高オクタン価ガソリン
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高オクタン価ガソリン又はハイオクタン価ガソリンとは、高オクタン価を謳い販売されるガソリンのことである。 この為、ハイオクタン価ガソリンを略してハイオクガソリンとも言われ、一般にはハイオクの名が流通している。しかし、一部ではプレミアムガソリンとも呼ばれており、ガソリンスタンドでもハイオクではなく独自のネーミングを使用する場合がある。
高オクタン価とは、石油燃料を内燃機関で燃やしたときに安定して燃える性能(ノッキングの起こしにくさ)を高めたものであり、燃えやすさや燃焼カロリーの高低とは関係がない。
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[編集] 規格
具体的には、日本工業規格(JIS)でオクタン価が96以上のガソリンという規格が定められているが、実際に市販されているハイオクガソリンの多くは98~100のものとなっている。参考として一部の元売り会社でハイオクガソリンの商品名に100という数字が付加されていたことがあったが、これはオクタン価100をアピールしたものであった。
[編集] 商品としての位置付け
ハイオクは、量販されるレギュラーガソリンと比べて差別化を図ることができるため、ガソリンの販売各社(ガソリンスタンド)としても高い価格で販売でき、大きな利幅を得ることができる。このため、ハイオクガソリンの商品開発・販売促進に熱心である。ハイオクと称して販売されているガソリンは、多くの場合レギュラーより発熱量が大きくなるよう設計したり、強化された清浄剤などの添加により付加価値を高め、「プレミアムガソリン」と銘打って販売される。一時期は高性能をイメージさせる映像表現や、「クリーン」「環境にやさしい」などと銘打った、ハイオクガソリンのコマーシャルが盛んに行われていたが、ハイオク指定の車種でなければ意味が薄い(後述)ためか、現在は派手なハイオクガソリンの宣伝活動は控えられている。
かつては、オクタン価を高める場合には、鉛化合物を入れてオクタン価を高めた「有鉛ハイオク」が主流だったが、1983年 出光興産と日本石油(現:新日本石油)が無鉛ハイオクを発売し、以降自動車用からは有鉛ハイオクは姿を消していった。
なお、1970年代までに製造された古い自動車では、エンジンの構造から有鉛ハイオクを必要とするものが多い(現在の無鉛ハイオクを入れると故障の原因になる)。
[編集] 使用する自動車について
- 輸入車 (主に欧州車)
- 高級車・高出力エンジンを搭載する車
を中心に、ハイオク指定のものが多い。国産車の場合2000ccクラス以下の多くの車種では、一部の高出力モデルを除きレギュラーガソリンで問題ないものが多い。アメリカではオクタン価91~93前後がいわゆるプレミアムガソリンとして位置付けられていることもあり、同国産の車を日本に持ってくる場合は日本国内で言うレギュラーガソリンを入れることになる。ただし正規輸入の際に仕様変更を受けている場合はこの限りではない。
[編集] 各車種との組み合わせ
[編集] レギュラーガソリン仕様車にハイオクを入れた場合
一般的に高性能エンジンはハイオクガソリン仕様であるため、レギュラーガソリン仕様でもハイオクガソリンを入れれば出力が向上すると勘違いしている者もいるが(かつて、盛んに行われたハイオクガソリンの広告宣伝活動の影響が強い)、それは誤解である。
ハイオクガソリンは本来、出力を上げるための燃料ではなく、圧縮比が高いハイオクガソリン仕様のエンジンにおいて、ノッキングの発生を防ぐためにオクタン価を高めた燃料であり、もともと圧縮比が低く、ノッキングを起こしにくいことに加え、現在生産されている自動車用エンジンのほぼ全てには、ノッキングの発生を感知し、それを最小限に抑えるように補正する装置が装備されているため、ハイオクガソリンを入れたとしても、ノッキングによるロスの減少などはない。むしろ、レギュラーガソリン仕様車は、設計段階からレギュラーガソリンで最適に燃焼行程が行えるよう、高度にセッティングされているため、本来メーカーが想定していたオクタン価以上は無駄になる可能性が高い。また、ハイオクガソリンに含まれている添加剤による清浄機能の効果があるという説があるが、長期にわたって入れ続ければ、汚れが付きにくいであろうと言う程度の効果しかない。また清浄剤は、もともとオクタン価を上げた結果エンジンを汚しやすい性質になってしまった対策のために入れられたものであり、それを目的に使うのは意味が無い。
ただ、ハイオクガソリンを入れるメリットがほぼ期待できないとはいえ、問題になることは無い。よって、レギュラー仕様エンジンには、機械的な観点からはどちらでもかまわないと言える。
[編集] ハイオク仕様車にレギュラーガソリンを入れた場合
前項とは逆に、ハイオクガソリン仕様車にレギュラーガソリンを入れた場合、出力と燃費が確実に悪化する。車種にもよるが、出力は実測で5~30%程低下する。また、深刻な故障の原因にもなり得る。しかし、メーカーはレギュラーガソリンを入れることを事前に想定したエンジンも多数出しており、その場合は故障の危険までは無いと考えてよい。この場合はECUにレギュラーガソリンを入れた時のプログラムが入力されている。レギュラーガソリンを入れた時には、自動的にそのプログラムが作動する仕組みとなっている。ただし、国産車でも“ハイオクガソリン専用”を謳うエンジンは存在するので、ここは注意が必要である。ハイオク専用のエンジンにレギュラーガソリンを入れれば、当然深刻な故障につながる。この場合はハッキリと「レギュラー禁止」なのである。ハイオク仕様・ハイオク指定・ハイオク専用などいろいろあるが、レギュラーガソリン可のハイオク仕様エンジンだとしても、長期的に見ればノッキングによる弊害が生じる恐れがあるため、ハイオク指定車種へのレギュラーガソリンの常用は控えた方が無難である。この場合、レギュラーガソリンで走れるといっても、何らかの理由によりレギュラーガソリンしか入手出来ない場合に、改めて指定ガソリンを入手するべく自走可能にするための措置と考えたほうが無難である。
近年ノックセンサー等が発達し、燃料の噴射や点火のタイミングをずらすなどの補正が行われ、ノッキングが生じにくくなってはいるが、古い車種ではノックセンサーで補正しきれずアイドル不安定・エンストなどの事例も報告されている。また、レギュラーガソリンを入れた場合、ノッキングの発生などによるエンジンの過剰な加熱による破損を防ぐために、燃料を増量させ、ピストンを加熱させないプログラムへと変更される。燃費が悪化するのはこのためである。これらのことを勘案すると、レギュラーガソリン仕様車でも、ハイオクガソリン仕様車でも、ガソリンは自動車メーカーが指定した物以外を使用するメリットは乏しいといえる。
もちろんハイオクガソリン仕様車で、チューニングショップによる現車合わせにより燃調をギリギリまで詰めたECUを使用したり、圧縮比を著しく高めた場合は、レギュラーの使用は論外である。この場合、わずかにオクタン価が低下すると、ノッキングやピストン棚落ちなどのトラブルに直結する場合があり、レギュラーガソリンは絶対に禁忌である。最近では、ECUの書き換えによるトラブルを防ぐために、メーカー側がECUを容易に改竄できないように対策を取っている。
[編集] オートバイの場合
自動車とは違い、一般にオートバイはノッキングセンサーを備えていないケースが多い為、ハイオクガソリン仕様車にレギュラーガソリンを入れる事は望ましくない。ほとんどの車体は即事故に繋がるような事態は発生しないよう設計されているが、例えばエンジン出力を上げるような改造を行っている場合には、エンジンの破損による走行安定性の喪失等、危険な場合もあるので注意しなければならない。圧縮比が12:1を超えるような場合には、レギュラーガソリンは使用しないほうが好ましい。
二輪車では特殊な一部の車種を除いて、一般的には、レギュラーガソリンで問題ないものが多いが、レギュラーガソリン仕様車の取扱説明書に「もしもノッキング(またはピンギング)が起こるなら、異なるブランドのガソリンか無鉛プレミアム(ハイオク)ガソリンを使え」と言う記述のあるものもある(ヤマハの海外モデル)。
[編集] その他
発電機やチェーンソーなど、自動車や二輪車以外のガソリンエンジンの燃料も、レギュラーで良く、特にハイオクを入れる意味はない。
[編集] その他注意点
元売の系列に属さないガソリンスタンド、いわゆる「無印スタンド」は、元売の余剰在庫である業転玉(ぎょうてんぎょく)と呼ばれる業者間転売品のガソリンをノーブランドとして供給するので、元売の系列に属するスタンドと比べ数円/L安いことがある。しかし、無印スタンドでハイオクガソリンを入れるのは好ましくないといわれている。理由は、業転玉はいくつかのタンクやタンクローリーを渡り歩くことは日常茶飯事で、その結果さまざまなメーカーのものが混ざり合うことになるからである。特にハイオクはこれらの過程で劣化が進むことから、品質に問題がある場合が多い。ひどいものではハイオクにレギュラーを混ぜてハイオクとして売る悪徳業者もある。また、元売の看板を出しているスタンドでも、元売の名前がないタンクローリー、いわゆる「無印ローリー」が日常的に出入りしているスタンドは同様に注意が必要である。