転移性肝癌
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転移性肝癌(てんいせいかんがん)とは、他の臓器に発生したがんが肝臓に転移し、腫瘍をつくったものである。
主に消化器癌(胃癌・大腸癌・膵癌など)の転移が多い。これらの臓器を流れた血液は門脈を通じて肝臓に流れ込むため、血流に乗ってがん細胞が運ばれやすいと考えられる。
なお、疾患としての名称は原発腫瘍の名称で「○○の肝転移」と呼ぶべきであるが、発症頻度の多さと転移経路の共通性から、臨床的には「転移性肝癌」を1つの疾患概念のように扱うのが現実的である。
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[編集] 症状
特有の症状は存在しない。他臓器のがんを検査する過程で発見されることが多い。進行して腫瘍が大きくなると腹部にしこりを触れたり、黄疸、浮腫、全身倦怠感などが出現することがある。
[編集] 検査
画像検査が診断および治療方針の決定に有用である。これに腫瘍マーカーなどを加味して診断を確定する。診断がつかないときは肝生検を行う。
[編集] 血液検査
- 生化学検査
- AST(GOT):上昇
- ALT(GPT):上昇
- アルカリフォスファターゼ(ALP):上昇
- 乳酸脱水素酵素(LDH):上昇
- 腫瘍マーカー
[編集] 画像検査
- 腹部超音波検査:円形の低エコー域の中心に高エコー域があるという画像が特徴的である。目玉のように見えることよりbull's eye signと言われる。
- CT:不整形の低濃度領域として描出される。血流に乏しく、造影CTでは低濃度に描出される。
- MRI:T1強調画像では低信号、T2強調画像ではやや高信号に描出される。造影剤を使用するとリング状に描出される。
- 血管造影:血流に乏しく、造影されない“ヌケ”として描出される。
[編集] 腹腔鏡検査
肝臓の表面を観察する。転移性肝癌は内部圧が低いため、肝表面がへこんで見える「癌臍」が観察される。
[編集] 病理学的検査
[編集] その他
これらのほか、がんの発生元が見つかっていない場合は消化管内視鏡検査や消化管造影検査などを行い検索する。
[編集] 診断
原発性肝癌との鑑別が重要となる。画像検査や血液検査の結果を基に診断するが、診断がつかないときには肝生検を行い、腫瘍の組織型を確認する。
[編集] 治療
元のがんに応じた治療が行われる。たとえば胃癌であれば胃癌の治療が、乳癌であれば乳癌の治療が行われる。ほとんどのがんで肝臓への転移は遠隔転移、すなわちがんが全身へ広がった状態とみなされるため、全身化学療法が行われる。 ただし、大腸癌においては、原発巣(がんの発生元)がコントロールされ、かつ他に転移を認めない場合は、手術で切除することにより生存率が向上することが明らかになっており、肝切除術が行われる。 また動脈にカテーテルを留置し(「動注リザーバー」とよばれる)、化学療法を行うこともある。
[編集] 予後
転移性肝癌はがんの末期像であるため、転移性肝癌のみで予後は決まらず、元のがんの種類や進行状況が予後を決める。たとえば比較的化学療法が効きやすい乳癌では長期生存も期待できるが、膵癌では生存期間の中央値は6ヶ月程度に過ぎない。