン プリヤートナ
- おはよう Доброе утро. ドーブライェ ウートラ
- こんにちは Добрый день. ドーブルィイ ヂェーニ
- こんばんは Добрый вечер. ドーブルィイ ヴィェーチェル
- お休みなさいСпокойной ночи. スパコーイナイ ノーチ
- さようなら До свидания! ダスヴィダーニヤ
- さようなら(当分会えない場合) Прощайте. プラシャーイチェ
- さようなら(「また明日」) До завтра! ダザーフトラ
- ありがとう Спасибо! スパスィーバ
- はい Да. ダー
- いいえ Нет. ニェート
- すいません 、ごめんなさいИзвините. イズヴィニーチェ
- どういたしまして Не за что. ニェー ザ シュタ
- お名前は? Как вас зовут? カーク ヴァース ザヴート?
- 私は…です。 Меня зовут …. ミニャー ザヴート …
- 私はあなたが好きです Я вас люблю. ヤー・ヴァース・リュブリュー
[編集] ロシア語由来の日本語外来語
()内は、ロシア語での本来の意味である。
- アジト - агитпункт(扇動本部)
- イクラ - икра(魚卵)
- インテリ(インテリゲンツィア、インテリゲンチャとも) - интеллигенция(知識人)
- ウォッカ - водка(水 + 指小辞)
- オホーツク海 - Охотское море
- カンパ - кампания(キャンペーン)
- グラスノスチ- гласность(情報公開)
- コミンテルン - Коминтерн ← Коммунистический интернационал(国際共産党・第三インター)
- コルホーズ - колхоз ← коллектив хозяйство(集団農場)
- コンビナート - комбинат
- サハリン - Сахалин(樺太)
- サモワール - самовар(ロシア式湯沸かし器)
- セイウチ - сивуч(トド)
- ソビエト(ソヴィエト、ソヴェトとも) - Совет(会議)
- ソフホーズ - совхоз ← советское хозяйство(ソビエトの農場)
- タイガ - тайга(密林)
- チェカ - ЧК ← чрезвычайная комиссия по борьбе с контрреволюцией и саботажем(反革命と怠業に対する闘争のための非常委員会)
- ツァーリ(ツァーとも) - царь(皇帝・王)
- ツンドラ(サーミ語からロシア語を経由) - тундра
- デカブリスト - декабрист(十二月党員)
- トーチカ - точка(点、地点)
- トロイカ - тройка(3番、3つ組)
- トロツキスト(しばしば軽蔑の意味をこめて) - троцкист
- ノルマ - норма
- バラライカ - балалайка
- ピロシキ - пирожки
- ヴ・ナロード - в народ(人民の中へ)
- ペチカ - печка(暖炉、ストーブ)
- ペレストロイカ - перестройка(建て直し)
- ボリシェヴィキ(ボルシェヴィキとも) - большевики(多数派)
- ボルシチ - борщ
- メンシェヴィキ(メニシェヴィキとも)- меньшевики(少数派)
ロシア語から日本語に入った単語は、18世紀以降の両国間の接触によりロシアの文物が日本に紹介された物と、1917年のロシア革命とその後のソビエト体制の成立により、社会主義(共産主義)思想と共に日本に導入された物の2種類が多い。前者は日常生活の中で使用されている例があるが(イクラなど)、後者はむしろソ連・ロシア社会の特定の組織や現象を指す固有名詞としてとらえられる物が多い(コルホーズ、ペレストロイカなど)。ただし後者にもロシアから離れ、日本社会の事象を説明する時に使われる用語もある(コンビナート、ノルマなど)。
この他、日本語とロシア語の使用領域拡大に挟まれたアイヌ語語源の言葉が、両者に取り込まれる例もある。
[編集] 日本語由来のロシア語単語
日本語からロシア語への単語移入は、日本文化の文物がロシアで紹介された時に単語が使われる場合が多く、技術用語や学術用語では例が少ない。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
カテゴリ: ロシア語 | ロシアの言語 | アゼルバイジャンの言語 | ベラルーシの言語 | エストニアの言語 | カザフスタンの言語 | キルギスタンの言語 | ラトビアの言語 | タジキスタンの言語 | トルクメニスタンの言語 | ウクライナの言語 | ウズベキスタンの言語