線形システム論
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線形システム論(せんけいしすてむろん, Linear System Theory)は一階連立線形微分方程式で表わされた状態方程式 を対象とした制御理論である。状態方程式が行列を用いて表現できることから、行列代数の多くの知見が適用され、現代制御論の多くの主要な結果が得られた。そのため、現代制御論と言えば線形システム論を指すことが多い。非線形システムであっても、平衡点近傍で線形近似したものを対象に制御系を設計することでうまく行くことが多く、応用範囲は非常に広い。
目次 |
[編集] 主な概念
[編集] モデル表現
- 状態方程式 (State Equation)
- 一階連立線形微分方程式
- の形で表現されるものを対象とする。ただし、A, B, C, D はそれぞれ (n,n), (n,m), (l,n), (l,m) 次の行列であり、大抵は D = 0 の場合(厳密にプロパーな系) を扱う。
[編集] 解析手法
- 平衡点 (Equilibrium)
- 全ての入力を零としたときに、状態が変化しないような点。線形システムにおいては、原点または原点を含む線形空間である。
- 安定性 (Stability)
- 状態が平衡点からわずかにずれたとき、再び平衡点に戻るような性質。A 行列の固有値の実部の符号により判別される。
- 可制御性 (Controllability)
- 全状態量を、有限の時間内に原点に移すような入力が存在する性質。A 行列と B 行列によって生成される可制御行列
- の階数によって判別できる。完全可制御である系は、元の系が不安定であっても状態フィードバックによって必ず安定化することができる。
- 可観測性 (Observability)
- 有限時間内に得られた出力から、全状態の初期値を特定することが可能である性質。A 行列と C 行列によって生成される可観測行列
- の階数によって判別できる。完全可観測である系は、観測器によって出力からその内部状態を推定することが可能である。
- 可安定性 (Stabilizability)、可検出性 (Detectability)
- 状態空間の一部が可制御(可観測)である場合、残りの部分空間が安定である場合、可安定(可検出)であるという。
- 正準形 (Canonical Form)
- 線形システムは、座標変換によって元の系とまったく同じ挙動を持つ系に変換することができる。そこで与えられた系を正準形と呼ばれる特定の形に座標変換して共通の性質を探ることがある。ジョルダン標準形や Luenberger の可制御正準形
- などがある。ここで はこの系の特性多項式の i 次項の係数となっている。
- 観測器 (Observer)
- 制御入力と出力から内部状態を推定するシステム
- システム同定 (System Identification)
- システムの入力と出力からシステム内部のパラメータを求めること。モデルを記述するパラメータが既知であることを前提とする現代制御論においては、非常に重要なプロセスである。
[編集] 制御系設計
- 状態フィードバック (State Feedback)
- 全ての内部状態をもとにして制御入力を決めること、またはその入力
- u = Fx
- 出力フィードバック (Output Feedback)
- 出力をもとにして制御入力を決めること、またはその入力
- u = Ky
- 極配置法 (Pole Placement Method)
- 閉ループ系の極を決定し、それを実現するようなフィードバックゲインを求める制御系設計方法
- 最適レギュレータ (Optimal Regulator)
- 最適制御論を参照