血液脳関門
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
血液脳関門(けつえきのうかんもん BBB; blood-brain barrier)とは、血液と脳(そして脊髄を含む中枢神経系)の組織液との間の物質交換を制限する機構である。これは実質的に「血液と脳脊髄液との間の物質交換を制限する機構」=血液髄液関門でもあることになる。ただし、BBBは脳室周囲器官(松果体、脳下垂体、最後野など)には存在しない。これは、これらの組織が分泌するホルモンなどの物質を全身に運ぶ必要があるためである。
[編集] 歴史
BBBの存在に最初に気づいたのは細菌学者のパウル・エールリッヒで、19世紀後半のことで、ある組織の染色実験中のときであった。この当時盛んに使用していた染料であるアニリンを使用して染色すると脳だけが染色されなかったためである。ただし、このときエーリッヒは、この現象を単に「アニリンの特性」としていた。
BBBの存在が決定的なものなったのは1913年のことで、エールリッヒの学生であったエドウィン・ゴールドマンが脊柱に直接染料を注入すると脊柱および脳は染色されるが逆にほかの組織は染色されないことを発見したためである。このとき両者との境界には膜のようなものは発見されず、血管がその役割を担っているものと推測された。これが証明されたのは走査型電子顕微鏡が発明された1960年代のことである。
[編集] 構造
従来は主として、毛細血管の内皮細胞の間隔が極めて狭いことによる物理的な障壁であるとされたが、中枢神経の毛細血管内皮細胞自体が特殊な生理的機能を有するのだという主張もある。分子量500を超える大きな分子(多くの蛋白質など)や、荷電しているイオンは、BBBがフルに機能していると、血液循環から中枢神経系の中に入ることができない。この働きにより、中枢神経系の生化学的な恒常性は極めて高度に維持されている。
但し、ある程度はリンパ球やマクロファージや神経膠細胞から放出されるサイトカインによってコントロールされ得る。このため、脳炎や髄膜炎のときはBBBの機能は低下する。また、膿瘍その他の感染巣形成や腫瘍といった、よりマクロなレベルの破壊を起こす疾患の存在によっても、BBBは破綻する。