K-T境界
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K-T境界(ケイ・ティーきょうかい)とは地質年代区分の用語で、約6500万年前の中生代と新生代の境目に相当する。生命誕生以来何度か発生した大量絶滅のうち最新の事件で、恐竜を代表とする大型爬虫類が絶滅したことで有名。
白亜紀(Kreide:ドイツ語 英語で頭文字がCのものが多いためあえて用いられる)と新生代第三紀(Tertiary)の境目なのでK-T境界と呼ばれている。
K-T境界では直径約10kmの巨大隕石がユカタン半島付近に落下したことが判明している。この隕石落下は生物相変化をいっそう促進したと考えられるが、その影響の大きさについては諸説ある。
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[編集] 大量絶滅
中生代は恐竜に代表される大型爬虫類が、地上のみならず空中(翼竜)や海中(首長竜)でも繁栄していた。K-T境界ではこれらの大型爬虫類の多数が絶滅した。爬虫類の系統で生き残ったのは、カメ、ヘビ、トカゲ、ヤモリなどの比較的小型の種類とワニ。恐竜直系の子孫である鳥類も絶滅を免れた。海中ではアンモナイト類が姿を消した。これらの生物がいなくなった後に哺乳類と鳥類が進出し、現在の生態系が形成された。陸上植物では中生代に繁茂したソテツ類などの裸子植物が減少し、被子植物が主体となった。但し植物相の変化は、動物の大量絶滅より早く起こった(白亜紀後半)と考えられている。
[編集] 地球気候の変化
中生代を通じて地球の気候は温暖であった。当時の爬虫類の分布から想定して、平均気温は現在より10~15℃程度高かったと考えられる。原因として大気中の二酸化炭素の濃度が現在よりも高く、温室効果が大きかった事があげられる。中生代は火山活動が比較的活発で、火山ガスによって二酸化炭素が大量に大気中へ供給された。中生代の二酸化炭素濃度は現在(0.03%)の10倍以上あったと推定されている。中生代に繁栄した恐竜を代表とする生物種は、この高温に適応した生物であった。しかし白亜紀末期には気温が徐々に低下し始めていたため、隕石落下前の地層から発見される化石では、大型恐竜やアンモナイト類の種の数が減少していた。
[編集] 巨大隕石落下の証拠
K-T境界では、上記のように直径約10kmの巨大隕石が落下した。落下地点は現在のメキシコユカタン半島の北西端チクシュルーブで、落下により直径100km以上、深さ15~25kmのチクシュルーブ・クレーターが形成されたことが確認された(写真参照)。
隕石本体は地上の鉱物よりもイリジウムを多く含有していていたため、地表全体に飛び散った破片や降下物は日本を含む世界各地でイリジウム濃縮層として観察される。また落下地点周辺では落下の衝撃による発熱で地表の岩石が融解して飛び散ったことを示すガラス質の岩石テクタイトが見つかっている。また落下地点は当時浅海域だったと推定され、隕石落下による巨大津波を示す堆積物も見つかっている。
[編集] 想定されるシナリオ
大量絶滅の主原因は、巨大隕石の落下による環境急変とする説が広く知られているが、その他に大陸の移動による気候変動、植物相の変化による動物の餌の不足、などいくつかの説があり、まだ結論は出ていない。
大量絶滅の原因が巨大隕石の落下であった場合に想定されるシナリオは次のようなものである。
- 隕石本体は衝撃による発熱で気化蒸発し、塵となって大気中に広がった。
- 落下海域では巨大津波が発生し、津波は全世界の海岸を襲った。
- 落下地点の岩盤は高熱により融解し周囲に飛び散った。落下の衝撃により周辺の岩盤が破壊され巨大なクレーターが生成した。クレーターの形成時に大量の岩屑が空中に舞い上がった。
- 大気は塵によって不透明となり日光が地表に届かなくなって、地表が寒冷化した。
- 大気中に舞い上がった岩石中に含まれていた硫黄分が酸性雨を降らせた。
- 環境の激変に適応できなかった多数の生物が死滅した。
[編集] 顕生代の内訳のグラフ
地質時代区分表は地質時代を参照。
- 上段:左から、古生代、中生代、新生代を示している。
- 下段:カンブリア紀から第四紀までを紀ごとに示している。(右端の第四紀は見えにくい可能性がある。)
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[編集] 参考図書
- 『絶滅のクレーター―T・レックス最後の日』ウォルター・アルヴァレズ(Walter Alvarez)新評論 ; ISBN 4794803338 1997年
- 『最新恐竜学』平山廉 平凡社新書 ; ISBN 4582850111 1999年