解離 (心理学)
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解離(かいり)とは起きた出来事が自らの認知の枠組みの囚われに合致しない場合にそれにまつわる観念や感情を無意識的に切り離すために起こる現象である。性的虐待など激しい心的外傷の結果防衛機制として働く機能である。
[編集] 概説
解離は通常の人間にも良く見られるものであり、通常の人間は白昼夢などの現象で現される。多くの心理学者は外傷性の解離現象を白昼夢などの健常な解離からの連続体として捉えているが、外傷性解離は通常の解離現象とは全く異なるという考えもある。外傷性の解離は取り込みの段階で失敗しているため、その記憶は曖昧な形でしか想起できないが、その記憶の形式がフラッシュバックという非常に特徴的な形で想起される。
この現象を初めに報告したのはジャン=マルタン・シャルコーであるらしい。だが、この用語はフランスの精神科医ピエール・ジャネが自らの書『心理自動現象L'Automatisme psychologique』(1889年)において用いた事で有名となった。その後、ジークムント・フロイトが抑圧の概念を発表した事で一時この現象は抑圧の特殊な現象として考えられた。この原因は心的外傷が現実のものでなければならないという前提があったため、ファンタジーとしたフロイトの考えと相容れなかった。だがジュディス・ハーマンなど精神分析を専門としない精神科医がこの用語を多用した事で復活した。
抑圧という概念は水平の壁という概念で表現される。この場合、無意識は意識と異なるためその水面下に沈んだ記憶は想起不可能である。だが、解離の場合それぞれの意識状態において異なった意識・無意識があり、解離は垂直の壁として表現される。精神分析における防衛機制で解離に似たものとしてはスプリッティングがある。メラニー・クラインは、よく出る乳とよくでない乳を同じものとして認識できないために起こる現象と考えた。しかしこの考えは対象像を分ける事により起こる現象であり、自らの自己像を分割する解離とは全く異なる現象である。
現在の脳科学や認知心理学は抑圧という概念は解離の一形式であるとみなしている。解離はケタミンなどの化学物質で引き起こす事ができる。解離の原因は自己誘発性催眠状態であると考えられ、その結果過去の事実を事実としては知りながらも感情としては全く感じないという現象が引き起こされる。外傷的解離は麻痺と侵入の二つの特性を持ち、文化的に意識に上らせてはいけない事象が象徴化されないまま記憶内部で保存されている。治療に関してであるが、解離現象は適応の能力も持つが肉体のフリーズという現象も引き起こすため、解離の病理自体は賛否両論である。また、トラウマ体験を思い出させるべきかどうかも意見が分かれる。