サイトカイン
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サイトカインとは、細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものをいう。多くの種類があるが特に免疫、炎症に関係したものが多い。また細胞の増殖、分化、細胞死、あるいは創傷治癒などに関係するものがある。
ホルモンと似ているが、ホルモンは分泌する臓器があり、比較的低分子のペプチドが多い(しかし、サイトカインとホルモンは、はっきりとした区別があるものではなく、エリスロポエチンやレプチンなど両方に分類されることがある)。
また、リンパ球に由来するサイトカインを、リンフォカインということが多い。
一部は医薬品として用いられている。
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[編集] 一般的性質
サイトカインは分子量8から30kDaほどで、ピコモル程度の低濃度で生理活性を示す。
サイトカインは細胞表面の膜上にある受容体(それ自体がチロシンキナーゼまたはチロシンキナーゼと共役するものが多い)に結合して働き、それぞれに特有の細胞内シグナル伝達経路の引き金を引き、結果的には細胞に生化学的あるいは形態的な変化をもたらす。
[編集] 医学との関係
サイトカインは多機能的、つまり単一のサイトカインが標的細胞の状態によって異なる効果をもたらす。例えば免疫応答に対して促進と抑制の両作用をもつサイトカインがいくつか知られている。
またサイトカインは他のサイトカインの発現を調節する働きをもち、連鎖的反応(サイトカインカスケード)を起こすことが多い。このカスケードに含まれるサイトカインとそれを産生する細胞は相互作用して複雑なサイトカインネットワークを作る。たとえば炎症応答では白血球がサイトカインを放出しそれがリンパ球を誘引して血管壁を透過させ炎症部位に誘導する。またサイトカインの遊離により、創傷治癒カスケードの引き金が引かれる。
サイトカインはまた脳卒中における血液の再還流による組織へのダメージにも関与する。さらに臨床的にはサイトカインの精神症状への影響(抑鬱)も指摘されている。
サイトカインの過剰産生(サイトカイン・ストームと呼ばれる)は致死的であり、スペイン風邪やトリインフルエンザによる死亡原因と考えられている。この場合サイトカインは免疫系による感染症への防御反応として産生されるのだが、それが過剰なレベルになると気道閉塞や多臓器不全を引き起こす(アレルギー反応と似ている)。これらの疾患では免疫系の活発な反応がサイトカインの過剰産生につながるため、若くて健康な人がかえって罹患しやすいと考えられる。
[編集] 種類
サイトカインはすでに数百種類が発見され今も発見が続いている。機能的には次のように分けられる(ただし重複するものも多い)。
- インターロイキン(IL):白血球が分泌し免疫系の調節に機能する。現在30種以上が知られる。
- 同様に免疫系調節に関与するもので、リンパ球が分泌するものをリンフォカインという。また単球やマクロファージが分泌するものをモノカインということもある。
- ケモカイン:白血球の遊走を誘導する。
- インターフェロン(IFN):ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の機能を持ち、免疫系でも重要である。
- 造血因子:血球の分化・増殖を促進する。コロニー刺激因子(CSF:マクロファージを刺激)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、エリスロポエチン(EPO:赤血球を刺激)などがある。
- 細胞増殖因子:特定の細胞に対して増殖を促進する。上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)などがある。
- 細胞傷害因子:腫瘍壊死因子(TNF-α)やリンフォトキシン(TNF-β)など、細胞にアポトーシスを誘発する。これらは構造的にも互いに類似しTNFスーパーファミリーと呼ばれる。
- アディポカイン:脂肪組織から分泌されるレプチン、TNF-αなどで、食欲や脂質代謝の調節に関わる。
- 神経栄養因子:神経成長因子(NGF)など、神経細胞の成長を促進する。
また構造的な類似から、多くのインターロイキンやCSF、G-CSF、EPOなどをまとめてI型サイトカイン、インターフェロンやIL-10などをII型サイトカインともいう。
- コペンハーゲン大学医学部の教授(Bente Klarlund Pederson)により命名された[マイオカイン]と呼ばれる[運動因子]誘発型インターロイキン6の一種が、最近になって成長ホルモンを増量させる効果があると言われるようになってきた。
[編集] 歴史
後にサイトカインに分類されたタンパク質の中で、最初に見つかったのはインターフェロンで、1954年に長野泰一らがウイルス干渉因子として発見したものが最初の報告とされる。ただし、インターフェロンの名は、Aアイザックらが1957年に同様の因子を独自に発見したときに名付けたものであり、これが最初の発見とする研究者もいる。また1960年代にはEGFが、1960年代半ばにはマクロファージ遊走阻止因子(MIF)が発見される。ただし、この頃はまだサイトカインというカテゴリは存在していなかった。
1969年、ダドリー・デュモンド(Dudley DuMonde)が、これらの分子が、いずれも広義の白血球(リンパ球、単球、マクロファージを含む)によって産生されることに着目し、「リンフォカイン」(lymphokine:白血球を意味する接頭語 lympho- とギリシア語で「動く」を意味する kinein からの造語)と総称することを提案した。その後、白血球の種類によって、産生する分子に違いが見られることから、特にリンパ球系の細胞が産生するものは「リンフォカイン」、単球系(単球とマクロファージ)が産生するものは「モノカイン」(monokine:mono-は単球を意味するmonocytesに由来)と総称されるようになった。
1974年、スタンリー・コーエンらが腎臓培養細胞からMIF様因子を見出し、これまで白血球のみが作ると思われていたリンフォカインが、それ以外のさまざまな種類の細胞によっても産生されていることを発見した。このため、コーエンはリンフォカインに代えて「サイトカイン」(cytokine: cyto-は「細胞」を意味する接頭語)という名称を提案し、1980年頃までにはこの名称が受け入れられ、広く使われるようになった。