せん馬
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馬の去勢は、馬を家畜化した頃から行われていたとされている。遊牧社会では家畜としての馬の数を調整するために繁殖用の少数の馬を除いて牡馬には去勢が行われる。また、軍馬においても気性を抑えて扱いやすくする、敵に奪われても繁殖に使えなくする、 発情期に興奮させないなどの理由で牡馬は去勢されていた。ただし、日本においては明治になるまで牡馬を去勢する習慣が存在しなかったとされる。これは、自然に人が手を加えることを潔しとしない、自然繁殖で野生化した放牧馬の捕獲が行われ、馬においては品種改良の概念が存在しなかった、気性の荒い馬を乗りこなしてこそ侍であるなど、日本独特の精神風土が影響するようだ。
[編集] 競馬における去勢
競馬界においては、気性が荒いなどの理由で成績が上がらない牡馬に対して去勢が試みられることがある。せん馬になると当然ながら種牡馬になることができなくなる。そのため種牡馬や繁殖牝馬の選定レースとして定められている競馬のクラシック競走などには出走できない取り決めをしている国も多い。また、日本では天皇賞や朝日杯フューチュリティステークスなどの競走にも出走できないなどの制限がある(朝日杯フューチュリティステークスについては2004年度からの措置)。なお、天皇賞や3歳クラシック競走以外のせん馬出走不可の競走(上述の朝日杯~やNHKマイルカップなど)では「繁殖馬の選定」を明確に謳っているわけではないにもかかわらずせん馬の出走を排除している。せん馬にすると競走馬としての寿命が長くなると言われている(気性の荒さは復活することもある)。ただし、せん馬は種牡馬になれないためか酷使されることが多く、故障率は下がらないかむしろ悪化することもある。
せん馬にする年齢は2歳か3歳のまだ若い時期が多く、去勢の効果もそのころが一番大きい。年をとってから去勢しても効果はあまりない(そもそも競走馬のピークを過ぎている場合がある)。
なお牝馬はどんなに気性が荒くても去勢することはない。牝馬の去勢に気性改善の顕著な効果があるとは考えられていないことと、あまりよい成績を残せずに引退しても、仔を産むための繁殖牝馬になる道があるためである。
日本におけるせん馬の名馬には、ジャパンカップを勝利したレガシーワールド、マーベラスクラウン。マイルチャンピオンシップを勝利したトウカイポイントなどがいる。海外では、GIレースを16勝したアメリカ合衆国のジョンヘンリーなど歴史的な名馬も存在する。
香港やシンガポールで調教されている競走馬には騸馬が多いが、これらの地域では国土面積が小さいこともあってサラブレッドの生産拠点が無いため、繁殖の意識が薄いと言われている。また、オーストラリアやアメリカ合衆国も騸馬は多い。2005年当時、香港で最強のスプリンターだったサイレントウィットネスも、2000年に日本で安田記念を制したフェアリーキングプローンも騸馬である。
[編集] 漢字表記について
「騸」は常用漢字に含まれておらず、また、JIS X 0208に収録されていないため、せん馬、セン馬と書かれることも多い。「騙馬(へんば)」と書かれることもあるが、これは誤りである。騸馬の「騸」は馬へんに扇(U+9A38)である。「騸」はUnicode、JIS補助漢字に収録されている。