趣味
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- 人が仕事ではなく余暇を利用して活動すること、あるいはその対象。
- 美しいものや面白いものについての好みや嗜好。
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[編集] 趣味 (hobby)
趣味(しゅみ)とは、人が仕事にあてる以外の余暇や安息時間を利用し活動する事柄、あるいはその対象のこと。 これに類される行為は、娯楽を求めるべくして、自発的に何等かの活動に従事する人間の行動様式である。受動的なものもあるが、より能動的に何かを生産するものもある。特に当人が主観的に趣味と認識し得る活動であれば、それは趣味の範疇として扱われるが、他方では幾つもの様式化された趣味の形態が存在する。
なお比喩的に、実利的ではない人間以外の動物に見られる習性も趣味と呼ばれる一方、稀に趣味で行っているとしか思えない個体に特有の行動様式を持つ動物も見られる。
これらの活動ではしばしば、コストは一定の範囲内で重要視されない傾向もあり、その許容範囲も人によって様々である。中には、労働の対価で得た金銭を、ほとんどこれに費やすケースも見られる。
これを行うことによる副産物として対価が得られる場合もあるが、それが第一の目的ではなく、あくまでも自分の余暇の楽しみのために行われる。個人個人の意思を原動力として行うため、資金や対象が限定されることから、内容も限定される場合が多いが、逆にそのほとんどは採算を期待せずに活動されている事から、ある程度の収益が見込める活動にあっても、赤字状態で続けられる場合も見られる。
稀に裕福な向きの趣味として実利を追求せず擬似的・または本格的に店舗・商店を運営するケースも見られ、これらは(やや特殊な)趣味の範疇として認識され得る。
なにかの収集・観賞・製作など、個人単位で行う趣味もあるが、スポーツや文化・社会的活動など、多人数が集まって可能になる趣味もあり、多種多様である。
[編集] 趣味の社会的影響力
趣味で物事をする人のことを、プロフェッショナルに対してアマチュアと呼ぶことがある。趣味で行っているからといって、活動のレベルが低いとは限らず、社会的影響が極めて大きいものもある。特に、職業に結びつきにくい分野では、趣味で行われる活動が、その分野の主な進展を支えていることもある。例えば、趣味で発見された星や新種の動物(昆虫などの分野が顕著)・法則(かつては数学に顕著)・化石(古生物学分野)・遺跡(考古学分野)などが数多く存在している。
他方ではボランティアに依存している社会活動では、これら趣味によって支えられている物も少なくない。
[編集] 人と趣味と社会と
日本などでは他人の評価を行う場合、趣味を重視する傾向があるが、この趣味が当人の社会的な付加価値に繋がる場合も見られる。趣味はあくまでも当人の興味のある事柄であり、それ以上でも以下でもない。ただ、実際にはその種類によって社会性の評価に影響が出ることも多く、そのような影響を考慮して趣味を選択する人もいる。特に評価が高いと考えられている趣味をもつための文化教室(カルチャースクール)が存在し、一定の市場を有している。このような例としては、趣味の料理、スポーツなどがある。このような文化教室の存在は、一種のコンプレックス産業とみなすこともできる。
その一方で、一般に評価が高くない趣味をもつ場合は、当人に対するネガティブな評価にも繋がる事があるために、その趣味への関心を表面的に抑えるような行動が近年認められる。このような例としては、いわゆるおたく的趣味が代表的である。特にそのような趣味をもつ場合、趣味に附随する人格の評価が下がることがあるので隠蔽に必死になる者もいる。
このような近年の傾向とは別に、現代という時代では批判を受けやすい趣味も存在する。この例には狩猟等がある。これは生命を奪うという行為の内容により、人によっては一定のタブーを持つ場合においては評価を得ることが難しいためである。そのため、この件についても前述のおたく趣味と同様、悪評をおそれ、そのような趣味を持つことを隠す場合が認められる。
このように趣味の中には、時代、所属するグループ・地域、階層、年代、性別などによって評価が変る物もある。
[編集] 対価と趣味
通常、趣味は対価を求めないとは言えども、対価を求めて行う労働・職業を趣味と云う人もいる。これはある意味で幸せな事なのかもしれないが、その一方で趣味が邁進する性質の物である以上、対価を得ながら趣味に邁進できる場合には、歯止めを逸する傾向も見出される。
これが自虐的なユーモアとして「趣味:仕事」等という向きには、過労にさえ注意していればよい訳だが、本気で趣味が仕事である場合には、無理を押してその趣味に走るケースも見られ、仕事中毒として病的なワーカホリックとみなされる事もある。
また仕事はどうしても他があって成立する事象であるだけに、個人的な趣味・嗜好で仕事の方向を誤ると、仕事の他には相手にされなくなる危険性をも含む。何事も程々であろう。
[編集] 趣味 (taste)
美しいものや面白みのあるものについての好みや嗜好もまた趣味(taste, Geschmack)と呼ばれる。この意味での趣味や趣味判断、趣味の対象である美、美の表象である芸術についての哲学的な考察が美学と呼ばれる。
例えば、ドイツの哲学者イマヌエル・カントは、趣味判断について哲学的考察を加えた古典的著作の一つである『判断力批判』で「趣味は、一切の利害関心なしに、満足や不満によって対象あるいは表象様式を判定する能力である。そのような満足の対象は美と呼ばれる」(§5)という定義を与えている。
調度品など品物を選定する場合の美意識や審美眼などに対して「趣味がよい/わるい」などと評価する時の趣味はこちらの意味である。