配偶システム
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ある種の動物の雌雄が、ライフサイクルの中で、どれだけの数の異性と、どのように出会って交尾するかを表したものを「配偶システム mating system」という。システムの内容とそれに関わる戦略は、以下のようなものが知られている。
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[編集] 一夫一妻
特定の雄と雌が、一対一でつがい関係を持ち、子育てなどを行うことを「一夫一妻」という。
昆虫などでは、ある繁殖シーズンにおける交尾相手が、雄から見ても雌から見ても一頭だけで有る場合が当てはまる。
一夫多妻など他の繁殖システムと比べた場合、一夫一妻を「単婚 monogamy」といい、それ以外の配偶システムは「複婚 polygamy」とよぶ。
[編集] 一夫多妻
一夫多妻とは、雄が複数の雌と交尾する配偶システムである。雌をめぐる雄同士の激しい競争が生じ易く、競争に勝った雄が複数の雌を独占してしまう場合も多い。そのため、競争に負けてしまった、交尾が出来ない雄というのが出てきてしまう。
[編集] 資源防衛型一夫多妻
雌にとって必要な資源を雄が防衛する。その対価として、雄はその資源に集まってきた雌と交尾をするというものである。 防衛される資源は「なわばり」が代表的である。「なわばり」を広く持つことは、より多くの餌を確保すること、より広大な住処を持つことに繋がるからだ。
普通は一夫一妻で繁殖する生物でも、「A」という雄が雌一体に与える資源より多い資源を、「B」という雄が複数の雌に与える場合には、一夫多妻となるケースが知られている。
なお、配偶システムの分類を考察する際に「資源防衛型」と言う場合には、防衛される「資源」の中に、雌自体は含まれない。
この配偶システムを持つ生物の具体例としてシオカラトンボなどが挙げられる。
[編集] 雌防衛型(ハレム型)一夫多妻
資源防衛型のように、雄は防衛の対価として雌と交尾するのだが、雌防衛型では「資源」でなく「雌」自体が防衛の対象となる。
この配偶システムを持つ生物の具体例としてゾウアザラシなどが挙げられる。
[編集] レック型一夫多妻
資源とは特に関係の無い場所に集まった雄が、そこで小さな縄張りを作り、求愛のディスプレイを行う。このような行動をする雄たちを「レック」という。レックが求愛のディスプレイで自分をアピールし、雌を呼び寄せて交尾をするというのが「レック型一夫多妻」である。
レック型と呼ばれる配偶システムを持つものの中には、雄同士が特定の場所に集まらない場合もある。
たとえば、アオアズマヤドリの場合、雄が子育てには使用しない巣(あずまや)を作り、そこに雌を誘い込んで交尾をするが、こういう場合もレック型に分類される。
[編集] スクランブル交尾型一夫多妻
縄張りを作ったり何かを防衛したりはせず、雄はひたすら雌を探し回る。そして、雄は雌を見つけ次第、次から次へと交尾をしていくというものである。
雄が繁殖競争において優位に立つためには「いかに多くの雌と交尾するか」が重要な要素となるが、 それを行うことには「いかに早く雌を見つけるか」という探索能力の優劣も深く関わる。
繁殖期間が短く、集中して交尾に励む必要性がある動物は、この配偶システムになりやすい。 繁殖行動を行う場所において、競争相手となる雄が多すぎるため、資源の防衛を行うにはコストが掛かりすぎて割に合わないためである。
この配偶システムを持つ生物の具体例としてカブトガニなどが挙げられる。
[編集] 一妻多夫
雌が雄を巡って競争し、競争に勝った雌は雄と交尾する。子供が出来ると、雌は雄に子育てを任せ、次の雄を探すために立ち去るというものである。
この配偶システムを持つものは、一般的な動物に比べて、同種の集団における雄雌の立場が逆転しているという場合が多い。
この配偶システムを持つ生物は少ないため、調査はほとんど進んでいないが、一夫多妻と似たような区別があると考えられている。
この配偶システムを持つ生物の具体例としては、アカエリヒレアシシギなどが挙げられる。
[編集] 乱婚
雌雄が規則性なく不特定多数と交尾する場合を特にそう呼ぶ場合が多いが、規則性があっても、雌雄がそれぞれ複数の異性と交尾する場合にも、こう呼ばれる。
[編集] 条件付戦略 「スニーカー」
なわばりを持ったり、ディスプレイを行ったりして、雄が雌にアピールをする動物において、優位な雄に集まる雌を横取りしようとする雄を「スニーカー」とよぶ。「スニーカー(sneaker)」とは「忍び寄る者」「こそ泥」という意味の単語で、靴のスニーカーも同じ語源である。
トンボでは、ある雄が持つ縄張りのすぐ外に、別の雄が潜んでいて、縄張り目当てに飛来してきた雌を横取りして交尾するという行動が観察されている。
ヒキガエルでは、大きな声で雌を呼ぶ雄の近くに、別の雄が鳴き声を出さずに見つからないよう潜んでいて、雌を横取りして交尾するという行動が観察されている。
[編集] 参考文献
『日本生態学会編 生態学入門 東京化学同人 2004年8月26日発行』