Gタンパク質
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Gタンパク質はグアニンヌクレオチド結合タンパク質の略称であり、セカンドメッセンジャー・カスケードに関連するタンパク質のファミリーである。細胞内の生化学的反応を切り替える「スイッチ」としてグアノシン二リン酸(GDP)をグアノシン三リン酸(GTP)へ替えるためこの名がついている。これを発見し調査したアルフレッド・ギルマン(Alfred Gilman)とマーティン・ロッドベル(Martin Rodbell)は1994年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
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[編集] 性質概要
Gタンパク質はGTPアーゼという大きなグループに属している。「Gタンパク質」と言えば大抵は膜受容体関連ヘテロ三量体Gタンパク質(「大きな」Gタンパク質:全体の分子量は100kDa前後)を指す。これらのタンパク質はGタンパク質共役受容体により活性化され、α,β,γサブユニットからなる。
そのほかにrasの様な「小さな」Gタンパク質、つまり低分子量GTPアーゼ(分子量は20から30kDaほど)もあり、単量体で膜と結合していないが(ただし疎水性のアンカー[碇]分子と結合することで膜に局在するものはある)、やはりGTPおよびGDPと結合してシグナル伝達に関連する。
Gタンパク質はもしかすれば細胞で最重要なシグナル伝達分子かもしれない。実際、糖尿病、アルコール依存症、ある種の下垂体がんなどの様な疾病はGタンパク質の機能不全によるものであると考えられ、したがってそれらの機能、シグナル経路、タンパク質相互作用の基本的な理解により、治療や様々な予防措置につながる可能性が期待できる。
[編集] 受容体活性化Gタンパク質
受容体活性化Gタンパク質は細胞膜の内表へ結合し、Gα及び固く結合したGβγサブユニットから成る。リガンドがGタンパク結合受容体を活性化するとき、Gたんぱく質は受容体と結合して、持っているGDPをGαサブユニットから切り離し、GTPの新しい分子と結合する。この交換により、Gαサブユニット、Gβγ二量体、受容体がそれぞれ分離する。Gα-GTPとGβγのそれぞれ別の『シグナリング・カスケード』(つまりセカンドメッセンジャー経路)とエフェクタータンパク質を活性化、その一方で受容体は次のGタンパク質と反応できる。Gαサブユニットは最終的にその固有の酵素活性により結合したGTPをGDPへ加水分解することで、Gβγと結合して新しい周期を始める。
Gタンパク質が引き金となるシグナリング・カスケードのよく特徴付けられた例としてcAMP経路がある。アデニル酸シクラーゼという酵素はGαs-GTPに活性化され、セカンドメッセンジャー環状アデノシン一リン酸(cAMP)をATPから合成する。セカンドメッセンジャーはそのとき他の下流のタンパク質と反応して細胞の様子を変える。
[編集] αサブユニット
GαサブユニットはGTPアーゼドメインとαヘリックスドメインの二つのドメインから成る。少なくとも20種類のαサブユニットが存在し、下の様なファミリーに分類される:
- GαsまたはGs(刺激) - アデニル酸シクラーゼを活性化してcAMP合成を増加
- GαiまたはGi(抑制) - アデニル酸シクラーゼを抑制
- Golf (嗅覚) - 嗅覚受容体と結合
- Gt (トランスデューシン) - 網膜のロドプシンと結合して視覚シグナルを伝達
- Gq - ホスホリパーゼCを刺激
- G12/13ファミリー - 細胞骨格、細胞間結合や他の動作に関連する過程を調節
[編集] βγ複合体
β及びγは互いに固く結合しており、Gβγ複合体と呼ばれる。Gβγ複合体はGαサブユニットから、GDP-GTP交換の後に放出される。自由になったGβγ複合体は他のセカンドメッセンジャーを活性化させたり、直接イオンチャネルを開閉することで、それ自体シグナル分子として働くことができる。例えば、Gβγ複合体はヒスタミン受容体と結合するとホスホリパーゼA2を活性化できるGβγ複合体はムスカリン性アセチルコリン受容体に結合し、一方で直接、内向き整流性カリウム(GIRK)チャンネルを開く。
[編集] 参考文献
- Kandel, Eric, James Schwartz, and Thomas Jessel. 2000. Principles of Neural Science. 4th ed. McGraw-Hill, New York.
- Voet, Donald and Judith G. Voet. 1995. Biochemistry 2nd ed. John Wilely & Sons, New York.