蕁麻疹
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蕁麻疹(ジンマシン)は、急性皮膚病の一つ。元来は全てアレルギーが関与していると考えられていたが、必ずしもそうではないものも含まれる。蕁麻疹の一種に血管浮腫(クインケ浮腫ともいう)と呼ばれる病態がある。また、アナフィラキシーショックの一症状として蕁麻疹が出現することがある。
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[編集] 蕁麻疹
[編集] 名前の由来
人がイラクサ(蕁麻)の葉に触れると痒みを伴う発疹が出現するためこの名前がついた。なお、尋常性乾癬の「尋」と蕁麻疹の「蕁」は混同されやすいため、間違って使われることがあり注意が必要である。
[編集] 症状
- 皮膚の灼熱感・かゆみを伴う発疹が生じる。数分~数時間で消退するが、発作的に反復して発疹が起こる。
- 発疹の特徴として、軽度の膨らみをもった「みみず腫れ」を特徴とし、医学用語では膨疹(ぼうしん)と表現する。
- 気道内にも浮腫を生じることがあり、この場合、呼吸困難を併発し、死ぬこともある。
[編集] 蕁麻疹の起こる仕組み
皮膚の血管や血管の周囲には、肥満細胞(好塩基性の細胞)が散在しており、この肥満細胞の中にヒスタミンという成分が多数含まれている。何らかの原因で、肥満細胞がヒスタミンを分泌する。それにより、ヒスタミンが血管に働いて、血管を拡張させるとともに、血管の透過性が亢進し血管外への血漿成分の漏出を起こさせる。そして、皮膚の真皮内に流出した血漿蛋白が真皮の組織間隙圧によって抑制され、限局した浮腫になるが、それが膨疹という表現形になる。さらに、ヒスタミンは皮膚の神経を直接的に刺激し掻痒を誘発させる。
[編集] 分類
[編集] アレルギー性蕁麻疹
(起こる仕組み)
I型アレルギーが関与していると考えられている。IgEと呼ばれる抗体が肥満細胞に付着しており、抗原がその抗体に付着すると肥満細胞が活性化し中に蓄えられていたヒスタミンを大量に放出して症状を引き起こす。抗原被爆から30分以内には症状が出る。ヒスタミンの放出は15分程度であり、通常はすぐに治まる。しかし、繰り返しの抗原被爆により肥満細胞が活発になり皮疹の出現・消腿が1ヶ月以上も続くことがあり、その場合、慢性蕁麻疹ということになる。なお、接触性皮膚炎(かぶれ)でみられる湿疹は、Ⅳ型アレルギーであり、機序が異なる。
(経過による分類)
発疹の出没が1ヶ月以内のものを「急性蕁麻疹」、1ヶ月以上のものを「慢性蕁麻疹」と分類することがあるが、分類する意義がないという意見もある。
(原因による分類)
- 食物性蕁麻疹 原因食物を摂取してから30分以内に起こるのが通常である。アレルギー性蕁麻疹の一つ。サバなどの生魚が多いが、古くなるとすぐ醗酵してヒスタミン性の物質を作るためとされている。また、その食物そのものに対してアレルギー反応がないが、消化器官で代謝された代謝産物に対してアレルギー反応をもっている場合も多い。食べ過ぎ・飲みすぎ・風邪による感染性胃腸炎などがあると、体にとって異物とみなされる不純物(抗原物質)が吸収され蕁麻疹が生じやすくなるということもあり、アレルギー反応だけでなく、何らかのプラスアルファの要因が加わって生じることも多いと考えられる。
- 薬剤性蕁麻疹 薬剤によるアレルギーである。薬剤摂取後30分以内に起こるのが通常。抗生剤・NSAIDの頻度が高い。
- 2・3年以上続く慢性蕁麻疹の中には、膠原病や内臓疾患を合併していることがある。
[編集] 非アレルギー性蕁麻疹
(起こる仕組み)
アレルギー性の反応はないが、何らかの刺激でヒスタミンが肥満細胞から分泌されたり、神経末端よりアセチルコリンなどの物質が分泌され、それより血管透過性が亢進して症状が出るものなどがある。その一方で、原因機序が確定していないため非アレルギー性と扱っているものも含まれる。なお、アレルギー性と異なりヒスタミンなどの放出が長かったりして、すぐに治まるとは限らない。
(原因による分類)
- 物理性蕁麻疹 機械刺激・温度・圧迫・汗・運動などで誘発される場合がある。寒冷により生じる寒冷蕁麻疹もこの一つで、冷たい飲み物(ビール、ジュース、水)を一気に飲むと咽頭や喉頭に浮腫を生じ呼吸困難になりやすい。
- 日光蕁麻疹 日光被爆により起こる蕁麻疹。膨疹は日光の当たった皮膚に限局して現れ、日光を避けると1から2時間くらいで痕跡を残さず消えていくのが特徴である。波長の違いで6型に分類されている。光のエネルギーにより皮膚の成分が修飾されて構造が変化し、それが抗原となって即時型アレルギー反応が成立するという意見もあり、アレルギーの関与はまだ完全には否定できていない。なお、似た症状をもつ疾患として多形日光疹があり鑑別が必要である。多形日光疹は日光照射後数時間してから発疹が現れ,発疹が数日間持続するという違いがあるので、その臨床経過で鑑別が可能である。
- コリン性蕁麻疹 発汗刺激により生じる。膨疹とその周囲に紅斑を伴うという特徴的な発疹を生じる。痒いというより痛痒さを訴える人が多い。一過性であり、汗をかくたびに生じる。発生機序はまだ確定されていないが、一つの説として、発汗刺激因子により中脳の発熱中枢が刺激され、コリン性神経を介して皮膚の神経末端でアセチルコリンが分泌され膨疹が生じるというものがある。また、心因性蕁麻疹といってストレスが原因によるものがあるが、その蕁麻疹が起こる原因の多くはアセチルコリンが関与していることが最近、分かってきた。
[編集] 検査
[編集] 蕁麻疹と診断するための検査
- 赤色皮膚描記症という症状があり、皮膚を擦過すると赤く膨隆する。アトピー性皮膚炎では白色になる(白色皮膚描記症)ので対照的である。
- 湿疹との鑑別は経過から明らかであるが、形態学からも鑑別ができる。湿疹は湿疹の三角形で示されたとおり多様な形態をとりうるがその中に膨疹は含まれていない。よって膨疹を見つけることで湿疹を除外できる。しかし膨疹がない蕁麻疹もありえるので注意が必要である。
[編集] 蕁麻疹の原因を調べるための検査
- 血液検査で特異的IgEを調べる。RAST法とも呼ばれる。(それに対して、総IgEはRIST法と呼ばれる。)
- ヒスタミン遊離試験が血液検査で調べられる。血液に原因と思われる物質を注入し、アレルギーの原因となるヒスタミンが増加するかを見る検査である。費用がかかる。今のところ、薬剤性のものしかできないらしい。
- 皮内テスト、プリックテストなどがある。原因と思われる物質を皮内・皮下等に注入してアレルギー反応が誘発するか、を調べる試験である。しかし、それが原因でショックになることもあり、施行には入院が必要。
- 誘発試験があるが、ショックの危険があるため慎重に行う。寒冷蕁麻疹を例にあげる。洗面器に水を入れ、片方の手を水の中に入れ、他方は外に出しておく。10分後コントロールに比べ水の中に入れた手に紅班・膨疹・掻痒が出現すれば寒冷蕁麻疹と診断できる。また、薬剤性蕁麻疹の検査では1/20の量から内服していき、徐々に内服量を上げていってアレルギー反応が生じるかをみるようなことも行う。
[編集] 治療
(急性期)
- 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬を使用するのが一般的。
- 外用剤は、抗ヒスタミン製剤のレスタミン軟膏や、ステロイド外用剤が使用される。
- 発疹が強い場合、強力ネオミノファーゲンシーが奏功することがある。一般に「キョウミノ」と略され頻繁に使われる。
- 発疹が長時間断続的に次から次に出現する場合や症状がひどい場合、ステロイド剤を使用する。
- 血圧低下などのショック症状があれば、エピネフリン(商品名:エピペン)の注射が奏功する。
- 呼吸困難を合併していれば、気管挿管などの気道確保が必要である。
(慢性期)
- 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬を使用するのが一般的。
- 外用剤は、抗ヒスタミン製剤のレスタミン軟膏や、ステロイド外用剤が使用される。
- 難治性の場合、胃薬で使用されるH2ブロッカーが、抗ヒスタミン作用にも働き効果があることがある。
- 抗生剤や漢方薬などが使われることもある。医師・医療機関によって処方のされ方が異なるが、一定の効果を得ている場合もある。漢方としては、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)・酸棗仁湯(さんそうにんとう)・十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)がよく使われる。
- 慢性胃炎合併の場合ヘリコバクター除菌療法、慢性扁桃炎合併の場合扁桃摘手術を施行すると、蕁麻疹も治癒することがあり、行われることもある。
[編集] 頻度
一般に人口の15%~20%が一生のうちで一度は経験することがある。ただし、慢性蕁麻疹の頻度は非常に少ない。
[編集] 血管浮腫
蕁麻疹の一種に血管浮腫(クインケ浮腫ともいう)と呼ばれる病態がある。蕁麻疹と同様に皮膚の毛細血管の拡張と透過性の亢進によりおこる。蕁麻疹との違いは蕁麻疹が皮膚の表層で起こるのに対して、血管浮腫は深在性に起こるということである。死因はおもに喉頭浮腫による窒息死である。
[編集] 症状
- 真皮深層や皮下組織など深いところで炎症を起こし、一過性限局性の浮腫が生じることがあり、「血管浮腫」と言われる。特に口唇やまぶたに生じるのが典型的。蕁麻疹とは異なり、掻痒はなく、出現すると3~4日続くのが特徴。まれに、腸管にも浮腫を生じることがあり、その場合、消化器症状を伴う。
- 気道内にも浮腫を生じることがあり、この場合、呼吸困難を併発し、死ぬこともある。
[編集] 原因
降圧剤のACE阻害薬が原因のことがある。ACE阻害薬によりブラジキニンの産生が生じ、それが血管透過性の亢進を招くのが原因である。また、近年、アンギオテンシンII受容体拮抗薬でも生じる例も多く、注目されている。その他、遺伝性もあり、HANE(遺伝性血管神経浮腫)と呼ばれる。補体第一成分阻害因子(C1-INH)の先天的欠損である。この場合は補体の過剰な活性化により血中補体価の低下がおこる。
[編集] 治療
- 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬を使用するのが一般的。
- ステロイド内服薬も使用することも多い。
- 外用剤は、ステロイド外用剤が使用される。
- 血管浮腫に対しては、キニンの産生を抑制するためトラキネサム酸を使用することがある。
- 呼吸困難を合併していれば、気管挿管などの気道確保が必要である。
[編集] 特異的なアレルギーをする病態
- ラテックスアレルギー(Latex allergy)と呼ばれ、医療用の手袋に使われている天然ゴムの成分によってアレルギー反応を起こす病態がある。天然ゴムの原料となるゴムの木は、そのほとんどがHevea brasiliensisという種類であり、東南アジア地域に集中して栽培されている。ラテックスは、成長したゴムの木の幹に傷をつけそこから得られた白い樹液であり、多くの蛋白質が含まれている。ゴム手袋など最終製品にもこの蛋白質が残留しておりアレルギー反応を起こすものと考えられる。また、メロン・桃・栗などのフルーツに含まれる成分と交叉反応を起こすことがあり、フルーツアレルギーを合併するため、ラテックス・フルーツ症候群と呼ばれることがある。当然、患者のほとんどは、医師・看護師をはじめとした医療従事者である。二分脊椎症の人にも多い。主要アレルゲンは、Hevea brasiliensis proteins(b1~b10)まで同定されている。
- 食物依存性運動誘発性アレルギー(FDEIA food-dependent exercise-induced anaphylaxis)と呼ばれる病態がある。アスピリン薬剤・食物・運動の複合要因でアレルギー反応を起こすものである。原因食物として小麦・果物・エビが多い。特定食物摂取後、2~3時間後に運動するなどで生じ、アスピリン製剤の使用により誘発されやすくなるという。「学校教育において午後に体育の時間をなるべく設定しないように。」と、専門家が呼びかけている。小、中、高校生の1万人に1人程度の割合で発生しているとのこと(2006年調査)で、頻度は低くない。小麦の原因抗原はw-5グリアジン・高分子量グルテニンであることが分かっており、特異的IgEの検査が行える。
- 口腔アレルギー症候群(OAS oral allergy syndrome)という病態がある。果物や野菜などの植物性食品が、口腔粘膜へ接触することよりアレルギー反応を起こすものである。リンゴ・サクランボ・桃・キウイの頻度が高く、北・東日本ではシラカンバ花粉症を、西日本ではヤシャブシ花粉症を合併していることが多い。抗原が蛋白質ではなく糖鎖である。ラテックスアレルギーとの関連性がある場合がある。なお、スギ花粉との関連性についても研究中であるが、今のところ関連性は低いようである。